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全てあなたの選択です。 No.1
ノロノロ執筆中…。
決まった時間にいつも通り、牢獄へ向かう。
フィリップは何も考えず足を運ぶ。
看守の朝は早い。4時には持ち場にいる必要があった。
朝の囚人は、意外にも大人しいのが救いだろうか。
ここでは囚人の1日のスケジュールというものがある。
朝8時の点呼を終えたら、次は彼らを食堂に彼らを向かわせる。
全員の食事が終えれば、10時までは各自で支度。
その後、13時までは持ち場で仕事。
仕事は日によって変わり、今日の仕事は草むしり。
仕事が終われば昼食を挟む。
それからは夕食まで自由に過ごす。
夜の点呼を終えたら彼らは眠りにつく。
囚人の1日は必ず時間通りに進む。
看守はそれに付き添うだけ。
看守の1日も思っている程大した事はないが、彼ら囚人と違い責任が大きい。
それに加え、文句を言える立場ではない。
だから文句を吐かずに仕事をこなすフィリップは、まさに適任だったのだ。
牢獄までもう少しといった所で、フィリップは1人の男と鉢合わせた。
「あ、フィリップさん。おはよう、まだ全員寝てるよ。人数も変わってない。」
その男は黒い髪をセンター分けにして、ニコニコと微笑みながらそう言った。
フィリップは彼の顔を見て、
「あぁ…、ヴェラさんですか。おはようございます。報告、感謝します。」
と、淡々とした口調のまま告げる。
ヴェラという男、本名はヴェラ・クロッキー。
彼は数年前からここで看守をしていた。
言わばフィリップにとっての仕事仲間。
「相変わらず表情変わんないね…。ホント、機械に育てられたのかってぐらい。」
ヴェラは苦笑しながら、そんな事を言うと、
「機械…?アンドロイドではなく…?どちらにせよ、私は機械に育てられていませんよ。」
フィリップは中々ド真面目に返す。
世間ではそれを天然というのだろうか。
これには慌ててヴェラも、
「いやいや、そういうジョークだから!」
と返す羽目になる。
フィリップはもう少しジョークが通じるようになるべきだ。
仕事に熱心なのは良いが、人間味がない。
多分皆そう思っている。
「失礼しました。これからは面白く返せるように努力します。」
「いや、別にそこまでしてほしい訳じゃないんだけど…。まぁ良いや、俺はいつも通り、しばらく仮眠とるよ。おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。椅子で寝ると老けやすくなるらしいので、気を付けて。」
「え!?それマジ!?」
「いえ、そういう冗談です。」
「…………。」
---
フィリップはいつもより5分遅れて牢獄へ着いた。
牢獄からは寝息がよく聞こえる。
フィリップは、いつもの椅子に腰を下ろす。
そこからは牢獄の中までは見えないものの、牢が動けば聞こえ、牢から手を出せば見える。
終わりがないと錯覚してしまう程の長い通路。
それを見ても尚、姿勢正しく座るフィリップの姿は、まさに見本と言えるのだろう。
ふと、声が聞こえたため、顔を上げると、遠くの方でフィリップを呼んでいる手が見える。
フィリップは小さく息を吐き、そこまで向かう。
どうせ用などないのだろう、行く必要はない。
彼はそんな事を考える事もなく、真面目に、足を進めていく。
フィリップが呼ばれたところで立ち止まると、そこには見慣れた顔がいた。
「おはよう、私の友人。」
まるでアルビノのような白い髪と赤い目を輝かせる男は微笑んだ。
牢獄は、それぞれの2人〜4人程のペアでそれぞれの牢に分けられているため、彼の後ろにはまだ寝ている囚人がいる。
フィリップは変わらない表情のまま、
「私はあなたの友人ではありません。」
と微かに首を傾げた。
白髪の三つ編み男は“シラ・スペード”という。
5、6年前に、ここにぶち込まれた、紛れもない囚人。
フィリップが告げた通り、友人なんかではない。
「フフ、残念ですね…。私達、長い付き合いなんですから、それぐらい親睦は深められているのではないでしょうか?」
それでも、シラは否定をしない。
頑固者…、いや、一途と言うべきか。
「…ところで、何か用があるのですか?」
きりが無いと判断したフィリップは、本来の目的を尋ねる。
シラはニッコリと微笑んで、
「貴方と話したかっただけです。」
とだけ言った。
こんなやり取りを、彼らは毎朝、もう3年は続けている。
いい加減どちらかが止めたら良いものを、クソ真面目看守と友人気取りのイカれ野郎の2人だからか、なかなか終わらないのだ。
「では、今日の天気の話をしましょうか。今日は17時までは雲量が2から4の晴れとなりそうです。後に曇りになり、23時には大雨になる予想です。風向は東北東、風量は…」
フィリップは大した世間話を持ち合わせていないため、話が思いつかない時の会話で定番の天気の話をする。
まるで気象予報士のようにスラスラと言う。
フィリップと会話がしたかっただけのシラは、ニコニコと相槌を打ちながら聞いていた。
「看守ー!」
しかし、丁度その時、もう少し行ったところでフィリップを呼ぶ声が聞こえる。
「すぐに向かいます。」
フィリップは天気の話を止め、シラには「では」とだけ言い足を進めた。
シラは自分を後回しにされたのが嫌だったのか、はたまたフィリップとの会話を邪魔されたのが嫌だったのか、小さく舌打ちをした。
---
やっと一段落落ち着いた時、8時を知らせる鐘が鳴った。
「点呼を始めます。」
フィリップはそう言い、バインダーを手にする。
牢獄は意外にも天井が高く、彼の声がよく響いた。
「1804番。」
『きりの悪い数字から点呼がスタートする。
しかし、それは仕方がない事なのだ。
それ以前の番号の者は、全員死んだ。
ただの“死刑”で。
ここはシンセシアB棟プリズン。
ネオシンセシアという街の9割を占める、大規模な拘置所だった。
アンドロイドを利用した犯罪が膨大に増えてきてから造られたもの。
街、と言ったが、ネオシンセシアに住む人は1人としていなかった。
いや、いなくなった。
皆、囚人達を恐れたのだ。
何年もしないうちに、この街は静寂を保つようになり、今ではまた領土を増やそうとしているらしい。
本部はネオシンセシアの中心区域にあたる。
そこから十字になるように拘置所が建てられている。
それぞれA棟、B棟、C棟、D棟と呼ぶ。
そしてフィリップは、いつからか看守として働き始めた。
当初から素晴らしい結果を残していたそうだ。
少なくとも、当初の彼を知る人は少なかった。
その時の看守達も、多くは亡くなったからだ。
理由は単純なものばかり。
囚人に殺されたか、シンセシアプリズンから逃げようとしたか。
辞職は、裏切りを示す。
だから、フィリップの事をよく知る者はここにはいないのだ。
知っている者がいるとすれば、それは本部のみとも言える。
しかし本部は囚人に直接的に関わる事はないから、知れるとしても看守のみだろう。
ところで聞いたことあるだろうか、
“薄情の悪魔”と呼ばれる彼の噂を。
実は……』
「そこ、私語を慎みなさい。」
囚人達が牢獄の中でコソコソと話していると、フィリップが冷たい言葉を吐き捨てる。
『ヒェッ!すみませんッ!!!!』
フィリップは、殺されるのではと息を呑む彼らに目もくれず、すぐに足を進め直す。
「今から朝食の時間です。鍵が空いたら素早く通路に出て、番号順に直立して待つこと。」
そう言って彼は胸元のポケットに入った機器を押す。
すると、途端に牢屋の牢が一斉に開いた。
囚人はゾロゾロと牢から出る。
何千人もいるというのに、彼らはズラリと真っ直ぐに並んだ。
何度もさせられて、慣れているといった所なのだろうか。
フィリップはそれを確認次第、彼らの前を歩く。
食堂までの廊下には、足音のみが聞こえた。
この囚人の中には、人のみならず持ち主の犯行に加担したアンドロイドも入っている。
今ではアンドロイドを持つ事が、主流となっていた。
それに漬け込んだ阿呆共が、“ガラクタ”を利用して犯罪を犯すのだ。
しかも、一昔前のアンドロイドとは違い、この時代のアンドロイドは、それぞれの意思がある。
今では意思のない機械の方が珍しい程。
それに加え、プログラムで全て言わされているだけのアンドロイドも珍しいものだった。
だから好きでそんな阿呆を慕っている馬鹿をいる訳になる。
人間とは違う厄介さがあるため、包み隠さずに言えば面倒くさいもの。
感情はあれど、“ガラクタ”は“ガラクタ”。
そう思わないだろうか。
プラスチックで出来ているのだから。
それでも彼らを対等に扱うフィリップは、彼らに可能性でも見出しているのか。
今じゃ、人とアンドロイドの違いを見抜くのは、もはや至難の業。
しかし、全く見抜けない事は無く、
彼らとのの違いはおおよそ3つある。
1つは人知を超えた技が出来るか否か。
2つは痛みを感じるのか。
3つは、血の色だ。
たったこの3つでしか、我々は判断が出来ない。
だが決定的とも言える違いだ。
壊せば分かる、そう言いたい訳だろう。
これらが完全に改善された時には、アンドロイドも1人の人間になりつつあるのかもしれない。
フィリップは食堂の扉を押し、囚人達が食堂に入りやすいようにする。
食堂の広さは学校の校庭の3倍以上もの大きさだった。
しかしその中に何千人が入るのだから、一丸にこれを広いとは言えない。
食堂はここが拘置所とは到底思えない程賑わっていた。
机にはすでに朝食が置かれており、必ず1人1食食べれるようになっている。
質素で味の薄い食事で到底美味しいとは言えない。
それでも賑わうのは、会話が許されているから。
フィリップは食堂の扉の近くで、手を後ろで組んで立っていた。
今から1時間はそこで監視する必要があるため、食堂を出る訳にはいかない。
とはいえ座ってしまえば、食堂の全貌が見えない。
もはや彼からすれば慣れている事だったため、すでに澄ました顔をしている。
食堂では様々な会話が出来る。
脱獄の機会を伺っているという話も、どこにどんな道があるという情報共有も可能だ。
看守からしたら面倒な場所なのだ。
全てひっくるめた意味で。
すると、丁度奥の方で囚人達が、騒然としていた。
どうやら1人の人間の男がアンドロイドの少女に暴力を振るおうとしているようだ。
囚人が他の囚人への暴力は、ここではよくある事だった。
特に食堂は、最も囚人同士が関わる場所だ。
さぞかし、目障りだったのだろう。
彼女の持ち主は、非力ながらも身を挺してまで仲介に入ろうとしていた。
男はそれを見て躊躇う事もなく、腕を振り上げる。
誰かの悲鳴とともに、そこには冷たい銃声が響いた。
男は喉を撃たれ、赤い液体を当たりに撒き散らしながらその場に倒れる。
銃声がした方には、煙たくなった銃を構えたフィリップが、静かに立っていた。
ツカツカと男の傍まで歩いてくる。
その姿は、まさに心がない、“薄情の悪魔”と言えるのだろう。
「5907番、息無し。……怪我はありますか?」
男の首元に手を当て、死んでいる事を確認した後、地面に膝をついたままアンドロイドの少女、ルラに尋ねる。
「うん、ありがとう!フィリップちゃん!」
純粋無垢なアンドロイドは輝かしい笑顔でお礼を言う。
色にばらつきがない綺麗なボブカットの髪がふわりと揺れる。
彼女と同じ髪色の髪をした、彼女の持ち主のサファイアも慌てて言った。
「フィリップさん!ほんっとうにありがとうございます!!!ルラに傷でも付けられたら、僕、僕………!!」
彼は途中泣きそうな顔で嗚咽を漏らす。
まだ泣いてはないが、きっと言葉にならないのだろう。
「…いえ、仕事ですのので。」
フィリップは内心感謝された事に疑問を抱きつつも、変わらない表情のまま、男の死体を抱える。
誰もがアンドロイドを認めている訳ではないのだ。
その事を誰もが重々理解した上で、こんな世界になっている。
誰も、止められなかったのだ。
彼が食堂を出た後、食堂はまた楽しそうな声で賑わい始めた。
フィリップは死体を食堂の外に放り出し、本部へと知らせる。
彼らが食事を終えるまでには回収に来てくれるだろう。
いつまでも外にいる訳にもいかないため、すぐに食堂に戻る。
たった1秒の隙が、彼らにとっての好機となる。
それを与える事で脱獄なんて試みられたら、本部からの印象はきっと悪くなるだろう。
食堂は何も変わらない様子だった。
念の為、食堂の扉を閉じる。
そしてまた、フィリップは後ろで手を組む。
彼の目には、何も映っていなかった。
ただ静かに、冷静に、水面のようにそこにいるだけ。
ここでの生活にも、慣れてしまった。
いつまで彼は看守として働かされるのか。
本来であれば、もうすでに本部で働いても良いはずだった。
数少ない看守仲間も、何人かは本部へ移っている。
やはり、本部からはフィリップは優秀な駒なのだろう。
フィリップもそれを知っているはず。
だが何も行動する事は無かった。
昇級は望んでいないのか。
こんなゴミ溜めのような場所とは、全くもって違うというのに。
フィリップには、欲がないのだ。
何か欲を持つべきだ。
些細な事も、欲望のために努力しようと思えるはず。
だが彼には分からないのだろう。
欲望と言うものが何か、どういった感情で生まれるのか。
経験を積むべきだったのだ。人間らしい経験を。
ふと、食堂の扉がフィリップにしか聞こえないであろう力でノックされる。
扉の向こうから、少なくとも今聞きたくない言葉が聞こえた。
ハッハーー!!!!
書き方変えて、めちゃ楽しんでるぅ!!!
楽しいぃーー!!!!!((
好きなところで切れるーー!!!!
1日1話とかじゃないって楽ーー!!!
本来はもう少し長かったけど、ちょっとフィリップの見せ場が多かったから分けました。
正直、キャラの使い方が荒い人間なんで、出てきてすぐ死んだとかあるかと思いますが、……大目に見て下さい。
これでも頑張って書くんで、それなりにファンレターとかくれたらもっと頑張ります…()
選択肢の方はもう少ししてから導入予定…。
流石に今は選択するとこないんで()