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キミの名前を描きたい。11
君さえいれば。
ガラッ。俺は教室のドアを慎重に開けた。今までとは違う、本当の俺で。
その音とともに、クラスの視線が俺に向く。
しかし、俺を見た瞬間にクラスに悪い空気が流れる。それは、重くて俺を全力で押し返している。まるで、見えない壁が俺の前に立ちはだかっているようだ。
いつもならこんなの平気なのに、なぜか今は涙がこぼれそうだ。なんだろう、苦しい。そう感じたのはこれが初めてだった。
「なぁ、海勢頭。」
クラスメイトの声が聞こえて俺ははっと気が付いた。
いつもなら、もっと態度を大きくしていただろう。もっとさっさと教室に入って席についていただろう。
でもなぜか、今は指示を聞かない体も、いつもなら自由を手に入れていた口も、全く動かない。
「お前、なんで授業さぼってんの笑」
思考が停止している。なにも考えられない。
きっと、変わらないといけないと思っているのだろう。ここでいつものような行動をしてしまうと、これから先もずっと変われないと。今が変わる時だ。俺の本当の姿を―
いや、本当に変わる時なのだろうか。
「ほんっと、馬鹿だよなぁ。」
馬鹿、その言葉を聞いた途端に俺の中で何かが壊れる音がした。
手を握り締める。掌に爪が食い込んでとてつもなく痛かった。でも、今はそんなの気にしていられなかった。
目には涙がこみ上げてきた。
今までとは違うのに。
違う俺なのに。
それをなんとか主張しないと分かってもらえない。今まで俺が散々してきた、親に言われてしてきた、誰かに操られてしてきた行動が今、全部自分に返ってきている。
全部、俺のせい。なのか、
親のせい、なのか。
それすらも分からないまま人生を過ごしてきた。
俺が本当はどんな人なのかも分かられずに。
やっぱり、今のままでいい。
今はまだ変わらなくていい。
俺の一番大事な人に、ありのままの俺を分かってもらえれてるんだったら、それでいい。
それが、一番いい。
大事な人、小鳥遊が分かってくれているなら、それが俺にとって一番幸せなことだから。もう、それでいいんだ。それだけで十分。だから、これ以上幸せにならなくていい。でも、これ以上辛くなりたくない。
このままでいいんだ。今のままでもう十分。
だから、神様がいるならお願いです。俺にこれ以上何も足さず、何も引かないでください。
小鳥遊だけは絶対に―
「海勢頭何泣いてんの笑泣き虫はモテないぜ?もうもともとモテてないか。海勢頭のこと好きになる奴なんてほんとに世界一頭悪いと思う笑笑」
グサッ。ほらまた。
俺の心に刺さった異物は何個目だろう。きっと、数えきれないほどある。
「笑笑」
「やば笑笑」
クラスに笑い声が飛び散る。
ほんとに、人の気持ち分かってんのか。
「ねぇ、人の気持ち分かってんの?」
一瞬心で思ったことを口に出してしまったのかと思った。
そのこえは俺の真後ろから聞こえてきた。
俺は後ろに振り返る。
―小鳥遊。
キミの名前を描きたい。11を読んでくださりありがとうございます!
これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします!