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夏に現れたきみへ7
第7章「きみのいない夏を」
八月最後の日。空は深い青に染まり、雲ひとつない。
澪は病室のベッドで静かに眠っていた。
陽翔は澪のそばで、彼女のノートを開いていた。
そこには、震える文字で何度も書かれていた。
「風間陽翔くん、好き。忘れたくない。忘れたくない。忘れたくない」
何ページにもわたって、彼女の「好き」が綴られていた。
陽翔はそっと、その手を握った。
「俺はずっといるよ、澪。お前が全部忘れても、俺が全部覚えてる」
澪はうっすらと目を開け、微笑んだ。
「……陽翔、くん……」
それが、彼女が最後に呼んだ名前だった。
数日後。夏の終わりと共に、澪は静かに旅立った。
教室の机に置かれていた一冊のノートには、最後のページにこう書かれていた。
「陽翔くん。ありがとう。この夏は、ちゃんと、恋をしていました」
「私の中の記憶が消えても、この空の色に、あなたが重なって見えるなら、それでいいの」
陽翔は澪のいない日々を、澪がいたように生きていた。
秘密基地にもひとりで行った。あの日と同じ夕焼けが、空を染めていた。
「澪、今でもお前の声が聞こえる気がするよ」
彼は空を見上げながら、そっと目を閉じた。