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〖吸いも吐くも実力次第〗
ものすごく先の話ですが、実は全シリーズがリンクしていまして、あるキャラクターの過去をシリーズとして出そうかなと考えています。
メインが複数で既に出ていますが、その他脇役を考えるのが面倒くさいんですね。
つまり、その時はよろしくお願いします。
ひとまずはこちらの参加者様を全て出し終わってからの話ですが...。
どれだけシリーズ出すのかって?良いじゃないですか、息抜きみたいなもんですよ。
そういえば余談ですが、本作の舞台は〖福井県〗を想定しています。
山中なので何を隠しても見つからなさそうですよね。
語り手:上原慶一
店を開けば金が入る。店を壊せば金が入る。ここは私の|理想郷《ズートピア》。
オフィスで事務をしながら見る監視カメラの従業員の右往左往。
人が汗水垂らして稼いだ金を譲渡せずに、経営資金にするのは三度の飯より美味い。
さぁ、働け!さぁ、倒せ!さぁ、稼げ!
●上原慶一
29歳、男性。本施設の|経営者《マネージャー》。
低賃金、悪環境、命の保証を一切しない(保険手当てなし)商業施設を経営している。
顔の左にある火傷は|過去の栄光《やらかしたこと》らしい。
彼女はいない。彼氏はいない。妻子はいる(永遠に未登場)。
●|日村遥《ひむらはるか》
ややクリーム色に近い金髪に緑の瞳をした美人さん。
振る舞いは優雅でどこかのご令嬢かと思わせる。
惣菜担当で、〖不可視の襲撃〗にて指を怪我したのは彼女。
彼女はいない。彼氏はいない。行方知らずの兄はいる。
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「|遥《はるか》、さん...?」
その女性二人の内、一人を見て柳田が呟いた。
「遥さん?日村さんのこと?」
それに翔が応えるように聞き返した。そしてまた、柳田も返す。
「ああ、あの日村さんだよ」
どこの日村さんだよ?という話は放っておいて、睨み合う女性たちに移りましょう。
銀髪の腰までの長髪をハーフアップにして、驚く程白い肌をした白いロングドレスを着たビーチサンダルの女性と、ややクリーム色の髪の女性。光に反射されて金髪にも見えます。
それらの髪が睨み合う本体が戦う激しい動き合わせて揺れ続け、水の滴りが水面を作り出した。
例の女性の口から水が出る度、日村遥がそれを避ける度、膝元の水がかさ増しされていく。
それに一早く気づいたのは、
「これ...不味くないですか?」
一護でした。それに柳田が一応聞き返します。
「ん?...何が?」
「いえ、この施設って排水機能ないですよね?消費者出てる間は窓も扉も開けないかぎり自動的に閉まりますし...」
「あ~...」
まるでテストの模範解答のような答えに柳田は納得するような声を出して、遅れて結論を出した。
「うん、不味いね。
と言うか、君らがさっき死にかけてた時点で気にするべきだったかも」
責任者としてあるまじき発言でした。
「じ、じゃあ...どうするんですか?」
「窓...開けるしかないかな。行こうか」
幸い、まだ腰くらいです。
三人が別れて窓を探そうとした瞬間、日村遥と呼ばれた女性が足がもつれたのか倒れかけて、それを一護がキャッチしました。遠くにいる二人は無事なのを確認して窓を探しに行きました。
そのまま、抱えて消費者から距離を取ると、例の女性が口を開きました。
「何するの?!逃げるつもり?!」
別に逃げるわけではないのですが、誰だって今まで対戦していた相手を担がれたら何かと思います。
これは理不尽な話ではなく正論でしょう、多分。
一般論ならここで離れれば距離を取れ、有利に戦況を進めることができるでしょう。
しかし、主人公の定番というものを忘れてはいけません。
「逃げないッ!!!!!!!!」
知能遅れですね、深刻な知能遅れです。
この主人公君は中々に正直で、芯の強い人物のようです。
「五月蝿い!!」
銀髪が..................。
「五月蝿いって言ってるでしょ!!!」
.....................................................................。
「黙るなよ、仕事しろ」
銀髪の女性の一言に少し間があき、一護が突っ込みをいれました。
こればかりは有難いですね、まさかこちらにも理不尽っぷりが飛んでくるとは思いませんでした。
さて、場面は流しそうめんのそうめんのように流れます。
銀髪の女性は今も水を流し込んでいて、胸元までに水が来ました。
男性は女性より背が高いのが一般的ですから、一護は日村さんを自分の頭ぐらいの位置まで持っていくことになります。両手は使えませんが、日村さんの両手は使えますね。
さて、どうするのでしょうか。
「っ......日村、さん。何か、何かありますか...?」
何も考えていなかったようです。
あれでしょうか。考えるより先に体が動いたの悪い典型例でしょうか。
これには日村遥さんも吃驚。
抱えられている身でありながら、少し考えて、初めて口を開きました。
「防水テープとかで、口を塞げませんか?」
とても透き通る優しい声色でした。
それを聞いて、一護が銀髪の彼女に背を向け、防水テープを探しに行きます。
後ろから、
「やっぱり逃げるんじゃない!」
女性の叫びが聞こえました。これは正しいです。
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「窓、窓、窓...柳田さん!これホントに大丈夫?!」
胸元まで水に浸かった空知が同様の様子で窓を開ける柳田に向かって叫んだ。
「いける、はずだけど...いけないなら排水溝を...」
「そんなのでいけるわけないじゃん!!」
「だったら、どうやって...!」
「泳ぐ!?ねぇ、もう泳ごう!?」
「翔!君、泳げるの?!」
「.........根っからのカナヅチで...」
「ダメじゃん!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ野郎の猿共の頭上、濡れないように高く積まれたガーデニングコーナーの棚に庭石の詰め合わせ袋があった。
そして、柳田の携帯がメールを受信した音が鳴りました。
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バシャバシャと水音が響き続ける廊下で、女性を抱えた男性の背後に何度か水がぶつかり、その背中を濡らす。
だんだんと腕の痛みと身体の寒さを感じてきた頃、DIYコーナーに防水テープがあるのを見つけました。
「橘さん!」
腕の中で自分を叫ぶ声がして、それが合図のように防水テープを手に取る。
手の中で勢いに任せてちぎり、後ろにいた銀髪の女性の口元に貼りつけた。
やがて、その口元のテープがガムのように膨らみを増して、角から水が出てくる。
それがだんだんと多くなって、防水テープが破けるようにして剥がれた。
「っお...マジかよ...」
「橘さん、走れますか?!」
「いや......申し訳ないんですが、日村さん...痛いし寒いしで、何か眠くて...」
「寒中で遭難した人みたいなこと言わないで下さい!」
「でも、日村さん...動けますか?」
「.........」
「体制、崩された時に脚の方に違和感があったんです。だから、多分...捻挫か何かをしてらっしゃいますよね」
「そう、ですけど...どうするんですか?」
「......何がですか?」
一護の頭上に息を大きく吸い込んで、今にも水を吐かんとする銀髪の女性の姿。
それが出ようとした時、その女性が唐突に体勢を崩して床に水を吐きました。
「えっ?」
べしゃんと音がして、下に見る女性の姿。
「|出水鈴《いずみすず》...能力は|水没飛瀑《すいぼつひばく》...。要は水が出せる能力ってとこかな」
柳田がその女性の下に立ちました。手には石を持っています。投げたようです。
ちなみにですが、瀑の読みは〖ばく〗ではなく正しくは〖たき〗と読みます。
意味は水しぶきやにわか雨ですが、なんだか特殊で粋な読み方をしますね。
「へぇ、名付けた奴はセンスがいいね」
石が大量に入った袋を持ちながら、空知が言いました。
袋は〖|珪藻土《けいそうど》〗とネームがされた商品のようです。珪藻土は化石化した植物性プランクトンで、主にバスマット等に使われているのが有名ですね。
つまり、高い吸水性とすぐに乾く速効性がある物質です。
「いいよね、これ...庭に撒いてもいい...けど...」
柳田が口を閉ざしました。
そうです、庭に撒いても乾きますが〖アスベスト〗という静かなる爆弾と異名をもつ有害物質が含まれています。
少々、いや結構危険なのでガーデニングコーナーで誰も購入できないよう、高い棚の上に置いて「私、売り物じゃないですよ」的なアピールをしていたんですね。
「まあ、別に...消費者ならいいかな...」
柳田が言葉の続きを言って、空知が出水鈴の口元に例の珪藻土が大量に入った袋の口をぴったりとつけました。
「なんなの...むぐっ」
物凄いスピードで口元が乾いて、水が引いていきます。しかし、端から見れば窒息しかかっているわけですから数秒間の内にすぐに袋と口を離して、柳田が持っていた珪藻土の塊で大きく振りかぶり、彼女の頭を強く殴りつけました。
鈍く重い音が響きました。
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「...お、終わったんですか?」
遥を下ろして、暖をとるために日村に背中を擦られている一護が伸びた出水鈴を見て、言いました。
それに柳田が応えます。
「多分...一護君は一回水からあがろうか。低体温症になってるかもしれないし」
「ど、どうやって?」
胸元まで水に浸かって...いえ、珪藻土のおかげで膝辺りに戻っているようです。
「そんなら、僕おぶっていくよ。翔は遥さんを」
「了解」
ということで、柳田が一護を、空知が日村、出水を抱えて無駄に残った浸水した廊下を歩いていきます。両手?に花ですね、羨ましくなんかないです。羨ましくなんてないです。
これが黒髪の女の子なら、あるいは白髪の女の子なら...どうでもいいですね。
「この水、どうします?」
不意に柳田に担がれた一護が将来を綴りました。
「もっかい、珪藻土使っとく?このままだとマネージャーに散々言われそうだし」
ダメです。
この場にいる全員がいずれ早死にすることになります。
「...無難に、ポンプ使おうか」
そう柳田が適切な最適案を提示して、この話は終わりました。
夕陽が映る水面に息をついて、ゆっくりと確かに歩みを進めました。
柳田の携帯が鳴る音がしました。