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第7章:北の谷
ようやく、ユウとカナは「北の谷」の入り口に辿り着いた。谷は深い森林に囲まれており、外界から隔絶された場所のように見えた。薄暗く、風が木々の間を抜ける音だけが響いている。
「本当にここに物資があるのかな……?」
カナが疑いの目を向けて言った。
「父が言ってた場所だ。多分、ここだよ」
ユウも確信はなかった。だが、この谷を越えれば、少なくとも次の手がかりが見つかるかもしれないと考えていた。ミナがそこにいるかもしれないという希望を胸に、二人は谷へ足を踏み入れる。
谷の奥深くに進むにつれて、周囲の景色はますます荒廃していった。かつてここに人々が住んでいたと思われる小道や家屋の跡が見つかるが、それらはすべて長い間放置され、自然に飲み込まれていた。
「どこに物資があるんだろう?」とカナが尋ねる。
ユウは周囲を見渡し、目を凝らして何か手がかりを探す。
そして、ある古びた石造りの建物が視界に入った。周囲には藪が生い茂り、見過ごしそうな場所にひっそりと建っていた。
「ここだ」
ユウは建物に向かって歩き出した。扉は腐って開かなくなっていたが、隙間から中を覗くと、薄暗い中に木箱や鉄製のケースが散乱しているのが見えた。
「やった、食料かもしれない!」
カナが駆け寄り、箱を開ける。中には、腐敗していない缶詰や乾燥食品が入っていた。
「これは助かる……」
ユウはホッとした。しばらく食料に困っていたが、これでしばらく生き延びられるだろう。しかし、気持ちが少し落ち着いたその時――
「誰だ!」
突然、鋭い声が響き、ユウとカナは振り返った。
そこには、ボロボロの軍服を着た男たちが立っていた。数人の顔は焦げたように焼け、目つきは鋭く、無表情だ。その背後には、鉄の棒や刃物を持った者もいる。
「ここは俺たちのテリトリーだ。お前ら、物資をどこで手に入れた?」
ユウは警戒しながら言った。
「俺たちはただの旅人だ。食料がなくて……」
「旅人だと? そんなのはどうでもいい。物資を渡せ」
男たちは銃を構え、ユウとカナに向けた。その中で、一番年長と思われる男が冷笑を浮かべながら言った。
「俺たちはこれから、ここを支配する。お前らもその一部になるか、死ぬかだ」
ユウは心の中で怒りが湧き上がるのを感じた。しかし、ここで無駄に抵抗しても、カナを巻き込むだけだと思い、冷静に考える。
「物資を渡す。だが、命だけは奪うな」
その言葉に、男たちが一瞬戸惑ったが、すぐにまた笑い声が上がった。
「命? それがどうした?」
その瞬間、ユウは自分の中で何かが弾ける音を聞いた。彼の心の奥底で、何かが壊れたのだ。
「もう、黙って奪われるだけの命なんか、俺は……!」
ユウは銃を取り出し、素早く発砲した。弾は相手の一人に命中し、男はその場で倒れる。
「クソ……!」
男たちは一斉に動き出し、銃を向けてきたが、ユウは冷静に次々と弾を放ち、相手を無力化していった。カナも震えながら銃を構えていたが、彼女はユウの背後で必死に守ろうと必死だった。
数分後、男たちは倒れ、静けさが戻った。
「これで……終わりだ」
ユウは肩で息をしながら、無事を確認した。カナがやっと顔を上げ、ユウの方を見た。
「ユウ……」
「大丈夫。もう、何も心配しなくていい」
二人は息を整えながら、しばらく無言で立ち尽くしていた。カナはようやく涙をこぼし、ユウの肩に手を置いた。