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Chapter 4:葉の魔法少女
弾けるようなその感覚に驚き目を瞑ると、面白い格好になっていた。
ロゴ入りのTシャツにデニムのハーフパンツ、カラフルなスニーカーといういたってシンプルな格好だったのが、ネクタイ付きの軍服ロリィタに黒の編み上げブーツというコスプレのような服になっている。
心なしかライムグリーンだった自分の頭髪が、青寄りの深緑に変わっているような気がする。
花「おっけい変身したね!それで戦えるから…っ!武器が──」
余裕がなくなってきた花のもとにダッシュで向かう。
武器とかなんとか言ってたけど、これなら素手でもいけるわ。
大幅にパワーアップした自分の力を拳にこめ、サティロスに叩き込む。
拳が何故か緑色に光り、葉のようなエフェクトを纏った。
ブォン、と音を立てて叩き込んだ拳から、美しい葉のようなものが発生する。
するとその葉によってサティロスは切り刻まれ、先ほどまでの強さが嘘のように消滅した。
花「いや〜、驚いたよ。まさか武器なしで一匹仕留めるとは…」
芽衣「倒せた…」
何故倒せたのかはわからない。そもそも何故服装と髪の色が変わっているのか。
サティロスを倒し冷静になってくると、電車の窓に映る自分の姿に驚愕した。
ローリエカラーにライムグリーンのメッシュが入った派手髪、いつも通りのエバーグリーンの目の色、軍服ロリィタというコスプレのような衣装、相変わらず変わらない不健康なほど白い肌。
芽衣「は…?」
これじゃまるで──
魔法少女、じゃないか。
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少年を母親の元へ送り届けると、窓から地上に降りて近くの駅まで歩く。
着くまで暇なので、花にこのことについての解説をしてもらった。
どうやらこれは『変身』というらしく、魔法少女のデフォルト姿らしい。
この変身をすることで通常と比べて魔力と体力、そしてどこかの能力が標準値で5倍になるらしい。
標準値で、とのことなので磨くことで10倍以上にすることも可能だそう。
そしてそのどこかの能力というのは人によって違うらしく、扱う魔法の性質による得意魔法というのも存在するそうだ。
私の場合5倍になった能力は『筋力』。パワーは大切。
そして私の扱える魔法──それは、葉属性の魔法だそうだ。
花「いやぁ、まさか芽衣が葉属性とはねぇ…」
芽衣「失礼だな、何属性だと思ってたんだよ。」
花「火属性とかそっち系だと思ってたんだよねぇ…」
花がいうには、葉属性は『護り』や『癒し』の能力を得意とする属性であり、攻撃はそこまで強くないらしい。あれで弱いとは他の属性の魔法少女が気になってくる。
芽衣「ねぇ花。魔法少女って他に誰がいるの?」
授業かなんかで聞いたことがある。どの世代の魔法少女にも火、水、雷、風、音、葉の属性分の人数が存在すると。
例外を除いて。
花「いないよ。前の世代の魔法少女はみんな死んだり殺された。ちょうど一週間前にね。」
すっと体の体温が下がる音がする。
花の顔は見えなかった。
花「だから、新しい魔法少女を探してる。ってことで…」
ささっと私の前に出てきた花は、右手を差し出した。
花「斗霧芽衣。君に、魔法少女になって欲しい。」
黄色の形のいい吊り目は、獲物をとらえたライオンのように私を射抜いて離さない。
私としても、ここまでやってしまってはやらないとは言えない。
差し出された花の右手を握り、こう答えた。
芽衣「…ここまできて、嫌って言える根性の人はいないって。」
久しぶりに緩んだ私の表情筋を見て、花は安心したように私の手を握り返した。
花「うし、これからよろしく。芽衣──いや、葉の魔法少女、ミール・リーフェーズ。」
小さな駅の近く、一悶着あったこの日に1人目の魔法少女が誕生した。