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**距離、縮まる午後**
再会から数日後の放課後。
蓮が「よかったら一緒にどうですか」と誘ってくれたのは、小さな喫茶店だった。
静かでクラシックが流れる、ちょっと古めの空間。
二人きりで座るテーブル。
メニューを開いても、目に入らない。鼓動がうるさい。
「……本当に、私でよかったんですか?」
思わずこぼれたその言葉に、蓮はカップを口に運びながら答えた。
「“向日葵 柚子月”って名前、ずっと覚えてました。ひまわりって名前、あの時も不思議だなって思って。」
柚子月は驚いた。
「私……あのとき、自分の名前言ったっけ……?」
「日記に書いてありました。」
「……え?」
「置き忘れてたんですよ、あのベンチの上に。勝手に開いたら、名前が書いてあって。」
柚子月の顔が一気に熱くなる。
「うそっ……全部、読んだんですか?」
「読みました。ぜんぶ。……何年経っても、僕にとって、向日葵さんは“初恋”です。」
それは、ささやかな告白だった。
でも柚子月にとっては、人生で一番やさしく心に落ちる言葉だった。