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過去知る風が吹く丘
レイは人類生前にお気に入りだった「風見の丘」へとユイナを連れて行った。丘の上に立つと、風が吹いていた。紫がかった空の下の崩れた残骸を、風は静かに揺らす。風は語りかけるが、話してはくれない。ただ、虚しく流れていくだけ。
「どうかされましたか?レイ」
レイはぼんやりと都市の残骸を見たまま答える。
「……懐かしいんだ」
彼は乾いた笑顔を見せる。その顔は、もう戻らないと諦めているように見えた。
「母さんは、ここの風が好きだった。父さんは、アンドロイドだったから分からないけど」
ユイナは風を分析した。湿度、温度、風量、風速。ただの情報の塊でしかない。
「風が好き?好きとはなんですか?レイ」
ユイナは首を傾げる。しかし、その表情に疑問は感じられず、ただの模範だと知り、少しがっかりする。
「いつか分かるよ」
レイはユイナに優しく微笑む。ユイナは相変わらず無表情で、どこか欠けた目で、遠くを見つめていた。
「ここは、もういいかな。どこか行こうか」
「はい」
彼女は、感情を知りたいと願った。
このまま続ければ、きっと彼女は心を手に入れる。
レイは小さく笑った。その笑みは、諦めではなく希望の笑みだった。