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最期のひと時
静寂が支配する夜の帳(とばり)の中、私はただ一人、押し寄せる後悔の波に身を浸していた。
私の傍らには、かつて守るべき存在として最愛の人がいた。
しかし、その人は三日前にこの世から去った。
事故という理不尽な運命によって奪われた彼の最期は、「子供を助ける」という高潔な自己犠牲によるものだった。
誰かを救うという行為は、本来であれば称賛されるべき美しいことである。
それなのに、私は彼を見送る際、心の底から湧き上がるどす黒い感情に打ちのめされた。
「なぜ、あんなことをしたの?」と問い詰めたくなるような憤り。
それは彼の献身を否定するものではなく、彼を失った絶望が生んだ、あまりにも醜く最低な感情であった。
一度でいいから会いたい。
ただ顔を見たい。
言葉を交わしたい。
これまでの不甲斐なさを謝りたい。
そして何よりも、「ありがとう」という感謝の言葉と、胸に秘めていた「好き」という想いを伝えたい。
もっと早く言えばよかった。何度も勇気を振り絞り、告白しようと試みたことがあった。
しかし、その度に恐怖が勝り、私は臆れて逃げ出した。
結局、何も伝えられないまま彼は逝ってしまったのだ。
このような私を、彼はどう思っているのだろうか。
自責の念に押しつぶされそうになったその時、耳朶を揺らすほど柔らかな声が響いた。
「ねぇ、君の気持ちを今聞きたい」
心臓が跳ね上がった。
それは聞き覚えのある、あまりにも優しい声だった。
振り返れば、そこには死んだはずの彼――ユウの姿があった。
「え……?」
「ごめんね。気持ちを聞く前にいなくなってしまったこと」
彼の言葉に、私の視界は涙で滲む。
「ユウ……なの?」と問いかける私に、彼は穏やかに微笑んだ。
「そうだよ」
「謝らないでよ。伝えるのが遅かった私が悪いんだし……」
「ううん。俺ももっと早く聞きに来ればよかったね」
彼の言葉は、私の罪悪感を優しく包み込んだ。
私は溢れ出す涙を抑えきれず、震える声でようやく最期の告白を口にした。この二年間ずっと、好きだったのだと。
ユウは静かに頷いた。
「うん、ありがとう。君との二年間を無駄にしたくないんだ」
「……それって、どういうこと?」
彼の瞳には、現世の光とは異なる切実な輝きがあった。
彼は私の目を見つめ、魂を込めて語りかけた。
「伝えきれなかった想いを聞いてください。君を見たその時からずっと、好きでした」
互いの想いが交錯した瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
私たちは言葉にならない嗚咽の中で、ようやく届かなかった真実を共有した。
そして彼は、あり得ないはずの提案をした。
「こんな俺だけど……死んでしまった俺だけど、付き合ってくれませんか……?」
その問いに、私は迷わず答えた。
「……はい!喜んで……」
私たちは想いを伝え合い、魂の結びつきを確認した。
しかし、この奇跡のような再会には終わりがあることを、彼は知っていた。
日付が変わるまで残り三分。
時が満ちれば、彼の姿は完全に消え去り、二度と現れることはない。
ユウはその事実を私に告げなかった。
ただ、最後の三分間だけを預かり、最後にもう一度だけ彼を抱きしめるための時間を確保したのだ。
「……もう、行かなくちゃ」
彼の声は震えていたが、その表情には安らぎがあった。
姿が見えなくなっても、魂の叫びとしての声なら届くことを彼は知っていたからだ。
残り一分。
彼の手の温もりが消えゆく。
私は彼を強く抱きしめた。
体温が薄れていく感覚とともに、彼の最後の言葉が耳元で囁かれた。
それは別れの言葉ではなく、永遠に続く愛の誓いだった。
時計の針が重なり、日付が変わった瞬間。
私の腕の中にあったはずの温もりは消え去り、部屋にはただ静寂だけが残った。
しかし、私の胸の中には彼から託された「好き」という想いが、消えることのない灯火のように鮮明に刻まれていた。
え?
泣いたのって私だけですか?
やっぱ、書いてても泣くもんだな〜。