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きみを染める
ぎりぎり(2024/02/28の夜)に書き始めたから雑
ちょっと趣向を変えて正統派? をかいてみたよ
光の面だからあんまりどろどろしてない
やきとり🐔さま主催の百合祭り参加小説です。
自主企画に参加するのは初めてなのでお手柔らかに見てください。
VOICEROID(通称)のあかあお(琴葉茜・葵)
⚠Attention⚠
姉妹百合、微曇り要素、エセ関西弁
「葵ちゃんの髪はほんとに綺麗やね。」
きみの髪を|手櫛《てぐし》で|梳《と》かしながら、うちは微笑んだ。冬の浅瀬の海みたいに|静謐《せいひつ》で神秘的な色が揺れる。しゃくしゃく、とさっきから鳴っていた咀嚼音が止んで、その代わりにきみが口を開いた。
「そんなことない、茜のほうが綺麗だと思う。」
「そお?」
「うん。」
きみはそう頷くと、またアイスを頬張りだす。冬にはチョコミント味が売ってないから、食べてるのはソーダ味。うちは、自分の髪を|一瞥《いちべつ》して、首をかしげた。
「でもうちは葵ちゃんの髪、すきやで。」
「そう……ちなみに、どのへんが?」
「海みたいで綺麗なところ。葵ちゃんの落ち着いてて優しい性格にぴったりやと思って。」
「ふうん、そうなんだ。」
あんまり抑揚のない返事が返ってきたので、気分を損ねちゃったかな、と思ったが、これが平常運転なことを思い出した。うちは入っていた|炬燵《こたつ》の電源を切って、寝転がる。それで手持ち無沙汰になったから、きみの背骨をつつー、となぞった。「うひゃ!」とかわいい声をあげて、きみの肩がびくりと跳ねる。
「あ、あああ〜、アイス落としちゃった……ねえ、茜のせいなんだけど。これ、|濯《すす》いで|洗濯機《せんたっき》に入れてきてよ。」
そう冷たくあしらってきても、さっきかわいい反応をしたという事実は消えない。うちは上がった口角をどう直すか考えつつ、葵ちゃんが服を脱ぐのを見ていた。
「寒くない? 服持ってこようか?」
「炬燵に入ってるからだいじょうぶ、それに茜が着せるのフリフリのばっかだから嫌。」
「……かわいいのに。メイド服。」
「あ、服着たんや。」
「うん、やっぱりちょっと寒かった。」
「そっか、葵ちゃん寒がりさんだもんね。」
うちが服を洗って帰ってくると、きみは炬燵に足を半分くらい入れて、ちょこんと座っていた。うちはその隣に座って、きみの左腕を両腕で大事に掴む。そして微笑して、
「なあ、さっきさ、すっごいかわいい反応してたやんな。」
「いや、してない。」
「そう、葵ちゃんが言うならそうなんやない、葵ちゃんの中ではな! うちはちゃんと見たからね!」
きみのほっぺを左人差し指で突きながら、うちは|背後《うしろ》から|抱擁《ほうよう》する。きみはまた身体をびくっと跳ねさせて、引き剥がそうとしてくる。__無駄やで、うちのほうが葵ちゃんより筋力が強いんや。家でずっと寝ている|怠惰《たいだ》なきみとは違うんや。
「葵ちゃん、すきだよ。」
「まだ髪の話してる?」
「ううん、葵ちゃん自身のこと。」
「え、急にどうしたの。」
「、ねえ、五時になったらさ、お外に出てちょっとお散歩しよっか。それまではイチャイチャしてようね。」
「分かった。でも離れて。」
葵ちゃんは抵抗してくるが、うちはそれに対抗するように更に力を強くした。そしたらきみが苦しそうにするから、謝って少し緩める。
ぴったり身体をくっつけると、きみの鼓動が|直《じか》に聞こえてくる。いつもより早く脈打っているみたいで、かわいいなあ、と思って「だいすきやで、」と|耳許《みみもと》にささやく。また、きみは|過敏《かびん》に反応した。頭を撫でて、口づけする。きみの呼吸が荒くなる。
「ね、ねえ、茜、離れて……ちょっと無理、なんか変………」
「や〜だ。それよりさ、うちのことはお姉ちゃんって呼ばないの?」
「話題逸らすのやめて……」
背後からでも真っ赤になっているのが分かる。なんだか、きみがさっき褒めてくれたうちの髪みたい。うちは、きみから離れて、壁に掛かっている時計を確認した。
「あ、もう五時やね、お散歩の準備しよ。」
「うん、」
「だいじょうぶ? やっぱ寒い?」
「手繋いで。」
「ふふ、うん。ええで。」
葵ちゃんはこう見えて結構な寒がりさん。マフラーを巻いてあげたけど、個人的にはもっと守るべきところがあると思う。うちはきみの手に指を絡ませる。さりげなく恋人繋ぎをしてあげよう。
「近所の海まで行こっか。」
「分かった。」
吐息が白い。ゆわゆわと空に昇るそれを視線で追いかける。うちらは歩き出した。
犬の散歩をしている人、学校帰りらしき人。それらを横目で眺めながら、きみを気遣う。本当は行けるはずだった高校。
「わたしはだいじょうぶ、気遣わなくていいよ。」
「そう、ごめん。」
逆にきみを気遣わせてしまった。少し気まずくなってしまって、黙って歩いていると、きみがぼそっと呟いた。
「……おねえちゃん。」
「え。」
一瞬、ぴたり、と固まる。きみに促されて、うちは足を動かした。
「ねえ、ねえ、葵ちゃん、今、お姉ちゃんって言った? 言ったやんな? なあ、もっかい言って?」
「うるさい! もう言わない!」
「え〜! も〜、葵ちゃんの恥ずかしがり屋さん!」
うちは駄々をこねる。でもきみは、そっぽを向いて歩みを速めていく。あーあ、自分がかわいいってこと自覚してるでしょ。あれは。自分の武器最大限に使っちゃってるでしょ。
さっきの声録っておけばよかったなあ。双子なので声質はほとんど同じだが、そういうことではない。そう後悔しつつ、うちも葵ちゃんに着いていく。
「よ〜し、着いたな! あんな、うち、葵ちゃんに話したいことがあんねん。」
「なに? 愛の告白?」
「あながち間違いではあらへんな。」
「へ、」
呆然とする葵ちゃん。冗談のつもりで言ったんだろうな。
空には夕陽が沈みかけていて、壮大なグラデーションを構成していた。
湿った砂を蹴りながら、茜色に染まった海へ近付いていく。潮の香りがする。
うちはきみの目を真っ直ぐに見据えた。
「葵ちゃん、葵ちゃんにはまだ大変なこととかあったり、癒えてない傷もいっぱいあると思うけど、うちがそばにいるよ、ずっと。だから、安心してほしいし、頼ってほしいなって思って、」
「……なにそれ。そんなにお姉ちゃんって呼んでほしいの?」
「違うよ。さっきも言ったけど、すきだよ。葵ちゃん。姉妹とかじゃなくて、」
夕陽にきみの髪が揺れて、きらきら光っている。きみの手を両手で包みこんだ。
「うちがきみのことを染めてあげる。自信がないなら、うちがつけてあげるから。きみのこと、照らしてあげるから。」
葵ちゃんに口づけをした。