公開中
私の好き
アゲハ
どうしても、やめられなかった。
やめたほうがいいって、何回も思ったのに。
あの人は、やさしくない。
連絡は返ってこないし、平気で嘘もつくし、他の女の人と会ってるのも知ってる。
わざとみたいに、私の嫌いなタバコも吸う。
それでも、嫌いになれなかった。
一度も「好き」なんて言ってくれなかった。
それでも、よかった。
たまに目が合うだけで、少しだけ近くに座ってくれるだけで。
勝手に理由を作って、勝手に満たされていた。
どうしようもなく、好きだった。
あの日も、同じだった。
帰ってきたときの匂いで、
全部わかってしまった。
もう、無理だと思った。
気づいたら、押し倒していた。
「私のこと、好き?」
自分でも、変なことを聞いてると思った。
「好きだよ、ちゃんと。」
初めてだった。嬉しかった。
それだけで、全部どうでもよくなりそうだった。
でも、同時にどうしようもなく怖く感じた。
「……なら、死んで」
気づいたら、そう言っていた。
どうしてそんなことを言ったのか、
よくわからない。
ただ、彼がどこにもいかない証明が、ほしかった。
首に手を当てる。
少しだけ、力を入れる。
「いいよ」
あまりにも、簡単だった。
その一言で、全部、崩れた。
彼が私のことを好きでも、それは私が欲しかった『好き』じゃない。
それでも、手を離せなかった。
涙が止まらなかった。
たった一度の「好き」でこんなに嬉しくなってしまった自分がどうしようもなく、嫌だった。
気づいたら、眠っていた。
目が覚めたとき、部屋は静かだった。
隣に彼はいなかった。
窓の方を見るけど、誰もいない。
あのタバコの匂いも、残っていなかった。
少し寂しい感じがした。
彼は朝に帰ってくるから、いつもと同じ部屋なはずなのに。
あんなに苦手だった、彼のタバコの匂いでさえ少し恋しいと思った。
テーブルの上に、
紙が一枚だけ置いてあった。
「好きだったよ」
その字はいつもと同じだった。
泣いた跡も、迷った跡もなかった。
これを、彼がどんな気持ちで書いたのかわからない。
わからないまま胸の奥だけが痛かった。
私はまだこんなに好きなのに。