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ギンギツネ
ハイリスクレッド
ショート・ショートストーリー✍ 10
SILVER☆FOX
☆
月も無い夜道をひとりの女性が足早に歩いている。
女性の前に不意に物影から風体の悪い男が立ちはだかる。
女性は驚き足を止める、恐れを懐き後退る。
後方からも風体の悪い男がもう一人現れる。
前の男が顔を歪めながら声を出す。
「ねぇ、お姉さん、お金ちょうだい」
女性は手にしていたハンドバッグを胸に抱え込む。
後方の男がノッソリと近づいてくる
「金がねぇんなら、お姉さんのカラダだなぁ」
と下品にニャつく。
前の男もノッソリと近づいてくる。
風体の悪い男二人が同時に女性のカラダとハンドバッグに手をのばした刹那。
ビジュ、ビジュ!と銀色の閃光が煌めき、男二人の手が弾かれた。
グワッ、グゲッと奇声を発して男二人は弾かれた手を自分の顔の前に持ってゆき確かめる、手の平の真ん中に穴が貫通している。
何が起きたのかわからず男二人は辺りを頭を振って見回す。
男二人から二メートルくらい離れた位置にフワリと銀色に輝く銀狐が浮き上がると次第に人の形へと変身してゆく。
風体の悪い男二人は、その姿に腰を抜かし、失禁し、その場に尻餅をつく。
銀色に輝く人形は左手の人差し指と中指を揃え立てて、シュッ、シュッと男二人に向けて腕を振るい空を切る。
「天誅」と地獄からの声が聞こえる。
男二人の股間目がけて銀色の炎の弾が発せられ、股間が燃え上がる。
辺り一帯に男二人の断末魔の絶叫が響き渡った。
それから数日後、
人気の無い裏道を老女が歩いている。
前方から男二人乗りのミニバイクが老女を黒いフルフェイスのヘルメットの中から睨みつけながらすれ違い通り過ぎる。
通り過ぎてしばらくすると男二人乗りのミニバイクが方向転換し速度を調整しながら老女の背後に迫る。
老女を追い越し間際に二人乗りの後部の男が腕を伸ばし老女の肩から掛かっていたショルダーバッグを掴み引っ手繰る。
運転をしている男がアクセルを一気に吹かし速度を急激に上げた刹那。
ビジュ、ビジュと閃光が輝き煌めきが男二人のヘルメットの側頭部が弾かれた。
弾かれた勢いでミニバイクから放り出された男二人は添い寝している様に並んでアスファルトの地面に転がった。
男二人が声とも思えない呻き声を出しながら、もがきながらフルフェイスのヘルメットを外そうとするが外れない、ヘルメットが内側に変形し頭蓋骨に食い込んでいるからだ。
もがいている男二人を目がけてを赤い炎と化したミニバイクが空から落ち着いてくる。
同時に銀色に輝く銀狐が現われ、人形へと変身し人差し指と中指を揃えた左腕を頭の上から下へ振り下ろし空を切る。
「天誅」と地獄からの声が聞こえる。
赤い炎と化したミニバイクの前輪が運転をしていた男の股間に、ミニバイクの後輪が後部に乗っていた男の股間に激突した。
辺り一帯に男二人の断末魔の絶叫が響き渡った。
☆
それからまた数日後、 柔らかいベッドで目を覚ます全裸の男がいる。
男の名は、二四三 零(ふしみ れい) 京の都に産まれ、京の都で育ち、今も京の都に暮らし京の都の国立大学へ通っている。
隣には恋人で同じ国立大学へ通う、数葉(かずは)が男と同じように全裸で目覚めの余韻をむさぼっている。
柔らかいベッドは数葉の物である。
紀州の高野の出身の数葉は京の都の市内のワンルームマンションに部屋を借り大学へ通っている。
二四三 零は、京の都の市内で両親と同居しているが特別に用事のない限りは自宅へは帰らないで数葉の部屋から大学へ通い毎日を過ごしている。
零は身長がやや高く、見た目はスラリとしているが、全裸の身体には無駄な肉は無く、筋肉が美しく付いている。
切れ上がった目元は涼しげで、髪は全てが銀髪である、今は長く伸ばし首の後ろで一つに束ねている。
この銀髪は染めている訳ではなく生まれつきであり、中学二年の終わりまでは両親の気遣いで黒く染められた短髪であった。
零は中学三年になると自らの意思で髪を生まれつきのありのままの銀髪で過ごす事を決め、髪を伸ばし始めた。
そのきっかけとなったのは中学二年のクリスマスが過ぎ、新年を迎え、新学期が始まる日、始業式の日だった。
☆
始業式のその日の朝、零は自分のクラスの教室に入っるとクラスメイト達が新年の挨拶代わりにとふざけ合っていた。
零はクラスメイトである一人の女の子が好きだった。
その女の子の席へ視線を向ける。
女の子の席、机には荷物が置いてあるだけで彼女の姿がなかった。
何故だろうと考え込んでいると、不意に零は自分の後頭部の髪が逆立つ感じを覚えた。
その感じに不穏な気配を感じとり教室から飛び出していた。
不穏な気配に導かれる様に校舎の三階への階段の手前までくると足を止めた。
零の通う中学校では、一階が一年生、二階が二年生、三階が三年生となっていた。
二階から三階への中間に踊り場と云われるスペースがある。
零の好きだった女の子が三人の三年生の男子に囲まれている。
髪を茶色に染め、学生服をだらしなく着た不良達だった。
女の子の前に立っている男子が何やらニャつきながら喋っているが、零の所までは聞こえてこなかった。
零は男子の言葉を聞きたいと思わず念じた。
『 俺さ、もうすぐ卒業やからさ想い出に付き合ってぇやぁ 』
女の子は無言で首を左右に振る。
『 えぇやんか 』
女の子は嫌です、と囁くように言いながら首を左右に振る。
その男子は、苛ついた表情を作ると
『 ちぇっ、せやったらキスだけさせてやぁ 』
女の子は激しく首を左右振る。
『 はぁ減るもんちゃうやろがぁ 』
零はこの成り行きに全身に怒りを覚え、後頭部の髪がさらに激しく逆立つの感じる。
不良男子が無理やりに女の子の顔へ自分の顔を近づけていくと、他の不良男子二人が女の子の肩を後ろから押さにかかった。
零は不良男子三人を睨みつけながら念じた。
「離れろ!」
刹那、不良男子三人は激しく後方へ吹っ飛ぶ。
女の子は驚きながらもその隙に、階段を駆け下りてくる、零の横を脇目も振らず駆け抜ける。
尻餅をつき呆気にとられていた不良男子三人が立ち上がり女の子を追うとして立ち上がる。
零の心の中に一つの言葉が聞こえた。
『 天 誅 』
零は何も考えず、その言葉を自分の声にして口に出した。
「 天 誅 」
同時に無意識に左の人差し指と中指を揃え、不良男子三人へ向け指差した。
不良男子三人は再び激しく後方へ吹っ飛ぶと階段の壁へ顔面から激突し気を失った。
☆
その日から零は気を集中し念じる事を繰り返し試してみた。
離れた場所にいるクラスメイト達の会話、職員室の教師達の会話、等と繰り返し試してみた。
ある日、学校からの帰り道で零に向って吠えてくる犬に向けて気を集中し念じてみた、そうすると犬の吠えつく声が言葉として聞き取れた。
またある日の帰り道に近所の公園で左手の人差し指と中指を揃え左腕を振り転がっている空缶へ向けて気を放ってみる。
空缶が飛ぶ、変形する、破裂する。
繰り返し試しているうちに自分の指先から薄っすらと銀色の煌めきが放たれているのが見えてくる。
零は自宅に帰ると自室で何故だろうと毎日考えるが、見当もつかない。
数日後の祝日の朝、母親の五月(さつき)の呼び声で自室を出て朝食を取るために食卓の席についた。
目の前には父親の可六一(かむい)が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。
零の父親は市役所に務める普通の公務員である。
中肉中背の普通のおじさんである。
ただ少しだけ普通でないのは髪の半分が銀髪である。
零は自分の髪が銀髪なのは父親からの遺伝なのだなと思っている。
零は朝食を半分ほど食べると父親をじっと見つめた。
それに気づいた父親が零に向き直り声を掛けてきた。
「どうした?」
零は始業式の日の出来事から毎日試してみた事を全てを思いきって父親に話した。
すると父親は手にしていた新聞をたたみ食卓の端に置くと姿勢を正すと改めて言葉を出した。
「そうか、それは隔世遺伝なんだよ、お祖父様からの」
☆
隔世遺伝とは、直接の両親よりも逆上った親族から受け継がれた才能や能力を発揮する事である。
例えば、じっちゃんの名にかけて、の台詞を言う名探偵の孫であるとか、かの名高き大泥棒の孫の三世とか、などなどの有名人がいる。
☆
「お祖父様って言うか、じぃちゃんは随分昔に亡くなってるって、ばぁちゃんから聞いているけど」
その祖母の七美も零が十四歳の誕生日を迎えた一週間後に心筋梗塞で亡くなっている。
「いや、実は、お祖父様、わしのお父様は生きておられる」
「そぉなの、ってか父さん何でそんな堅苦しい呼び方するのさ」
暫く考えていた父親は零と母親の五月に向けて言葉を出した。
「よし、出掛けるぞ支度しなさい」
言うなり父親は立ち上がり支度を始めた。
母親は心得ている様で、はい、と返事だけすると支度を始めた。
零は、何が何だかわからないままに支度をする。
父親の運転する自家用車に乗り込むみ零は問いかけた。
「父さん何処へ行くだよ」
「わしのお父様で、零のお祖父様の所だ」
父親はそれだけ言うとあとは無言で車を走らせた。
☆
京の都の深い草の藪の内の里に、銀狐の住むと云う伝説がある。
現代の人間には銀狐を見ることも、深い草の藪の内の里へ立ち入ることは出来ない。
銀狐の帝である九尾の雄銀狐(きゅうびのおすぎんぎつね)により結界が張られているからである。
零の父親は京の都だけでなく全国的に有名な稲荷大社(いなりおおやしろ)の駐車場に車を止め、車を降り無言で歩き始めた。
母親は何やら覚悟を決めた様に厳しい顔をしている。
まさに狐につままれた気分で零はただついて行く。
稲荷大社の脇道を抜け、裏山の山道を登り、鬱蒼とした森林を奥へ奥へと進む。
そしてたどり着いたそこには零の膝の高さ位の石の鳥居が生い茂る草木の葉で隠れていた。
父親の可六一は石の鳥居の前に下肢づき両手を合わせ、語り始めた。
「この石の鳥居の向うに、深い草の藪の内の里がある、銀狐の住む里だ。
その里にわしのお父様で零のお祖父様である九尾の雄銀狐が住んでおられる。
わしはお父様からの遺伝が僅かであったため零の様な能力は使う事ができなかった」
☆
少し昔に日本は戦争をした。
可六一の祖父は徴兵され戦地へゆかされ戦死した。
戦後遺された可六一の祖母の八重(やえ)と母親の七美(ななみ)の母娘は京の都の山間部へ疎開し僅かな田畑を耕し暮らしていた。
ある日、七美が近くの川へ野菜を洗いにゆくと、河原に真っ白な狩衣を纏った男が倒れていた。
男の意識はあったが左の脚のふくらはぎに傷を負い血を流していた。
七美は男の傷を清流で洗い、腰に付けていた手拭いで止血した。
しかし、傷は思いの外深く男は一人では立てなかった。
七美は男に肩を貸し自宅へと連れ帰り、傷口へ薬草を塗りこんだ。
男はその痛みに、うぅと唸ると意識を無くしそのまま四日間眠り続けた。
五日目に目覚めた男は、久御(くお)と名を名乗った。
久御の傷はなかなか回復の兆しをみせなかった。
七美は田畑を耕し、川で洗いものしながらも薬草を摘んで来ては丹念に傷口に塗りこんで毎日、献身的に看病を続けた。
そして、ひと月が経ち、杖を片手に久御は立ち上がれるようになった。
ふた月が経ち杖を用せず立ち歩けるようになった。
み月が経ち何不自由なく立ち回り、いつしか田畑の手伝いまで出来るように回復した。
そして、ある朝、久御は世話になった、と礼を口にする。
七美も八重も別れの時が来た事を悟った。
しかし、七美は久御に恋心が芽生えており別れを受け入れ難かった。
七美は久御に問いかけた。
「どうしても、お別れしなければならないのですか」
「私には帰らなければならない里があります」
久御が答える。
「この七美をご一緒させてはもらえないのですか」
七美は、さらに問いかけた。
「久御さまごしょうです娘をお伴させて下さい」
七美の母である八重が懇願する。
久御は暫く考えると意を決したように答えた。
「七美どの、八重さま、久御のこれが真の姿です」
言葉が終わると久御の身体が銀色に煌めき輝く、ゆっくりと九尾の雄銀狐へと変わってゆく。
九尾の雄銀狐(きゅうびのおすぎんぎつね)の姿になった久御は顔を上げ七美と八重を見つめる。
七美の瞳は潤み変身した久御を見つめたが、恋心に変化は起きなかった。
八重はその場に跪き、九尾の雄銀狐に向かい両手を合わせた。
七美は久御に近づき、そっと抱きしめ、切なる思いを言葉にした。
「せめて一晩だけでも、貴方の妻にしてください」
九尾の雄銀狐と七美の瞳は互いを見つめ合い、七美は久御の唇へ自分の唇を重ねた。
久御は人へと姿を戻し、その夜に七美と一夜限りの夫婦として結ばれた。
翌朝、七美と八重が目覚めた時には久御の姿は消えていた。
久御の消えた翌日から、七美と八重の元へ毎日、毎日、山の幸や川魚が届けられた。
それは七美が亡くなっるその日まで続けられていた。
久御が姿を消してから三ヶ月後、七美の身体に兆候があらわれた。
久御の子を身籠っていたのである。
さらに月日が過ぎ、男の子が産まれた、それが可六一である。
そして、可六一は成人し五月と出会い、結婚し、男の子が産まれた、それが零である。
☆
話しを聞き終えた零は石の鳥居の前に下肢づき両手を合わせた。
すると石の鳥居の内側が銀色に煌めき輝き始めた。
可六一が零に告げた。
「銀狐の里へ行って来なさい、帝である久御さま、お祖父様に会ってきなさい」
零は力強く頷くと、銀色の煌めきに左手をのばすと、スッと身体がひきこまれた。
白い霧が視界を遮っている。
視界を遮っていた白い霧が晴れ辺りの風景が見えてくる。
色とりどりの草木に囲まれ艶やかな風景があわられた。
澄み渡る空気が一層に引き立て鮮やかさを強調している。
零はその鮮やかな風景にひきこまれ立ち尽くしていた。
そんな零を遠巻きに白い狐達が眺めている。
大柄な男がのそりのそりと零に近づき目の前に立った。
「何しに来た」とぶっきらぼうに問いかけてくる。
「僕は、二四三 零といいます、帝である久御さまに会いに来ました」
大柄な男はその言葉に目を見開き一歩、二歩と後退る、お尻の辺りで白いフワリとした尻尾が現われ揺れる。
「おまえは、何者だ」と問いかけてくる
「僕は、久御さまの孫です」
大柄な男は、目を見開き、ボワンと弾けると、白い大きな狐に戻る。
「ついてきな」
言うなり零に背を向け歩き始めた。
零は黙って白い大きな狐のあとに続いて歩き始めた。
☆
朱色で彩られた社の前で正座をして待っていると、威風堂々とし、綺羅びやかで神々しい姿の九尾の雄銀狐が現われた。
「零か、私が久御である」
「初めまして、二四三 零です、可六一の息子です」
「そして、私の孫であるな」
久御は人の形へと変身する。
真っ白な狩衣姿になると零の前に腰を下ろし慈愛に満ちた瞳で零を見つめた。
零は久御に自分の身に起こった事、心の中に聞こえる『天誅』の言葉について全てを話した。
「零は、この大社の御神体を知っているか」
「はい、白い御狐様と聞いています」
「うん、それは我々、白狐、銀狐の御先祖様だ、人間は大社を神社と呼び御先祖様を神と崇め奉た」
「神様ですか」
「そう、天誅とは神より罰を与えらると云う意味になる」
零はゴクリと息を呑んだ。
「御先祖様から受け継がれた神の力を持つ銀狐の一族であるのだよおまえは」
その言葉に零の全身にが総毛立つ。
「しかし、思い上がってはいけない、己を持して平常心で素直に人としての正道を生きるのだ」
「はい、久御さま」
ふははは、と久御は笑うと
「じっちゃんで良いのだ零」
零は恐る恐るその言葉に従ってみた。
「じっちゃん、ありがとう」
久御はさらに柔らかく笑うと零に瞳を閉じさせ額に自らの左手の平を当て呪を唱える。
唱え終わると優しく呟いた。
「また何時でも遊びに来なさい」
「はい、ありがとうございます」
零は返事をして目を開けると、石の鳥居の前に戻っていた。
辺りはすっかり夕陽に包まれていた。
可六一と五月が零の肩に手を置き、さぁ、帰ろうと声を掛けてきた。
零は、うん、と頷きスッキリとした気分で思わず
「腹、減ったー」と声を大にして叫んでいた。
☆
数日後である。
もぉ昼になろうとしている。
零は柔らかいベッドから抜け出すと、ヴァイオレットカラーのボクサーパンツを身に着け、グレイカラーのジーンズを履き、黒地にシルバーでトライバルデザインで炎が描かれたTシャツを着ると素足でフローリングの床を音も無く歩きキッチンへ向かった。
ドリップコーヒーを仕掛け、フライパンに玉子を二つ落とす。
オーブントースターに四枚切りの食パンを二枚入れスイッチを入れる。
冷蔵庫からレタスとハムを出すとオーブントースターが焼きあがりを知らせる。
大きめ皿にトーストを二枚並べ、レタスとハムと目玉焼きを順に乗せ食事用のテーブルへ運ぶ。
キッチンへ戻りマグカップ二つとコーヒーポットを手してテーブルに戻りイスに腰を下ろすと、上下ピンクのスエットを身に付けた数葉が嬉しそうに零の向いのイスに腰を下ろす。
数葉はマグカップに注がれたコーヒーを啜りながらTVのリモコンでスイッチを入れた。
テレビにスイッチが入り画面に昼のワイドショーが映し出された。
最近、起きた二件の不思議な現象について説明している。
銀色に光る狐が現われ、悪党退治をした。
この現象は何なのか、目撃者談として悪党達の供述を取り上げ、
『正義のシルバーフォックス現象』
などと勝手に名付けて、コメンテーター達が的外れな推測をもっともらしく交わしている。
数葉も、興味津々に画面に釘付けである。
当然の事ながら零は知らん顔でレタスとハムと目玉焼きが乗せられたトーストに齧り付いている。
唐突に、ゾゾッと零の後頭部の銀髪が逆立つ。
テレビ画面が臨時ニュースに変わる。
「ただいま、入りました臨時ニュースです。○○町の銀行に強盗入り、そのまま立て籠もりました」
テレビ画面が立て籠もり現場の銀行に切り替わる。
零は食べかけのトーストを皿に置くと、立ち上がりシルバーカラーのライダースジャケットを羽織る。
「ちょっと出掛けてくる」
数葉に言うと玄関ドアへ向かった。
「は、ちょっと何」
数葉が問いかけているが零の耳にその声は入っていない。
数葉は慌てて零を追いかけたが、ドアはガチャンと音を鳴らして閉じられた。
数葉はさらに追いかけドアを開いた。
しかし、既に零の姿は無かった。
もぉ、と数葉はひとり声を出しながらテーブルへ戻りスマートフォンを手に取り零のスマートフォンへ呼び出しをする。
零のスマートフォンの着信音がすぐそばで聞こえ出す。
昭和の時代から受け継がれ今日まで子供から大人までに人気の特撮番組、銀色のヒーローのテーマ曲が高らかに数葉のベッドの上で鳴り響いている。
その着信音にさらに数葉は不貞腐れ仕方なくテレビの画面に目を向けた。
えっ!?
数葉は思わず声を上げ、目を疑った。
テレビ画面に映る銀行の立て籠もり現場に零の姿を見たからだ。
○○町まで、数葉のマンションからだと車を飛ばしても二十分以上はかかる場所である。
しかし、零が飛び出してからまだ三分ほどしか経っていない。
数葉は目を両手で擦り画面を見直して見る、だが零の姿は消えていた。
次の瞬間、立て籠もりの起きている銀行の窓が内部から銀色に輝き、煌めき、閃光を放たれた。
「天誅」地獄からの様な声がする。
直後に断末魔の叫び声が辺り一帯に轟いた。
慌てて警察の特殊班が銀行内へ踏み込んでゆく。
暫くすると警察官に両脇を抱えられた強盗立て籠もり犯の男二人が連れ出されてくる。
強盗立て籠もり犯の男二人は右手首を人間として曲がってはいけない向きに捻じ曲げられ苦痛の表情をしてうわ言のような言葉を発している。
「ぎ、銀狐が、銀狐が」
テレビ画面に釘付けだった数葉の後方でカチャッと玄関ドアが開く。
ただいま。
言いながら零が入ってくる。
数葉の視線はテレビ画面と帰ってきた零の間を行ったり来たりしている。
零はテレビ画面に視線を向けると
「逮捕されたんや、めでたし、めでたし」
などと言いながらライダースジャケットを脱ぎベッドの上に置きに行く。
スマートフォンに着信有りの表示を見つけると零は手に取り
「あれ、数葉からやん、なんか用なん」
などと、とぼけた台詞を言いながらテーブルへ戻り、イスに腰を下ろすと、食べかけだったトーストにかぶりつき、マグカップを手にしコーヒーを啜った。
思い上がってはいけない。
世界中に、いや日本中にさえ悪党は多くいる。
しかし、零ひとりの力では全てを退治する事は出来ないだから。
後頭部の銀髪が逆立ち、神命を受けた時には迅速に行動し、天誅を下す。
『正義のシルバーフォックス』として。
終り。
※
二四三 零(ふしみ れい)主人公
八重(やえ)零の曾祖母
七美(ななみ)零の祖母
久御(くお)零の祖父・九尾の雄銀狐
(深い草の藪の内の里、銀狐の里の帝)
可六一(かむい)零の父親
五月(さつき)零の母親
数葉(かずは)零の恋人
※