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#4 GW旅行のお悩み相談?
ようやく、世間は落ち着いたようにみえる。少なくとも、わたしは、新しいクラスにクラスメート、先生の顔も覚えた。もうすでに、名前と顔、好きなものは結びつけることができる。
さて、5月に入った。もうすぐ|GW《ゴールデンウィーク》で、その後は典型的な五月病が待っている。パッパと悩み相談を終わらせ、無事にGWを満喫したいものだ。
「ったく、人間は悩みが多すぎるのよねぇ」
そうつぶやきながら、ポストをガシャガシャとふる。
「あんまり強くふったら、壊れんじゃねえの」
「ふーん。壊れたら、児童会室ん中の材料借りて、もっと丈夫なの作ればいいだけ。先代が悪いから」
「あっそ」
案の定、カサリと紙が入っていた。
『4年1組の、|野々木麗亜《ののぎれいあ》です。ゴールデンウィークに、家族旅行でハワイへ行くのですが、勉強があんまわかんないです。どうすりゃいいですか』
麗亜からの手紙を読み上げたあと、ふーっと大げさにため息をついた。
「もぉぉ、なんなのよ、この麗亜ってやつ!」
野々木という名字は見たことがある。けっこう珍しいな、と気に留めていた名字だ。近所にある、豪邸のような家の名字。
しれーっと「わたしはハワイに行きますが、あなたたちはせいぜい国内でしょうね。オホホホ」という感じが否めなくて、心底腹が立つ。
「ま、こういうやつは決まってるからな、だいたい」
「ビリッビリのこっなごなに破いてやりたいわ」
あーあー、本当にヘド祭りよ。
「パッパと解決して、しれっと腹いせして、休むわよっ」
「腹いせはすんなよ…」
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4年1組に行くと、案の定、違うオーラをまとう人が1人。プリン髪はごってごてに蛍光のゴムがまかれていて、色白さがすぎて逆に怖く、蛍光のルーズソックスがきつすぎる。スカートは短すぎてちょっと怖く、シャツはかろうじてふつうのだが、もはや蛍光ペンを擬人化したみたいになっている。名札には『野々木麗亜』の丸っこい文字が、かすかにみえる。
これが、あの豪華な豪邸の娘?想像とは程遠い。
「野々木さん、いますか」
「んー?誰ぇ?」
「GWのやつ。お前じゃねぇの?」
いつもだったら、宙の口ぶりを注意するだろう。でも、相手が相手なので、そっとしておく。
「あぁ、あれね。悪いけど、召使がやってくれるからいいわ。忙しいから、じゃ」
そっけなく返事されて、また悪口(と思われる)の話題になった。
あー、ほんっとうに腹が立つ!
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「あーゆーやつが、将来嫌われるか、愚痴られるやつなのよっ!」
「あいあい…ったく、女子んとこの喧嘩とか、こわいって聞いたことあるけどマジなんだな」
「そこらへんのやつとはちがうのよっ!」
宙の発言が、余計に火に油、いやガソリンを注ぐ。
おかしいのだ。休み時間を削ってまで、わたしたちはなやみを解決しようとした。なのに、そっけなく、しかも「わたしにも召使が…あ、みんないなかったんだぁ(笑)」みたいに言われて。あーあー、本当に腹が立つっ!
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数日後___
「転校生が来ます」
重い重い腰を上げて、わたしは登校した。偉いよね、うん、偉い。今から五月病ゾーンだから、覚悟しないと。
でも、びっくりした。5月なのに、転校生だって。どっかの私立小学校におちて、引きこもってたのかな。いや、そんな妄想は良くないよね…
「|鈴原心葉《すずはらここは》です、よろしくお願いします」
重ための前髪に、黒いメガネ。典型的な読書家!って感じだ。
男子らからは、「うわぁ、マジかよ、地味じゃん」と恋愛の標的にしないオーラ。女子からは、「ダッサ、絶対グループいれないわ」という、仲間外しのオーラ。
ちなみに、わたしからは「仲良くなれそうなタイプじゃん!!」という、興味津々のオーラだ。
彼女は黙々と本を読んでいた。今のセレクトは…何々、『雪女との物語』?あ、読んだことあるやつだ。設定は面白いよねー。
と思いつつ、わたしはぼーっとした。そうだ、20分休みなら悩み室にでも行こうか。宙はめずらしく、ドッジボールをしている。
すると、彼女はなにか思い出したように、ノートを破り、なにかを書いた。そのなにかを、小さくていねいに折りたたみ、ポッケに入れた。