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おうぎベゼル 出題編
「滑稽なお話があるんですけど、
聞きますか?」
「なんだよその嫌な出だし」
そして聞きますか?なんて尋ねるのも嫌な
質問だ。聞かなきゃ、始まらないくせに。
「ふふ、じゃあ始めましょうか。神原先輩は、
同音異義語って知ってます?」
またしても質問を添えてくる。私の知識レベルを試されているような感覚になるのであまり
好きではないけれど、素直に応答した。
「知ってるよ。川と皮と革、みたいなやつ
だろ?」
「おお、流石神原先輩。
知己に長けていますねぇ」
「そのわざとらしい褒め方やめろ。で、それが
どうしたんだよ」
扇くんはまたしても、ふふ、と薄く笑って、
真っ黒な目を細めていた。細まった目の奥が
冷えている。
「その同音異義語にのお話を、今からしよう
かなぁと。あ、私用ではないですよ。使用でも脂溶でも紫陽でも子葉でも滋養でも、施用でも飼養でも死用でも止揚でも枝葉でも試傭でも
ないです。この場合、当てる漢字は『仕様』
ですかね」
口で言っても伝わらないの最たるものについての話を今からするらしい。しようって、そんなに漢字があるのか……。これは、絶対に
アニメ化されない、二次創作ぐらいでしか
出来ない話だろうな
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「さて神原先輩。禁書目録って分かります?」
「おい、インデックスで禁書目録に
変換するな。元の読みがわからないだろう」
「おっと失礼。変換ミスです」
「どんなだよ」
「まぁまぁ。あのインデックスちゃんでは
なく、はたまた文房具の一種である
インデックスでもなく、僕が言いたいのは
腕時計のインデックスの事ですが、ご存知ないですか?」
「まず腕時計にそんな部品があるのか」
「えぇ。時計におけるインデックスという
のは、文字盤に配置されている目盛や数字などの事を指します。インデックスにも色々種類がありましてね、神原先輩が今付けてらっしゃる時計の場合は、アラビアインデックスと
呼びます。まぁ、アラビア数字のインデックスだから、アラビアインデックスなんですが」
「へぇ、そうなのか。…雑学紹介は構わないの
だけれど、話の本筋が見えてこないぞ?」
「そう急かさないでくださいよ、野暮ですね。
今回はその時計に纏わる、同音異義語のお話
だと言うことを、僕は暗に示しているん
ですよ。ここまでは全て前座です。
前置きです」
「それならいいんだけどな」
「まぁ、インデックスがなんら関係がないとは
言わないにせよ、そういう話だというわけではありません」
「そういうわけじゃないのかよ」
「わけないんですよ。神原先輩としては、
沸けないかもしれませんが、もう暫しお待ち
ください」
「沸けないって。私は風呂か」
「高校生が時計屋さんに行ったことが始まり
です。そこは、昔から立ってはいるけれど、
ずっとシャッターが閉まったままで、空いて
いるところを見たことが無い、というような、半閉店中のお店でした。そんなお店がいきなり空いていたのですから、人間気になって
入っちゃいますよね。どんな年齢だろうと。
まぁだから、時計屋だったというのは入って
から知った形ではあったようです」
「ふーん……」
「そうして入ったお店ですが、ショーケースに陳列されていた時計はどれもしっかりと凝った装飾がされており、格式高めの高級腕時計店に置いてあっても不思議ではないレベル。
ショーケースは少々汚れていましたし、お値段の釣り合いは取れていなかったようですが。
それがもしやすると、閉店に追い込まれた理由なのかもしれませんねぇ」
「……」
「そんな時計を目の当たりにして、感嘆の声を
漏らしつつ、その高校生はレジカウンターの
向こうに座る店主に質問を投げかけます。
『ラグが絶対に無い時計はありますか?』と」
「……おかしい質問ではないな……」
「その店主は投げられた質問に対して『あぁ、
ありますよ。ご用意しましょうか?』と答えたそうです」
「普通の応対で、何か言うほどでも無いと
思うが」
「お黙り、人が話している最中でしょうが」
「なんだそのキャラ」
「『いえ、結構です』と高校生は返し、特に
何を買うでもなく、店を後にしました。そしてその高校生は、携帯を取り出し、電話をかけたそうです」
「…………」
「……………」
「………え、終わりか?」
「そうですよ?これ以上ないオチでしょう」
「いやいや、色々と疑問が残っているだろ!?高校生はどこに何の用で電話を掛けたのか、
そして高校生の質問の意図は何なのか、
いきなり時計屋が開店していたのは何故か、何一つ分かっていないだろう?!」
「じゃあ特別にヒントをお出しします。ここ
最近のお話なので神原先輩もご存知のはず
ですが、ここからバスで少し行った先に、
盗難事件がありましたよね?それも時計屋。
高級な」
「……つまり」
「おっと危ない。その答え合わせは次にお話ししましょう。はっはー。今回は簡単過ぎましたかね。次回はもっと難しくしましょう」
「いや、私もよくわかっていないところが
多いが」
「いえ、有能な読者の方に対して、ですよ。
インデックスを禁書目録だと思うような神原
先輩如きには、ノーヒントノー知識では分かりません」
「如きとか言うなよ。先輩に対して。もう敬えと言わないけどフリぐらいはしろよ」
「さて、ここは私と原作に倣って、こう言い
ましょうか。『僕は読書に挑戦する』とね」