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6.黒髪、白い肌
明日、湊と上手く話せるか不安だった。
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次の日の朝、席につくと湊と目が合った。
「おはよ」
「お、おおはよ!」
湊のおはように上手く返すことが出来なくて、完全に顔が引きっちゃって、恥ずかしくて、湊に背を向けた。
こんなんじゃ完全になにか隠していることがバレバレだろう。きっと、なにか言ってくる。
「なに知っちゃったの?」
私の思惑通りだった。
知っちゃったのって問いかけるってことは、知られるようなことがあるんだろうな。
私は湊の方を見て、引き攣らせた顔で無理やり笑みを作った。
「別に!逆になにか知られるようなことがあるのー?」
「さあね笑」
湊と私は笑って誤魔化した。お互い気づいているんだろうな。湊は私は知ってしまったこと、そして私は湊がそれを解っていることに気づいていた。
それから放課後までは特に何も無くて、ただお互い胸の内になにか秘めているようなこそばゆい空間が広がっていた。
付き合っともいないのに、浮気を見て見ぬふりをしているカップルみたい。
自転車を押して裏門から帰ろうとしていると、リョウが女の子と話していた。ここの学校の制服では無かった。
その女の子は綺麗に髪を巻いていて、そしてまた綺麗な黒髪だった。顔は別にわたしほど整っていないけれど、ぶすでは無いし、肌が白くて、雰囲気が可愛らしい子だった。身長は私より少し高いくらいだろうか。すらっとしていた。
リョウにも彼女ができたか、そう思って通り過ぎようとすると、リョウが「あっ」と声をあげた。
「あいつ!あいつ湊と仲良いからさ、渡してもらいなよ。俺これから部活なんだよ」
リョウが私を指さして女の子のもとを立ち去ろうとする。
「えっ。ちょっと!部活同じでしょ?!」
女の子は焦った様子でリョウを追いかけようとしたが、校舎の敷地内に入ってしまうからか、立ち止まって困った顔で私を見つめた。
印象に残る奥二重。綺麗な黒目。重い前髪。厚い唇。
「な、なんでしょうか」
なんとなく嫌な予感がした。だがここで立ち去ってしまっては人道に反する。
「すみません…急に。カオルと親しいんですね!押し付けてしまって申し訳無いんですけどこれ、渡しておいてくれませんか?」
湊のことをカオルと呼ぶ女の子の手には、高そうな時計があった。
一体なんだろう、貢物?
「あ、おっけーです」
私は時計を受け取って鞄に入れた。また湊と話す口実ができて、少し嬉しかった。
「あの、興味本位で聞くんですけど、湊の友達ですか?」
私がそう聞くと女の子は少し困ったような顔をしてから、
「友達…っていえるのかな。今はもうきっと嫌われてるんでしょうけどね。昔は仲が良かったんです。部屋の掃除をしていたらカオルの時計が出てきたから…」
今は嫌われている。昔は仲が良かった。部屋から時計…。
湊の元カノは、彼女だろう。
でももう未練は無さそうだし、湊のこと色々聞きたいな。そんな感情が芽生えてきてしまった。
「良かったらこのあとお茶しません?ってか、同い年だよね、きっと。私最近湊と知り合ったんだ。湊のこと聞きたい!」
私は満面の笑みでカスのような思考を巡らせて言った。多分その笑みに耐えられなかったのか彼女は引き攣った笑顔で頷いた。