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Chapter 6:人を助け助けられ
大通りに出て真っ先に目にしたのは、暴れ回るサティロスだった。
サボテンと大型犬が合体したような見た目のサティロスは、小さな種類だがあらゆるものを吸収し、食い尽くしていた。
大混乱の人々の中、僕はただ嬉しかった。
やっと、終わらせてくれる。
ふらふらとサティロスの方へ向かっていく。
途中、『そっちはサティロスの方向だ!』とか『あんたそっちは逆方向よ!』などと声をかけられたが、この絶好のチャンスを逃すはずがないでしょ。
おばあちゃん、今そっちに行くよ。
サティロスの方へ行くと、近くに20代前半の女性が転んでいることに気がついた。
近くに車椅子があったが、彼女は地面を這いつくばって進んでいる。
介護者の人に先に逃げられたのかな。
ふと、晩年のおばあちゃんの姿が頭によぎる。
おばあちゃんは、足を悪くして車椅子生活になっていた。
星羅「……あー!もう!」
どうせいらない命だ。せっかくなら人のために使ってやろう。
サティロスの方へ向かっていた足を方向転換させ、女性の元へ走る。
これでも短距離走は女子の中で一位だ。
星羅「大丈夫!?」
「っ…!?」
20代前半だと思っていたその女性の顔を見ると、僕とあまり歳は変わらないように見えた。
恐怖と絶望で顔色が悪く、乾いた涙が頬に道を作っている。
その女性をおぶると、サティロスとは反対の方向に走る。
星羅「ふっ…!」
女性は足の力がないため、通常の何倍もの重さがある。
脱力した人間は重い。そんなことは、わかっている。
後ろからサティロスが迫ってくる。
ついでに後ろから小石や瓦礫が降ってきて、当たると死にかねない。
悠長に思考を巡らせていると、後ろに衝撃が来た。
ぐ、と女性が声を漏らす。
首に生暖かいものが伝う。赤黒い液──血だ。
ずしりと、また女性が重くなる。
きっと小石が思いっきり頭に当たったのだろう。
まずい、このままじゃ──。
ズシン、と地面が揺れる。
まずい、また別のサティロスが来た。
今度はゾウと岩が合体したような見た目のサティロスだ。
サティロス2匹に、こちらを睨まれる。
あ、終わった。
身体中にビリビリと走る恐怖。
先ほどまで死にたいとまで思っていたのに、死を目の前にした恐怖で全身が震えている。
震えた手でミントブルーのカーディガンを破き、女性の頭に巻き付ける。
その動作に気を取られて、瓦礫の上に両足を乗せていることに気が付かなかった。
走れない、よろける。
星羅「うわっ!?」
足に力が入らない状態で瓦礫の上を乗り越えようとしたため、足がゴキっと音を立てる。
どうやらひねってしまったようだ。
星羅「くっそ…っ!」
サティロスが派手に地面を揺らしながらこちらに迫ってくる。
私たちを捕食できる距離まで、あと3メートル。
この人だけは、守らないと。
意識がない。
僕にできるだろうか。
僕にそんな力はあるだろうか。
星羅「うるせぇ、関係ねぇぇぇ!!!!!!!!」
女性を肩に担ぎ、授業で何回かやっただけの柔道で投げる。
頭をまた打たないように気を遣いながら投げたので、動きはゆっくりだ。
だが、確実に路地裏に彼女を隠すことができた。
足首が痛む、余裕の顔のサティロスが迫ってくる。
おばあちゃん、ごめん。
ぎゅっと目を瞑る。
あぁ、トドメを刺すのはゾウ型のサティロスか。
どうせなら、心臓グサッとひと突きで殺してくれる奴がよかった。
『もう満腹だろうがお前!!!!!!!!無駄に人殺すなバカァ!!!!!!!!』
街に響く、怒声。
そのあと、県中に響くんじゃないかと思うくらい大きな地響きが聞こえた。
あまりの音に目が裏返りそうになり、その後にきた風圧に吹き飛ばされる。
風圧に飛ばされながら、目を開けた。
サティロスの前に立ちはだかるのは、私より歳が下であろう小柄な少女。
だが、その身長の何倍もあるハルバードを振り回し、扱っている異様な光景が、僕の目に映った。