公開中
麻ッチ売りの少女事象
「ねぇ、聞いてよ、今日さー………」
「どうした?|未来《みく》」
いつも家に帰ると、彼が居てくれる。私はそれだけで、とても安心できた。
彼の名前は、|幻野《げんや》。
ある日、私は幼なじみに告白をして振られてしまった。どうしようもなく悲しくて、誰にでも良いからこの思いをぶつけたい気分だった。
それから私は彼と共に暮らすようになった。
今まで私は、高校生だけど一人暮らしだったから、住人が増えて少し嬉しい。
彼が誰なのかはどうでも良い、私が頼れるのは、私と………
その時、スマホが大きく1回、震えた。親友の真奈からだ。私が頼れるもう一人の人。
『おはよーみく!ちょっと今日みくに会いたくなっちゃって』
『遊びに行っていい?』
『今家出たよ!』
「まなが遊びに来てくれるって!一緒に準備しようか、げんや!」
「そうだね、未来」
---
机の上に、押し入れにしまってあったマカロンを数個置いたのと同時に、玄関のインターホンが鳴った。
(あれ、いつもよりちょっと早いな)
不思議に思いつつ、玄関の戸を開けると、そこにはいつもの親友の姿があった。
「まな~、久しぶりー!」
「私も会いたかったよ、未来!」
「まあまあ、とにかく上がってー!お菓子とか用意してるから!」
「え、が!?ありがとー!」
そうこう玄関でやりとりをしてから、二人でリビングへと移動する。部屋に入った瞬間、まなの視界にげんやが入る。
「え、あれ誰!?めっちゃイケメンなんだけど、」
「ああ、げんや?この前から一緒に住んでるんだよね」
「え、実質カレじゃん!いーな~」
「いーでしょー」
「あ、マカロン!私好きだって覚えててくれたの!?」
「いや、家にたまたまあっただけだよ」
「えー、じゃあー、私このストロベリー貰うね!」
「あ、ずるっ」
その時、玄関でインターホンが鳴った。
(……え?)
インターホンのモニターには、今リビングにいるはずの親友の姿が、確かに映っていた。
---
「あ、やっほーみく!」
「……あなた…誰?」
「え?まなだけど、みく、昔から物覚え悪かったけど、流石にそれは…」
「違う」
「ん?」
「まなは今うちにいるの…!なんでそんな」
「未来、どうかした?」
声を張り上げた瞬間、げんやが私の後ろに姿を現す。
「あ、げんや、聞いて…っ、私…」
「みく……げんやって誰…?てか…」
「そこ誰もいないじゃん」
「……えっ?」
「みく、いい加減目を覚ましてよ!私がまな…なの!お願い、信じて…!!」
「げんや…どうしよう…」
目の前で叫ぶ自分の親友の姿をしたモノを視界の端に置いて、私はげんやを頼る。
彼はゆっくりと顔を近づけて言った。
「未来、そこにいるのは君の親友の偽物だ。偽物は壊せば消える」
「壊……せば…?」
「そうだよ、未来、すぐやって。早く」
いつのまにか、まなも共に私を急かす。
「ねえ、みく…さっきから何を言って」
いつの間にか、右手に包丁が握られている。私はその包丁を両手で握り締めた。ぎりぎりと手が音を立てたが、不思議と痛くは無かった。
ゆっくりと前に、刃を向ける。震える私の手に、そっと二人分の手が重なる。
思いの外、あっさりと終わった。凶器を引き抜くと、臙脂色の生暖かい液体が私の手を濡らした。
「やっちゃった…」
偽物だとしても、罪悪感はとてつもなくたくさん感じていた。
「どうしよう、げんy」
げんやの方を困った顔をして振り向く。
そこには、げんやはいなかった。
身につけているものは変わらない。げんやがさっきまで着ていたTシャツに、ジーパン。
でも、その顔が大きく歪んでいた。
パイナップルのような歪な表面に、数え切れないぐらいの目と、大きく裂けた口が貼り付けられていた。
「げん……や……?」
`「どうカシた?末ク」`
今までのような爽やかな声じゃない、底なし沼の中から聞こえてくるような、ごぼごぼと、汚い声。
「ま、まな……!助け」
まなの方を見る。でも、まなもげんやと同じように、歪んだ輪郭と歪な顔を持っていた。
ふと、さっき刺した、まなと名乗る人物を見る。
赤く染まった《《それ》》は、未だにかつての親友の原型を留めていた。
こうして、私は一人ぼっちになった。
『えー、続いてのニュースです。先ほど午後2時ごろに、〇〇町の一戸建てで2名の20代女性の遺体が見つかりました。遺体は、現場に住んでいた渚未来さんと、その友人の川上真名さんだと思われるものとなっており、それぞれ刃物で刺されたような傷が残っていました。現場には凶器と見られる包丁が置かれており、未来さんの自室と見られる場所やリビングには大量の腐敗した食べ物が落ちていました。
近隣住民への取材によると、未来さんはこの頃、近くの公園のベンチに座って、ひとりごとを呟き、時には人に何かを食べさせるような仕草で自身の側に食べ物を落とす行為などが見られていた、ということがわかりました。取材内容や、遺体発見時に未来さんが酷くやつれていたことなどから、専門家に話を伺ったところ「疲労によって架空の友人を作り上げ、さも共に暮らしているかのように錯覚していたのではないか」とみられる、とおっしゃいました。
引き続き、警察が捜査を続けていくとのことです。
………はい、続いては天気予報で____』