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碧が三つ
〚碧桐side〛
魁さんのところを出て一息つく。
本部は広島にあって、現在地は京都だから……
新幹線で行けるな。大体1時間半と言ったところか。
時間はかかってしまうが、仕方ない。
ただ、駅までは走って時間短縮するとしても、ひとつ大きな問題がある。それは……
「駅ってどっちだ?」
そう、駅がどっちかわからないのだ!
これは少し……いや、かなりまずい。
スマホはもう充電が切れそうだから使えないし、同行者もいない。つまり、俺を助けてくれるモノは、なにもない。まぁ、でも、
「なんとかなるっしょ!」
楽観的なのが俺の取り柄なんだから!うだうだ悩んでも仕方がねぇ。とりあえず行こう。
俺は、夜道を軽快に走った。
魁さんのところを出発してから早四時間。東の空がうっすらと明るくなっている。
通常の倍も時間がかかっちまった。そろそろ方向音痴もどうにかしないとな。
そんなことを考えながら、一つのビルに近づく。
中に入り、地下へと向かうと、少し進んだところにゲートが現れる。パスポートをかざして暗証番号を打つと、首領の部屋へと繋がる扉が現れる仕組みだ。前は暗証番号間違えまくってたっけな。
この先に、首領がいる。時々文通はしていたが、会うのは“あの時”以来だ。俺は、震える指先を無視して、扉の中へ足を進めた。
「よく来たな、碧桐」
「お久しぶりです。首領」
「うむ。立ちっぱなしもなんだろう。そこに座りなさい」
「御気遣い、感謝します」
首領の許可を得たため、椅子に座ろうとする。
と、その瞬間。
‘シュバッ’
という音とともに、ナイフが飛び出してきた。
俺はそれを、常備している小型ナイフで撃ち落とす。
「腕を上げたな、碧桐。流石、我が弟子だ」
「お褒めの言葉、感謝します。
ですが、そう思うのなら毎回毎回罠を仕掛けるのは辞めていただけません?」
そう、俺は首領の弟子なのだ。小さい頃に首領に拾われ、育てられたらしい。座ろうとした瞬間に武器が飛んでくる罠は今まで何度も経験したため、簡単に避けられる。でも、避けると首領に当たるから、撃ち落とさないと怒られるという、少し面倒くさいシステムなのだ。
だから来たくなかったんだよなぁ……
ちなみに、さっき手が震えてたのは、緊張とか恐怖じゃなくて、期待と呆れからな?
俺のお巫山戯好きな性格も、首領の影響が要因の半分を占めている。子供心ありすぎなんだよ、もうすぐ還暦のくせに。
「それで、今日はどのようなご要件なのでしょうか」
「それはだな、碧桐。お前の実績を見込んで、」
「お断りします」
首領の言葉を遮って食い気味に断る。続く言葉は予想がついているし、俺はそれを、何が何でも断る。
「まぁ、待て。断るとしても、最後まで話を聞いてくれ」
「……失礼いたしました」
「うむ。それでだな、碧桐。お前に、昇級の話があるのだ。お前は、数多くの高難度の任務をこなしてきた。先輩、後輩共に信頼も厚い。人望も、実績もあるのだ。
だからお前に現場に赴く“|実行役《トリガー》”ではなく、指示出しや情報管理を行う“|指揮官《フロントサイト》”として、動いてもらいたい。立場としては、魁と同じになるイメージだ。
検討、それはもらえないだろうか?」
やっぱり昇級の話か。でも、俺の答えは変わらない。
「やはり、お断りさせていただきます」
別に、|指揮官《フロントサイト》が嫌なわけではない。むしろ、上に立つ方が向いているとまで思っているんだ。でも……
「|実行役《トリガー》でないと意味がない、か?」
「はは。やはり首領にはお見透し、ですか」
首領の言う通り、|実行役《トリガー》でないと意味がないのだ。俺は、この意志を曲げるつもりは一切ない。
「俺、この意志だけは、絶対に曲げませんから」
「ふん。生意気になりおって、」
「もう良いですか?」
「いや、次の任務の資料だけ受け取っていけ」
「分かりました」
首領が棚から資料を持ってくる。受け取った俺は帰ろうと、首領に背を向ける。すると、
「なぁ、碧桐。まだ、髪は切らないのか?」
と、首領が問いかけてきた。俺の髪は、肩より少し下まで伸びている。でも、これは俺の意思でやっていることだ。他人にとやかく言われる筋合いはない。
「どうしようと俺の勝手でしょう?任務に支障はきたさないので」
「……そうか。では、これからも頼んだぞ」
「えぇ」
俺は振り向かずに返事をし、歩き出す。
ビルを出て空を見上げると、曇天の空が目に映った。
トリガーとフロントサイトは銃の部品の名称です。
役割の一部と日本語名の語感から選んだので、深い意味はありません。
ようやく首領が出せた………