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2.ゴールデン
学園に入学してからも、『ペルソナ』の日々は続いていた。
学園の寮は個室だったため、人目を気にせず自分の時間を過ごすことができた。
母親から借りたSwitchを取り出し、『ペルソナ3 ポータブル』を起動する。
一度クリアしたはずの物語なのに、不思議と新しい発見があった。
「コミュニティ」や、選択肢ひとつひとつが、罪木に温かさをもたらしてくれる。
二周目に入ったのは、単純にゲームを隅々まで楽しみたいという気持ちもあったが、それ以上に、この物語の世界に少しでも長く浸っていたいという、切実な願いがあったからかもしれない。
そんなある日、久しぶりに実家に帰ると、母親が笑顔で言った。
「蜜柑。もう、ママはあまりやらないと思うから、これ、やってみたら?」
差し出されたのは、キラキラと輝く鮮やかな黄色が印象的なパッケージ…
『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』だった。
「えっ、!?いいんですか…?本当に…?あの…わ、私なんかが!」
罪木は驚きと感動で、いつものようにどもりながらも、受け取った。
初めてプレイする、憧れの『ペルソナ4』。
彼女は迷うことなく、主人公の名前を「|罪木《つみき》 |音《おと》」と入力した。
『音』という名前には、自分の声がもっと遠くまで届くように、そして、誰かに耳を傾けてもらえるように、そんなささやかな願いが込められていた。
ゲームを進める前に、罪木はさらに大胆な行動に出る。
「お、お母さん…!よかったら、この本…貸してもらえませんか…?」
それは、分厚い『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』の完璧攻略ガイドブックだった。
少し誇らしげな笑顔で、その攻略本を罪木に手渡してくれた。
それからの罪木は、まるで別人のようにゲームに没頭した。
攻略本を片手に、どの選択肢を選べば「コミュニティ」が効率よく進むのか、どのスキルを継承させれば最強の『ペルソナ』が作れるのか、隅から隅まで研究した。
まるで、自分の人生を懸命に攻略しているかのように。
「誰の教育なんだか…」
ある日、母親がそう呟いたとき、罪木は少しだけ胸が温かくなった。
それは、どこか微笑ましく、愛おしい響きを持っていたからだ。
「えへへ…お母さんの教育、ですか?」
罪木が恐る恐るそう尋ねると、母親は困ったように笑いながら、
「あなたをこんな立派なオタクに育てたのは、ママのせいかもしれないわね」
と答えた。
罪木は初めて、自分の好きなもの誰かに受け入れてもらえたような気がした。
『ペルソナ』の世界は、もうひとりの自分を育んでくれた。