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赤鼻のトナカイ
綺羅びやかなネオン街。夜であるというのに、ひどく眩しいそれは太陽のように感じられるが、暖かさなどはなく冷たい憎悪が蔓延っている。
それでいて、凍える寒さがようやく立った蝋燭を吹き消すように強く当たる。
居酒屋の結露した窓を拭き、現れた中年の女性。頬はほのかに赤く、瞳はとろんとして酔いが回っていることが分かる。しかも、鼻は丸く赤くなり、季節に応じて“赤鼻のトナカイ”のようだった。
アルコールの匂いが更に既に蕩けた身体を着手させ、少ない金銭にも関わらず身体をアルコールの海へ浸らせる。
視界が歪んで、どろりと溶けていく先に、目を見張るほどの魅了をもった美しい女性を蕩けた瞳が捉えた。
「…ねぇ」
その女性が、ひどく優しそうな顔で微笑んで熱くなった掌を重ねた。
そこでようやく思い出した。私が大学を中退した時、一緒に中退していた女、|西田《にしだ》|菊《きく》だった。
「私のこと、覚えてる?」
間違いない。西田菊、本人だ。いやに風俗嬢らしいみっともなく薄汚い鼠のように穢れた身体を着飾っているが、確かに見た目は美しかった。
その姿を私は見たことがある。家を追い出される前に父親がどこかのアダルトビデオレンタル屋で借りたAVに映っていた。所謂、AV女優だった。
その女と、私は奇妙なことにほぼ一文無しで来た居酒屋で再開したのだ。
「…ああ、覚えてる…こんなところで何してるの?」
「仕事帰りよ、何かは……分かってるわよね」
「嫌なくらいに」
「あら、知らないと思ってたわ。そういう趣味があるのね」
「…………」
彼女は茶化すように笑ってみせ、隣にあるコップの数々に目を通して、舐めるように私の身体を見た。
そうして、呆れたように口を開いた。
「…お金は?」
「……ない…」
彼女が懐から財布を取り出すまで、そう時間はかからなかった。
それがどうにも嫌な予感だった。
冬の寒さが暖かな身体とひどく充満したアルコールの匂いを包み込んだ。
丸い鼻はより赤く、冷えることはない。隣で菊は財布の中身をみっともなく確認しつつ、私へ言葉を投げた。
「良い仕事、あるんだけど…やってみる?」
その言葉に肝が冷えた。ああ、やはり。彼女の素性から嫌な予感はしていたのだ。
その欲に塗れた受け皿になる勧誘はろくでもない。
しかし、私はそれに従うしかなかった。それが“借り”というものだ。