公開中
四葉の姉
「…?」
入る家を間違えたかと思って、表札を見ると見慣れた『木翠』の文字。
でも、出迎えてきたのは知らない年上だと思われる子だ。みつねえでも、みつねえの姉のななねえでもない。だいいち、深いみどりのみつねえたちの髪色じゃなくて、明らかな金髪だ。ヨーロッパ系の、染めていない地毛みたいな。
「四葉っ!?」
そう言って、彼女はうちに抱きついてきた。
「うわっ、誰やっ!?」
「田菜だよ、田菜!」
「た…な?」
あまりにも聞き馴染みのない名前に、うちは動揺する。
うちは|薫《かおる》という父と、|百合香《ゆりか》という母と、うちだけで構成されている3人家族。12年間、ずうっとこうして暮らしてきた。
「そうだよね、覚えてないよね…。だってあなたとあたしは、あなたが生まれる前に別れたんだもんね」
そう言って、明るそうな顔に悲しげな感情を浮かべる。
「…ごめんな、本当にわからへんねん。従姉妹に姉みたいな存在の三葉っていう子ならおるんやけど」
「三葉!懐かしい…」
そう言って、はあっとため息をついた田菜は、続けた。
「ようやく戻ってこれたんだよ。昔、両親はお金に困ってて、とても子供を育てる余裕なんてなかったみたいなの。だから、泣く泣く施設に預けたわけ。その後、お金にゆとりができたから、あたしを引き取ったの」
「そうなんや…お金はなんで困ってたん?」
「会社が潰れたから」
なるほど、ろくな理由じゃなくて安心した。そう言って、田菜はうちを撫でてくれた。
「たなねえ…」
「うん、嬉しい。ありがとう」
そう言って、うちはたなねえをぎゅっと抱きしめた。