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終焉の鐘 第十一話
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
中国裏社会の帝王
【闇雲】
彼の率いる|組織犯罪集団《マフィア》
【|终焉的钟《終焉の鐘》】
彼らもまた、
嘘を信じ
嘘を愛し
そして
闇を愛すものだった
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第十一話 ~紫の雲~
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子供は、レストラ共和国の王族だった。
正妻と側室のどちらもが同じ日に跡取りになれる男児を産んだ。
正妻の子は父親である陛下の容姿を全て引き継いだ黒髪にオレンジの瞳の子供。顔立ちは正妻に似ており、まさに跡取りにふさわしい子供だった。
側室の子は陛下よりも微かに薄い黒髪に、陛下にも側室にも似ていない紫の目の子供だった。
人々は側室を疑った。他の男がいたのかと──陛下はどうにか頑張ってその噂を消そうとしたがどうにも出来なかった。側室はひどいいじめにより自ら命を絶つ。
それを嘆いた陛下は、側室の子供を陛下の右腕である貴族に預けた。王族のみが持つことができる紋章を子供に預けて──
そして、側室と仲が良かった正妻は、側室が自殺したと知ると陛下を責めた。そして────
子供を連れてどこかへ消え去った──────
その子供こそが、後の地獄人形こと紫雲と、地獄傀儡だった。
彼らは自分の過去を戦争が起きてから知ることになる。
たまたま仲が良かった幼馴染が異母兄弟で、自分達が王族だということを。しかし、それを知った時にはもう既に遅かった。
共和国は戦争に巻き込まれて崩壊──
その2人は許さなかった。
自分達の国を滅ぼしたことを後悔させるために、彼らは裏社会の人間になる。
「そこの2人──共和国の生き残りか──?」
そして偶然出会った1人の、2人と3・4しか歳が違わない少年──屑洟に出会う。屑洟から様々なことを教わった2人は瞬く間に知られ渡った。幾つもの国を滅ぼした2人組と。
しかし突然、屑洟は姿を消した。2人の師匠でもあり、兄のような存在だった彼は失踪。2人は取り残されてしまう。
その後、地獄傀儡はビルの上から飛び降りた──
地獄人形のためという理由で。
全てが壊れた地獄人形は、一人で自分を責め続ける。闇雲に出会うまで────
真実を知っているのは地獄傀儡と────
屑洟だけだった
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紫雲の話を聞き終わった黒雪は、目の前で優雅にお茶を飲んでいる紫雲を見つめる。
「俺はまだ──幹部としての実力は低く、Lastや氷夜さんに比べたらとても弱い──七篠よりも弱いかもしれない。それでも、俺はあなたに──紫雲様に、地獄人形に、忠誠を誓います。必ず俺が、あなたの手足となり、必ずあなたを幸せにする──‼︎」
黒雪の力強い言葉に、紫雲は目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう──」
彼のその言葉に、黒雪はフッと微笑む。また、紫雲と黒雪の秘密が出来る。
「それと、黒雪は弱くない──俺のあの攻撃を避けれたのは、黒雪は強い証拠だよ」
そう言った紫雲は立ち上がり、黒雪を優しい瞳で捉える。
「着いてきな──鍛えてあげる」
その言葉に黒雪は嬉しそうに立ち上がった。アンダーボス自ら鍛えてもらえるチャンスなんて滅多にないだろう。黒雪はそのチャンスを逃したくはなかった。
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「すごい‼︎体が軽いです‼︎」
次の日、訓練場で黒雪は嬉しそうにそう言った。昨日、紫雲のスパルタ指導を受けた甲斐があった──黒雪はそれに安堵する。あんなに鬼畜な訓練をさせておいて成果なしだと流石の黒雪でも泣きたくなる。
嬉しそうにしている黒雪の耳元で、何かの音が鳴った。その音が聞こえた瞬間、2人はスッと冷たい雰囲気を取り戻す。仲間からのSOS用の通信機だ。黒雪は耳に手を当てる。
『黒────雪くん────応戦た──の────む』
かなり離れているためか途切れ途切れの七篠の声に、黒雪は顔を顰めた。七篠は色々あってもかなり優秀だ。
「七篠、聞こえるか?紫雲だ。そちらに幹部は何人いる?」
紫雲のその問いに、しばらくしてから七篠が答える。
「1人で──す──Lastさ──んが────」
その途端ブチって通信が切れた。相当まずそうな状況だ。
「黒雪、行くぞ」
紫雲はそう言うと、自分の頭の上に何かをぶっかけた。かかった所から、みるみる内に髪が紫になっていく。一瞬で、紫雲の髪が染まった。黒雪と紫雲は走り出す。通信が入った方角に向かって住宅地の屋根を飛び回りながら最短距離で進んで行く。
「やぁやぁ──来るのが遅いじゃないか紫雲様──黒雪くんも一緒か。ちょうど良いね」
あたり一面が燃え盛るそこには既に、応戦に来たと思われる氷夜と孌朱がいた。
「Lastは──っ⁉︎」
黒雪のその声に、孌朱は視線を後にやる。
「よく耐えた物だ──たまたま七篠とらすとが合流出来てたのが幸か不幸か──」
孌朱のその言葉に、黒雪は息を呑む。まさかと思った。そんなわけない──と。
「まだ息はしている。七篠を庇いながら一人で敵を半壊させたんだ。そりゃあ大怪我をする」
黒雪はまだ息はあるとわかり、少し安心したようにため息をついた。そして、目の前にいる独特な服装をした男に視線を向ける。
「あっれぇ──困ったなぁ?紫雲くんは攻撃すんなって言われてるんだよねぇ?なんか、傀儡様がなんちゃらかんちゃらとか──?あれ、なんだっけ?まぁどーでもいっかぁ」
男はそう言うと笑顔を浮かべた。
「はじめましてー?【地獄のマリオネット】って言いまぁす。あれだね、地狱的入口のいちおー幹部やってまぁす」
マリオネットはそう言うと、攻撃はせずにニコニコしている。
「そうそう──誰だっけ、あぁ──らすとくん?だっけぇ?彼さぁ凄いよねーあの煤煙でさえ一人倒すのに手こずった僕たちのところのソルジャーを半壊させたんだよー?本当に来た時びっくりしちゃった‼︎だって怪我一つしてないんだもん──ただ恐ろしいくらい体力使ったんだろうねぇー。僕と戦った時にはもう弱かったなぁ」
お互い攻撃はしかけなかった。
「コンシリエーレのその赤い髪の人──君も凄かったなぁ──だってさぁ上から誰かが降ってきたって思ったら、躊躇なく爆薬投げ飛ばしてきてさぁ、しかも煙が上がってて周り見えないはずなのに10人以上も銃殺しちゃうしさぁ」
「本当──殺すのが勿体ないくらいの化け物揃────」
「地獄────自虐────自殺────」
マリオネットの言葉を遮るように、紫雲はそう口を開いた。その言葉に、マリオネットは呆然としている。
「自傷────他殺────虐待────」
紫雲が言葉を続けるにつれ、マリオネットは顔を顰めていった。
「地狱的入口────欢迎来到地狱」
黒雪の時にはわざと最後まで唱えなかったその言葉。紫雲がそれを良い終わり、不気味に笑った時には、ポタポタと血を垂らしマリオネットは膝から崩れ落ちていた。
「地獄のマリオネットって言ったかな──俺は今すごく怒っているんだ」
紫雲の殺意がこもったその言葉に、マリオネットは顔を顰める。
「なぜ────?なぜお前がその言葉を知っている⁉︎」
恐怖で歪んだ顔でマリオネットはそう叫んだ。
「その言葉を最後まで言えるわけがない‼︎それなのになぜお前はそれを──その言葉は────────」
紫雲はマリオネットの最後の言葉まで待たない。躊躇いもなく発砲をした。そしてマリオネットの懐から通信機を取り出すと、冷たい声で言い捨てる。
「ما هو الغرض على الأرض؟ لماذا تعرف دمى الجحيم؟ لماذا دمى الجحيم على قيد الحياة؟ أخبرني بكل أهدافك. قتلت ماريونيت الجحيم.」
紫雲はため息をついて身を翻す。Lastの手当てを素早く終わらせてから、一言も喋らずにどこかに消えていった。
彼は、誰よりも孤独だった────