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第3話
――午後の神域は静かに時を刻んでいた。
午前の小さな騒動が片付いてから、みんなそれぞれの時間を過ごしている。
私はリビングのソファに腰掛け、窓の外の景色をぼんやり眺めていた。
「ふふ、みんな忙しそうねぇ」
ムエルは相変わらず私のそばにぴったりと寄り添い、甘えた声で「彩音、構ってよぉ…」とねだっている。
でも、、、今は少し書類をやるので忙しい。
「もう少しだけ待っててね、ムエル。もう少しで終わるから。」
ちなみに私の隣では、れんかがキャンバスに向かって真剣な表情で絵を描いている。
色鮮やかな絵の具が動き、彼女の内なる感性が画布に刻まれていくのを見るのは、
なんだか嬉しい気持ちになる。
「れんか、上手に描けてるわね。私にも見せて?」
「あ、うん……じゃなくてっ!はい!彩音に見てもらうために描いてたんだよ!」
彼女の元気いっぱいな笑顔に、つい私も笑みを返してしまう。
見せてくれた絵はとてもうまかった。私の横顔を描いてくれたらしい。
一方で、月と月翔は互いに静かな距離を保ちながら、細かな魔法の書物を広げていた。
月はいつもの穏やかな口調で、「彩音様、こちらの呪文は私が調整いたしました」と報告し、
月翔はちょっとムスッとした表情で「彩音、、、月が僕のこといじってくる、、、」と呟いている。
2人とも、どこか楽しそう。
一方で桜杏は静かに本を読み、時折私にちらりと視線を向けては微笑む。
その瞳の奥には、いつも優しさと少しの不安が混じっている気がする。
「桜杏、疲れていない?」
「ううん、大丈夫。ありがと、お母さん」
その言葉に私は胸がじんと温かくなる。
エルザはそんな皆の姿を見て、何やら新しい魔法の研究を始めようとしているようだ。
時折小さな魔力の閃光が彼女の指先から放たれ、静かな部屋に煌めきを散らす。
数分後、、
「彩音、見て、、これが私の新作魔法よ、、!」
そう言うエルザの瞳は真剣そのものだった。
「すごいわね、エルザ。成功してよかったわね」
私はそう褒めながら、またひとときの静寂に身を委ねる。
――そんな午後、ふと窓の外から聞こえてきた声が、私の意識を引き戻す。
「彩音!ちょっと外に来て!」
数十分前、待つのに飽きて散歩に行ったムエルが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「何があったのかしら?」
「地上で未確認生物発見!」
「あらまぁ、、、」
「皆んな、いけるかしら?」
一同が私の言葉に応じて集まる。みんなの表情には警戒と決意が浮かぶ。
――これもまた、神域の日常なのだ。
物語は静かに、しかし確実に動き出していた。