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第7回 あの時のわたしと再会!?
源氏物語読み切った〜。けっこう長かったけど、いつの時代の人も考えは変わらないものだなぁ…
そう思い、自転車を走らせて楠木山市立図書館へ向かう。この『現代語訳版・源氏物語』を返却しに行くためだ。
それにしても、この間のはやばかった。
スーパーへ向かったら、ひったくり犯に遭遇して、衝撃でそのままタイムスリップ。紫式部になっていたのだ。なんとか記憶をたぐり寄せ、なんとか言い訳をして、犯罪者にならないよう気をつけて、それで帰ってこれたのだ。清少納言と出会った時は心臓が宇宙へ跳び上がりそうだったのは内緒だ。
今までタイムスリップしてなったのは、卑弥呼・聖徳太子・紫式部。この流れだと…誰だろ。でも、卑弥呼の時は歩道橋から墜落、聖徳太子の時は自転車に轢かれかけたという事故レベルでタイムスリップした。でも紫式部は、ちょっとぶつかっただけでタイムスリップしてしまった。
このままじゃ、タンスの角に小指をぶつけただけでタイムスリップしてしまう…考えすぎか。
「これ、返却お願いします」
「はい」
ふぅ…今日のミッション達成と。そうぼーっとしながら歩いていると、
「わあああーっ!?」
という女の人の叫び声。
「きゃっ!?」
いやいや、嘘でしょ嘘でしょ!?なんで台車がぶつかってくるの!?うわぁあ!?
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「…ごんさま?清少納言様?」
「ふはっ」
うわ、また寝てた…え、ちょっと待って?
「ああ、大丈夫でしたか、《《清少納言様》》」
…せ、セイショウナゴンサマ?
む、紫式部の次は清少納言ですか……
「ちょっとごめんなさい、眠くて…ほら、うららかな春の日差しが…」
必死に言い訳をする。デジャヴでしかない。
いや、むしろいい気がする。ちょうど、この間『源氏物語』ついでに『枕草子』も借りたのだ。現代語訳と当時のことば、両方が書かれているやつだ。少しなら覚えている。
「枕草子…取り掛かろうかしら」
「わかりました」
「1人のほうが、今日は集中できるわ。向こうへ行ってくださらないかしら?」
「はい」
そう言って、女の人はどっかへ行った。取り敢えず、紫式部のときと同じように筆を手に取り、枕草子を綴っていく。一文字のミスも許されないのだ。慎重に、慎重に。
こころなしか、余裕がある気がする。そうだ、ちょっと外へ出てみよう。
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明らかに他の人と違う、ずりずりと十二単をすべらせながら歩いている、不自然な人。あの十二単、どっかで見覚えが…
まさか。
そう思い、わたしは声をかけてみた。
「あら?紫式部さん…ですか?」
びくっとしている紫式部。うわ、わたしってこう見えてるんだ。不自然極まりない。
「そうよ。えーと」
今見れば、なんの「えーと」なんだ、なんの。
「清少納言…さん?」
「ええ、そうです。枕草子、順調です」
そう言って、わたしは去った。
ふ〜、まさか過去の自分(紫式部)と出会えるとは。びっくりだわ。
それにしても、なんだか春の陽気が、ぽかぽかして気持ちいいや…うぅ…眠…
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「…わ」
重たくない、Tシャツ。ああよかった、と思って起き上がる。そこには、あの時の台車を転がした人。高校生ぐらい?えーと、ネームプレートには『佐々木』か…
「あのっ、大丈夫ですか?わたし…すみません。あそこに従姉妹の美玖がいて…うっかりしてて…本当にすみません!あと、失礼を承知なのですが…」
「はい」
「頭、大丈夫ですか?」
…?
…あたま、だいじょうぶですか?
「ど、どういうこと」
「いや…『ここはどこなの?そうだわ、枕草子に書きましょう…いえ、わたしの表現力ではとてもかないませんわ』みたいなこと言ってて…ひょっとして、衝撃で…」
「いえ、大丈夫です。多分疲れてたんです。すみません、迷惑をかけて」
わたしはそう言って、急いで図書館を出た。
ととと、とにかく橘先輩と、彰子に言わなくちゃっ!?