閲覧設定

基本設定

※本文色のカスタマイズはこちら
※フォントのカスタマイズはこちら

詳細設定

※横組みはタブレットサイズ以上のみ反映

オプション設定

名前変換設定

この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります

公開中

ケッタイキッカイ曲パロ

雪城渚
篠宮菊花という人間は、どこまでも身勝手な猫のような奴だった。  170センチもある長身に、透き通るような白髪のロングヘア。街を歩けば誰もが振り返るような美貌を持ちながら、中身は驚くほど子供っぽくて、いつも私に甘えてばかり。 「ねえ未亜、今日の晩ご飯は何? 僕、ハンバーグがいいな。未亜の作るやつ」 「昨日も言ったでしょ。あんた、好き嫌い激しすぎるのよ。少しは野菜も食べなさい」 「えー、未亜がしっかり者だから、僕はつい甘えちゃうんだよ」  そう言ってクスクスと笑う彼女の顔は、少しだけ白すぎて、まるで陶器のようだった。  けれど、それが「病」のせいだなんて、私は微塵も思っていなかったのだ。菊花はいつも通り、猫のように気まぐれに笑い、私の服の裾を掴んで歩いていたから。  彼女は自分の死期を悟っていたらしい。  後から聞いた話では、余命宣告を受けてからかなりの時間が経っていたという。  それなのに、菊花は私に一言も言わなかった。  それどころか、死ぬ一週間前まで「来年の春は、一緒にあの公園に桜を見に行こうね」なんて、叶うはずのない約束を、さも楽しみそうに並べていた。  ――そして、ある朝。  菊花は、眠るようにして逝ってしまった。  病院のベッドではなく、私たちが一緒に住んでいた部屋の、彼女のベッドで。 「……バカじゃないの」  葬儀が終わった後の、静まり返った部屋。  私は、菊花が脱ぎっぱなしにしていたカーディガンを抱きしめて、独り言をこぼした。  泣いて、泣いて、もう涙も出ないと思っていたのに、視界はすぐに滲んでしまう。 「何が『来年』よ。何が『甘えちゃう』よ。……結局、一番大事な時に一人で勝手にいなくなるなんて。あんた、本当に最低」  恨み言を並べても、返事はない。  私は幽霊なんて信じない。死んだら無だ。記憶はただの電気信号。  そう自分に言い聞かせ、彼女の遺影をわざと裏返して、乱雑に積まれた段ボールに手をかけた時だった。 「なんてこったい…()未亜、僕の遺影を裏返すのは、ちょっとひどくないかい?w」  心臓が跳ねた。  聞き間違えるはずのない、あの、少し抜けたような、それでいて鈴を転がすような声。  恐る恐る振り返ると、そこには。  生前よりもさらに透明感を増した、白銀の髪を揺らす菊花が、窓際に腰掛けていた。