公開中
こぐま はじめてのお小遣い
夏の陽射しが森の木々の間から降り注ぎ、セミの鳴き声が賑やかに響く季節になりました。こぐまは、妹のメイと森の小道を散歩していました。メイは、こぐまが見つけた珍しい夏の虫や、色鮮やかな花びらに、目を輝かせながら「にいに、これなあに?」と尋ねてきます。こぐまは、お兄ちゃんらしく、知っていることを一生懸命教えてあげました。
ある日の夕食後、お父さんクマがにこにこしながら言いました。「こぐま、君もずいぶん大きくなったね。これからは、家のお手伝いを頑張ったら、お小遣いをあげることにしよう。」
こぐまは目を丸くしました。「お小遣い?」
お母さんクマが優しく説明してくれました。「そうよ。お小遣いというのはね、自分の好きなおやつを買ったり、大切なものを買ったりできる、自分だけのお金のことよ。」
自分だけのお金!こぐまは、嬉しさと少しの戸惑いが入り混じった気持ちになりました。今まで、欲しいものがあればお父さんやお母さんに買ってもらっていましたが、自分のお金で買うというのは、なんだか特別な響きです。
次の日から、こぐまは張り切って家のお手伝いを始めました。メイのお気に入りの夏の実を集めたり、巣穴の周りの草むしりをしたり、お父さんクマの漁の手伝いをしたり。慣れないうちは失敗もありましたが、お父さんやお母さんが優しく教えてくれました。メイも、こぐまがお手伝いしている姿を見て、小さな手で真似をしようと頑張ります。
一週間が経った週末の夜、お父さんクマが小さな布の袋をこぐまに手渡しました。
「これは、この一週間、よく頑張ったご褒美だ。お小遣いだよ。」
袋の中には、ツヤツヤと光るきれいなドングリがいくつか入っていました。森の動物たちのお金は、特別な場所で見つけられる、形が良くてきれいなドングリなのです。こぐまは、生まれて初めて手にする自分のお金に、胸がいっぱいになりました。
「ありがとう、お父さん、お母さん!」
こぐまは、もらったドングリをじっと眺めました。このドングリで何を買おう? リスさんのパン屋さんの、冷たいベリージュースもいいな。それとも、森の広場で売っている、ピカピカの葉っぱの飾りも素敵だ。
メイが、こぐまの持っているドングリに興味津々で「にいに、きれい!」と指を伸ばします。こぐまは、もらったばかりのドングリを大切に握りしめながら、メイに言いました。
「これはね、僕が頑張ったご褒美なんだ。メイも、もっと大きくなったらもらえるようになるんだよ。それで、このドングリで、メイに何か買ってあげようと思うんだ!」
メイは、その言葉に、ぱっと目を大きく見開きました。「にいにが、買ってくれるの?!」と、信じられないといった様子で、小さな口をぽかんと開けています。いつも買ってもらうばかりだったメイにとって、こぐまが自分のお金で何かを買ってくれるというのは、とても驚くべきことだったのです。メイの顔には、驚きと、それから、きらきらとした期待が浮かびました。
次の週末、こぐまはお小遣いのドングリをぎゅっと握りしめ、メイの手を引いて森の広場へと向かいました。広場では、森の仲間たちが色々なものを売っています。ピカピカの石を集めたネックレス、色とりどりの鳥の羽の飾り、甘い花の蜜のお菓子。
「メイ、何が欲しい?」こぐまはメイに尋ねました。
メイは、目をキョロキョロさせながら、一つのお店に釘付けになりました。そこには、色とりどりの小さな石をひもに通して作られた、可愛らしいブレスレットが並んでいます。メイは、その中で一番小さな、水色の石のブレスレットを指さしました。
「にいに、これ!」
こぐまは、そのブレスレットを手に取り、お店のウサギさんにドングリを渡しました。初めて自分のお金で何かを買う、特別な瞬間です。
「ありがとう!」
こぐまは、嬉しそうにメイの腕にそっとブレスレットをつけてあげました。メイは、腕についたブレスレットを触りながら、満面の笑みで「わーい! にいに、ありがとう!」と、何度もこぐまに抱きつきました。
「どういたしまして、メイ。気に入ってくれてよかった!」
巣穴に戻ると、お母さんクマとお父さんクマが、心配そうに待っていました。「ただいま!」こぐまが元気に声をかけると、二匹は駆け寄ってきて、メイの腕のブレスレットに気づきました。
「まあ! メイ、そのキラキラしたブレスレットは、どうしたの?」お母さんクマが目を輝かせました。
「にいにが、お小遣いで買ってくれたの!」メイが嬉しそうに答えました。
お父さんクマは、こぐまの頭を優しく撫でました。「こぐま、よくやったな! 自分の大切なお金で、メイにプレゼントを買ってあげるなんて、立派なお兄ちゃんだ。」
お母さんクマも、こぐまをぎゅっと抱きしめました。「本当に優しい子だね。お母さんは嬉しいわ。」
初めてのお小遣いは、こぐまにとって、ただのドングリではありませんでした。それは、頑張った証であり、自分の力で何かを選び、手に入れることができるという、新しい喜びの始まりでした。そして、大切なメイのために使ったお小遣いは、何よりも温かい気持ちをこぐまの心に残したのでした。
楽しんでいただけましたか?