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5章 閑話 みんなの予選
・切り裂け銃声
射撃のルールは簡単だ。
限られた数の弾で、どれだけ的を撃ち抜けるか。
他の参加者を攻撃するのは禁止。攻撃した者は、無条件で失格となる。
使用する銃によって威力や精度が変わるので、参加者には銃が配付される。
自前の銃が使えるのは本選――魔法競技祭当日だけだ。
予選第一回なので、簡単な内容の課題だ。
五枚の動かない的を全て撃ち抜き、早かった三人が勝ち抜け。
弾の数は十二。
それぞれの的で、二回以上失敗しても良い。
しかし、その実、失敗して良いのは一回だけ。それ以上は、予選落ちする可能性が高くなる。
的を撃ち抜くのは、決して簡単ではない。
加えて、失敗して良い回数という縛りが、参加者の指を鈍らせていた。
そんな彼らの目には、特に構えることも無く銃を連射するメアの姿が、異質なものに映るだろう。
緊張も、|躊躇《ためら》いも無く。
メアは呼吸に合わせて、リズムよく的を撃ち抜いていく。
一発たりとも外さず、弾は全て的の中心を|穿《うが》った。
五発目の銃声が鳴り終わった後、その場が静まり返った。
誰も、的に向けて発砲しない。
誰もが、メアを見ている。
「メアリー・ルディ。予選通過」
こんな中でも冷静な教師が、メアの予選通過を告げた。
メアは配付された銃を教師に渡して、静かにその場を後にする。
メアの影が見えなくなって、ようやく世界に音が、動きが戻った。
参加者が、震える手で的に狙いを付ける。
その震えは、緊張によるものだけではなく。
先ほどの射撃に対する興奮や驚きが、多分に含まれているのだろう。
メアは、新入生部門の優勝候補に名乗りを上げた。
・天才の軌跡
短時間の超集中から、スブシーディムは静かに顔を上げた。
予選を観覧する人間はいない。だから、称賛の言葉はない。
それでも、スブシーディムの作品の凄さは、評価する教員へ、また他の参加者へ伝わった。
ある者は、純粋に作品の凄さに打ち震え。
またある者は、同じ魔石であれだけのものが作れるのかと絶望し。
またある者は、魔力操作の練度の高さを見て。
三者三様に、感嘆の、嘆きの、衝撃のため息をついた。
手のひらサイズに満たない魔石の中に、魔力が縦横無尽に走っている。
それらは干渉しあい、しかし混ざり合うことは無く、全てがスブシーディムに制御され、緻密な魔術が組み上げられていた。
小さな魔石から、この世のものではない幻想的な光景が空間に映し出される。
この時、会場に居た全ての人間が思った。
新入生部門で優勝を飾るのは、スブシーディムであると。
当のスブシーディムは、参加者の作品を見て、つまらなさそうに目を伏せただけだったが。
魔力操作の|稚《ち》|拙《せつ》さに、あるいは描き出された風景の平凡さに、見ていられなくなったのだろうか。
いずれにせよ、とんでもない逸材が現れた。
スブシーディムなら、総合部門で上級生とも渡り合えるかもしれない。
何人かの期待を背負って、スブシーディムは予選を通過した。
・伝説は作らない
『最強』を背負う彼よりも、速い者が居た。信じられないかもしれないが、事実だ。
彼が己より速い者の存在を知らなかったのは、ほとんど同時にゴールしたから。
ちょうど入れ替わるように、ダンジョンの入口に辿り着いたのだ。
これは、語られなかった『最速』の話である。その称号が『最強』の油断によるものかは、断言できない。
彼の名はルアイ。入試の模擬戦で、1296番としてトーマと戦った男だ。
この予選では、能力のある者と無い者がはっきりと分かれる。
隠されている魔石は五つ。参加人数は三十人弱。最大で、六分の一が予選を通過できる。
他の参加者より先に魔石を見つける探知能力、魔石を取られる前に取りに行く速さ、出口まで奪われない強さ。迷宮探索において必要な技能が、バランスよく試される。
◆
「予選を開始する」
先生の落ち着いた声を受けて、生徒は一斉にダンジョンに入った。
広範囲を捜索する|術《すべ》を持たない者は、入口から奥まで地道に探す。
ルアイは息を深く吐いた後、魔力探知を使った。
階層の半分ほどを一度に探知し、魔石を三つ見つける。
ルアイは現在地から一番遠い魔石を目指して、進み始めた。
魔石の所へ真っ直ぐ進むのは避け、他の参加者がいない道を選ぶ。
運が良いのか、モンスターに出会わなかった。
時折しゃがみ込んで、|空間収納袋《アイテムバッグ》を開く。
ダンジョンの環境を最大限に感じながら、ルアイは魔石への迂回ルートを進む。
他の参加者は、ルアイが進む方へ来なかった。
魔石に十分に近づいたルアイは、
「『|雷纏《らいてん》』」
雷を|纏《まと》って、魔石のもとへ一瞬で辿り着く。
ルアイは魔石を落とさないようにしっかり持って、出口までの道を走破した。
「――!」
ルアイの現れ方に先生は目を白黒させつつも、ルアイが持っている魔石が本物であると確認し、静かに予選通過を宣言した。
「ルアイ。予選通過」
先生がトーマの現れ方に驚いた様子を見せなかったのは、これが理由である。
・伝説の幕間
「予選を開始する」
念の為、教師が「る」の音をはっきり言うまで待ってから、ゼイヴィアはダンジョンに足を踏み入れる。フライングで失格になったら笑えない。
二年生の第一回予選の内容も、一年生と同じ「探し物」だ。ただし、一年生の予選より難しいが。
学園で一年間学んだ分、全体のレベルが上がっている。それを考慮しての難易度上昇。
探し物は魔石だ。外見で判断する方法は無く、刻まれた術式を見て判断するしか無い。
ゼイヴィアは探し物の魔石を目掛けて、一直線に進み始めた。
魔力探知したのか? ――否。
彼は、二年生ながらダンジョンを知り尽くしていた。
物を隠すならどこに隠すか、見つけてもらうためにはどこに隠すべきか、第一階層なら全て知っている。
いくつかの条件を照らし合わせて、予選に|相応《ふさわ》しい隠し場所を考えれば、隠し場所はいくつかに絞られた。
偶然、その先に魔石があったというだけである。
ゼイヴィアは魔石を手に取って、その感触を確かめた。
未加工の魔石とは違う雰囲気。間違いなく、これが探し物だ。
ゼイヴィアは魔石を慎重に懐にしまった。
ここからダンジョンの出入り口まで、一気に駆け抜ける。
魔術を使う生徒と比べて、その速度は遅い。しかし、道中の敵を全て一撃で倒している分、到着は早いだろう。
攻撃の瞬間、タイミングを合わせてスキルを発動するだけで、敵が面白いぐらいに簡単に斬れる。
何度もスキルを使ってきたゼイヴィアが、タイミングを誤る事は無い。
帰る時に、魔石を探す生徒とすれ違った。
誰もが、逆方向から猛然と走ってくるゼイヴィアを見て、ぎょっとしている。多分、魔石を発見した早さに。
ぎょっとした後、ゼイヴィアの顔を見て、「なんだあいつか」と納得の表情になった。
ゼイヴィア。稀代のダンジョン攻略家の伝説では、この程度の出来事が語られる事は無い。