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君と僕の、夏の境界線 6
葵が連れてきてくれたのは、渋谷のビル高層階にある、お洒落なイタリアンカフェだった。
大きな窓の向こうには、東京のきらびやかな夜景がどこまでも広がっている。地元の星空とは違う、人工的な光の海。
「はい、蓮。これ、ここの名物のティラミス。すっごい美味しいんだよ」
葵は自分のスプーンで小さくすくい、僕の口元に差し出してきた。
地元にいた頃なら絶対に恥ずかしがってやらなかったような行動に、僕はドギマギしてしまう。
「……あ、美味い。っていうか葵、なんかこういうお店、慣れてるな」
僕が少し気後れしながら言うと、葵はスプーンを持ったまま、あははと笑った。
「そりゃあ、もう半年住んでるもん。あ、でもね! ここはサークルの友達に教えてもらっただけで、男の人と来たのは蓮が初めてだからね?」
「サークルって、あのテニスサークル?」
「うん。あ、そういえば先週ね、サークルの先輩の…高橋先輩っていうんだけど、その人に『今度二人でご飯行かない?』って誘われちゃって」
心臓が、ドクンと嫌な跳ね方をした。
東京の、お洒落で、背が高くて、スマートな大学生の男。そんな男が葵の周りにいるのだという現実が、急にリアルな質量を持って迫ってくる。
「……で、行ったの?」
なるべく冷静を装って聞いたつもりだったけれど、声が少し低くなってしまった。
葵は僕の様子をじっと見つめた後、ふふっ、と嬉しそうに口元を緩めた。
「行くわけないじゃん。私には地元に最高に格好いい彼氏がいますから、ってちゃんとお断りしましたー」
「……からかうなよ」
「だってみんな、蓮がやきもち焼いてくれたのが嬉しかったんだもん」
葵はテーブルの上の僕の手に、自分の手を重ねてきた。
「心配しないで、蓮。東京にはたくさん人がいるし、格好いい人もいるけど……私の特別は、あの夏からずっと蓮だけだよ」
あの夏祭りの夜、高台で僕が言った言葉を、今度は葵が返してくれた。
窓の外に広がる東京の夜景が、二人の空間をよりいっそうロマンチックに引き立てる。僕は重ねられた葵の手を、今度は下から包み込むように握り返した。
「分かってる。……でも、あんまり他の男と仲良くするなよ。僕だって、離れてて結構必死なんだから」
「うん、約束する」
葵は愛おしそうに目を細め、幸せそうに微笑んだ。
だけど、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。壁の時計の針は、僕が乗るべき夜行バスの時間を刻一刻と近づけていた。
(つづく)