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(1)この恋を君に叫ぶ
茜さす空。私達以外いない2人きりの教室に、彼が静かにペンを走らせる音が響く。夕陽で顔が赤く見え、私は彼の瞳に引き込まれ、じっと見つめる。時々、彼も私を見る。その時間は、この上なくロマンティックだった。
委員会よろしくね、そういえば話すのは初めてだったね。私が何を言っても彼は声を出さず、表情を変えず、ただペンを走らせた。丁寧な字で私への返事が綴られる。
紙に書いているからというのもあるだろうけど、短い返事でも言い切るのに時間を用した。でも何故か、不思議と退屈じゃなかった。何なら楽しかった。多分この人は不器用なんだ。私のくだらない、中身のない、そんな言葉一つ一つの意味の意味を考えて、真っ直ぐに返事をしてくれる。
彼と交わす会話は、何だか心地良かった。
クラスメイトの|須藤薫《すどうかおる》。二年で同じクラスになってから何となく興味を持っていた。
誰かと喋っているところは見たことないし、廊下に貼り出される定期考査の順位表はいつも上にいるし、他のクラスメイトは彼のことなんか全く気にしていないし。
でも私は、ずっと気になってたよ。
楽そうだから、で立候補したこの委員会も彼がやりそうだからなんて、不純な動機もある。彼が私と委員会活動をすることをどう思うかは別として、私は凄く嬉しい。
よく一緒にいるクラスメイトに言われた、「須藤と委員会一緒だったけど、大丈夫」と言葉。きっと彼女たちは善意で言っている。それでも不愉快だった。人とのコミュニケーションを遮断して、一人で生きる彼は、いつの間にか皆に煙たがられていたらしい。
「ね、一緒帰ろ」
ノートとペンを鞄にしまった彼は、こくんと頷いた。
皆が彼のことをどう思っているのかは正直、どうでもいい。私は、私の横を静かに歩く彼のことを知りたい。
「須藤くん、字綺麗だよね」
【そんなことないよ】
彼はスマホのメモアプリを私に見せた。外を歩くときはこうやって会話をするらしい。
信号待ちとか、立ち止まるときに話しかけたほうが良いかもしれない。
彼が立ち止まって私の行く方向とは逆を指差した。
「家そっち? じゃあここでばいばいだね」
スマホを操作して、文字を打ち込む。私はまた明日の声を用意しながら彼の言葉を待った。
【たくさん話せて楽しかった。また明日ね】
また、メモアプリの画面を見せる。
さっきまで喉にあったはずの声は何故か出なくて、代わりにさっきの彼みたいに頷いた。彼ははにかんで、背を向けた。
「またあした」
やっと出た私の声は、彼には届かなかった。