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第零祓 Prologue
こぉひぃ☕️
世界は終わったわけではない。
ただ、静かに壊れていっただけだ。
人は気づかないふりをして、見ないようにしてきた。
都市の奥に潜む影。
歪み、蠢き、腐りきった“穢れ”が、街の呼吸に溶けていく。
それが何を蝕み、何を求めているのか、誰も知らなかった。
……いや、知ろうとしなかった。
見えないものは、いないもの。
けれど、確かに在る。
怪異――そう呼ばれた存在たち。
名もなき怒り、行き場なき苦痛、呑み込まれた感情の亡骸。
それは人ではない。だが、人から生まれる。
そしてそれを祓う者がいる。
己の身を汚し、穢れを纏い、同じ底へと堕ちていく者。
怪異と呼ばれるものと、ほとんど変わらぬ存在。
けれど彼らは、そうしてしか戦えなかった。
怪妖師――そう呼ばれた。
これは怪妖師の記録
否、記録とは違う。彼の選択、彼の運命、その爪痕。
終わらぬ夜の中で、彼が何を見て、何を喪ったのか。
そのすべてを、私は見ていた。
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咆哮が、都市の静寂を引き裂いた。
旧第十二区。空中歩道が連なる複合ビル群の一角。
その屋上にて、“それ”は姿を現した。
人の形に似せた異形の影。
四肢は捻れ、背から黒い糸のような靄が滲み出ている。
動くたびに視界が歪む。誰が何をしているのか、わからなくなる。
`「險ア縺輔↑縺??驛ィ縺ゅ?莠コ縺ョ縺帙>縺?蜈ィ驛ィ迢ゅ▲縺」`
「……回避不能ッ、接触面、圧縮されてる!」
ビルを貫く黒糸の束が、空間ごと仲間たちを縫い止めていた。
逃げれば裂かれる。動けば、そこにあるはずの“存在”が消える。
理屈が通じない。感覚が狂う。
それでも、彼女は一歩、前へ出た。
「代償。左眼、視力、焼却」
少女は低く告げ、呪符を咥えたまま、自らの肩に印を突き刺した。
炎が駆ける。赤く、凶暴に。
その身を焼きながら、彼女は炎を制御し、空中に紅蓮の紋章を刻み出す。
*《赫焔・弐ノ式――灰燼刻》*
空間ごと焼き払う術式。対象の“過去”を焼却し、存在の繋がりを断ち切る技。
怪異が呻いた。黒塊がよろめき、表層が崩れ落ちる。
少女の右腕はすでに焼け爛れ、感覚は消えていた。
「ッ、今だ!」
その声に、もう一人の怪妖師が飛び込む。
血塗れの黒刀。その刀には、彼の十年分の寿命が既に注がれていた。
「……代償。記憶、一年分、投下」
斬撃とともに、脳裏から何かが抜け落ちた。誰かの声、誰かの笑顔。
少年は思い出せない。だが、それでも構わない。
それが勝つために必要なら――
*《斬咎・終ノ型――残月斬》*
空が割れた。
空気が音もなく裂け、怪異の本体が、ゆっくりと断たれ、崩れた。
灰が舞う。夜風が吹き、闇がようやく、少しだけ晴れた。
祓い、完了。
誰も、歓声をあげなかった。
屋上のコンクリートの床を繰り返すほどの血液量。
その激しい戦闘のなかで、犠牲となった屍体の絨毯。
こうなった者達はもうこの世から残すことが出来ない。
また新たな怪異が生まれてしまうから。
生きていく以上、なにかしらの感情が生まれる
その中には人には見せられないような醜い感情もある。
そのような感情から怪異は生まれるのだ。
少年は持っていたライターで屍の山に火をつける。
まだ辛うじて意識を保っていた者も居たようで呻き声も聞こえる。
あとは処理係に任せれば良い。
もうこの光景も行為も慣れてしまった、そんな自分の善意が鈍くなっていく感覚に思わず苦笑いをする。
今日もまた新たな穢れを纏い、本部へ戻っていく。
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【怪異報告書 No.150426】
発生地:旧第十二区空中歩道連結ビル群
特徴: 黒糸状の異形構造体による視覚妨害
記憶混濁を引き起こす精神汚染効果
高度な偽装能力による長期潜伏
該当危険度: 厄
災
最も危険。破壊的かつ致命的な怪異。
禍
非常に危険。広範囲に被害を及ぼす存在。
厄
危険度中程度。複数術者が必要になることもある。
害
低~中危険。単独でも対応可能だが油断禁物。
厳
軽度。早急に対処すれば問題なし。
総括者: 柴利七火
補佐: 柚木津
生存者: 2名
…うち1名 左眼球.右手の一時焼却
1名、記憶一年分の喪失
犠牲者: 4名
…処理班により処理済。
行方不明者:2名
…うち1名は新たな怪異となった可能性あり。
備考: 怪異は既に埋葬済。
怪異の影響か一部住民に精神汚染が確認。
2097.06.26. 統合霊異対策本部 文書管理局
この度は沢山の方のご参加ありがとうございます!
気が向いた時に、書きたい時に書く、という流れにはなりますが何卒宜しくお願い致します。