#番外編③　心葉の執筆

秋分の日をすぎると、6時でもだいぶ暗くなる。夏は水色か、茜色に空が染まっていた。今は黒一色になっており、ぽつぽつと光が見える。ホタルとかは、こんなのだろうか。 ポロン、というスマホの通知音が鳴った。窓を眺めるのをやめて、スマホに視線を落とす。さっきまで暗いところを見ていたから、すこし明るすぎる気もする。 『悩み委員会（３）　Yuika がスタンプを送信しました』 パスワードを解除して、スマホを立ち上げる。 『夜遅くに失礼します』と猫がお辞儀している、可愛いスタンプ。無料ダウンロードできるやつだ。そのスタンプを送ったのは、Yuikaもとい結花だ。自分で描いたであろう、オリキャラのイラストをアイコンにしている。 『ソラ：どした？』 ソラもとい宙は、結花の彼女…といえば聞こえはいいが、実際のところ交際はしておらず、ただただ宙が一方的におもっている…というのが現実だ。ゲームのキャラのスタンプは、多分お試し機能だ。アイコンは、そのゲームのキャラだ。公式からダウンロードしてきたのだろう。 『Yuika：心葉って、できた？小説』 『心葉：ぜんぜん』 ちなみに、心葉は僕のことだ。アイコンは適当に、『心葉』とかかれた紫のにしている。スタンプはあんまり使ってないが、有料のやつを一つ入れている。友達との会話には使わないが、家族LINEには使っている。オタクなのを知られたくない。 『心葉：ネタがないんだ。何かパッと思いついた言葉か、打って出た予測変換とかやって』 『Yuika：謝罪』 なんで謝罪が出るんだよ、と思わずつっこむ。 『ソラ：ゲーム』 謝罪とゲーム？…できないことはないが、それだと趣味だけで封印されそうになる。悩み委員会に使うやつは、断ることができるように…いや、案外いけるのか？ 『心葉：ありがとう、これで書けそう』 その後、宙からおやすみ、とのゲームキャラのスタンプと、結花から眠っている猫のスタンプが送られてきた。時差は殆どない。こういうところが、幼馴染か、カレカノか、それとも偶々かはわからない。 そう思ったら、ふっと自然に笑みがこぼれた。