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ナンセンスプロポーズ/ハッピーマリー
《お題》
・身分差
・告白
・ナンセンス
アタシはリリー・リリアン。これでも、立派な王家の血筋である。
そろそろ結婚しなければいけないのだが、アタシに許嫁はいない。父は古くさい習慣を嫌うのだ。
代わりと言っちゃなんだけど、舞踏会で結婚相手を探す。ここに訪れた男性を、アタシが見定めるというわけだ。
風の噂によると、最有力候補はジュンとかいう男らしい。貴族の長男で、顔もいい、とか聞いた。
そして、いよいよ今日が舞踏会当日。
いい人は見つかるかしら。
華やかなドレスを身に纏い、会場に行く。もう人は大勢いた。
庶民も入っていい、という風になっていて、シンプルなスーツを着ている男性も多い。
アタシはお父様に言われたことを思い出した。
__『まずは楽しめばいいよ。そうしたら、いい相手が見つかるさ』
よし。お父様が言った通り、とりあえずは楽しもう。
……疲れた。帰りたい。
ものの十数分後、アタシはどっと疲れていた。
アタシと結婚して高い位につきたい奴らが、強引だからだ。
これだから庶民は、と思わざるを得ない。
ベランダに出て夜風に当たっていると、誰かがやって来た。
「__た、大変ですね……。あの、いいお相手は、見つかりましたか?」
身なりからして、庶民らしい。年齢は同じくらいか。
「……えぇ。素敵なお方ばかりで、私には勿体ないですわ」
言外に貴方に用はないと告げようと、そう答えた。
すると男性はぱちぱち瞬きをして、ふっと笑った。
アタシは言葉に詰まる。
………ちょっと、今アタシ、カッコいいとか思った? い、いやいやいや、まさか。
ぐるぐる考えていたら、男性が話し出した。
「僕、お母さんにリリー様と結婚して幸せになりなさいって言われて、無理矢理行かされたんですよ。い、いやその、リリー様のことが嫌いとかではないんですけど……どうせ釣り合わないし、って」
はは、何言ってんだろ僕、と俯きながら彼は自嘲気味に笑った。
……あ、アタシ、彼がいいな。
なんだか、ふとそう思った。
お父様も、許してくれるわよね。舞踏会に庶民も入れることにしたのは、お父様なのだし。
「ねぇ__」
「リリーさん!!」
勢いよくドアを開ける音とアタシを呼ぶ大声に、それは掻き消された。
「ここにおられましたか。探しましたよ!」
「っす、すみません。少し疲れてしまい、休憩したくって」
「いやいいんです。それよりも__」
もしや、と構える。
「私と、結婚してくださいっ!!」
バッと結婚指輪を差し出される。
イケメンに、しかも貴族に、プロポーズされる。
それは傍から見たら最高だったかもしれないが、アタシは冷め切った表情で彼を見ていた。
「……あの、ちょっといいかしら?」
相手の返事を待たずに、アタシは喋り出す。
「早すぎるわよ、プロポーズまでが! 初対面から五秒で指輪を差し出すって、どんなスピードよ! ていうか、さっきアタシが疲れたって言ったとき、『それよりも』って言ったわよね? 『それよりも』? あの場でアタシより大切なものって何? 期待に応えること? そんなもののために結婚しようとか、最っ低よ! 二度と顔を見せないで頂戴!」
そう捲し立てると、ジュンはしばらくぼーっとしたあとハッとし、会場の出入り口まで駆けていった。
「はんっ、ざまぁないわね」
……あ、庶民の彼のこと忘れてた。
横を見ると、彼は呆然としていた。
「……っそ、その」
「か、カッコ良かったです!」
謝ろうとした刹那、そう言われた。
「僕も内心怒ってたんですけど、言う勇気がなくて。でも、それを堂々と言って見せて……凄いです!」
目を輝かせている彼に、アタシはつい笑ってしまった。
「……ふふっ、ありがとう」
彼は照れ臭そうにはにかんだ。
そこでアタシは、思い出した。
「さっき『どうせ釣り合わない』って言ったわよね? でも、そんなの関係ないわよ。アタシと貴方の自由。だから、その__」
彼がやっとこっちを見た。
「アタシと、結婚してくれませんか?」
「……も、もちろん! よ、よろしくお願いします……リリー様」
「良かった。じゃあ、まずその呼び方を辞めてくれない?」
悪戯っぽくそう笑ってみせると、彼は狼狽えた。
「えっ?! いや、でも」
「アタシがいいからいいのよ。ねっ」
「じゃ、じゃあ……リリー、さん?」
「じゃなくて?」
「え、えーっと……り、リリー」
アタシは「よし! 敬語もなしでね!」と笑みを浮かべた。
「ちゅ、注文が多い……」
「へへー」
にっと笑うと、彼は照れたのかまた俯いた。
そういえば、とアタシは訊いた。
「今更だけど、アンタって名前なんて言うの?」
「フレン、で、だ、だよ。フレン・ブライアって言いま、言うんだ」
「…………ふふっ、噛みすぎじゃない?」
「だって、急に敬語やめろとか言うから……」
「そうね。ごめんごめん」
「もぉー……」
なんか、暖かいな。
アタシは、満面の笑みを浮かべて、
「じゃあこれからよろしくね、フレン」
と言った。
「……うん。よろしく、リリー」
な、長い……2000文字を超えてしまった。
まぁ私にしてはよく頑張ったんじゃないでしょうか。
こういう世界観の物語は書くの苦手なのに、よく書き切ったよ私。