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第三話
【前回のあらすじ】
沙雪は、遂にボスと呼ばれる妖怪、鬼の『灯和』に出会う。
しかし、彼は沙雪を見るなり泣いて大暴れした。
そう、鬼である灯和は、実はとんでもない人見知りだったのだ…!!
二人がようやく落ち着いて挨拶し合っていたところに突然きた速報は、
『山で妖怪が暴れている』と言った内容だった。
すると突然、沙雪は彼らに連れて行かれて……!!?
__ヒュオオォォォ…__
**沙雪「きゃああぁぁぁあああ!!!!??」**
私は今、空を飛んでいる。
いや、正確に言えば、崖から飛んで、落ちていってる。
しかも、鬼に抱えられ、龍に励まされながら。
**沙雪「どうなってるのーー!!!?!?」**
竜翔「ごめんね!でももう少し我慢して…!」
灯和「………!!いた!!!」
沙雪「!?」
思わず下を見ると、天舞さんと火影さんがそこにいた。
天舞さんは大きな翼で宙に浮き、火影さんは近くの大樹の上に立っていた。
木から少し離れたところで土煙が上がっている。
灯和「…よっと!!」
私を抱えてる鬼…灯和さんは、高さ200mはある崖から飛び降りた。
そして、大樹の枝に難なく着地した。
灯和「沙雪ちゃん大丈夫?怪我とかしてない…!?」
沙雪「は…はい…!!」
竜翔「妖怪が暴れてるのはどこ?」
火影「あそこだ。」
火影さんが指差す先には、土煙に紛れて白い影が見え隠れしていた。
天舞「多分、大蛇だろーな。居場所を横取りしてんだろ。」
沙雪「え!?」
灯和「説得はした?」
天舞「してみたが、まるで聞く耳持ってねーなありゃ。」
灯和「………そっか……僕が行ってみるよ。竜翔、火影、沙雪ちゃんをお願い!」
竜翔「!…うん!」
火影「わかった。」
灯和「天舞は僕と一緒に来て!」
天舞「はいはーい。」
そう言いながら、天舞さんと灯和さんは下へ行ってしまった。
……大蛇が暴れてる…?
竜翔「よいしょ…!沙雪ちゃん、ボクが支えるけど、気をつけてね!」
沙雪「うん…ありがとう、竜翔くん…」
竜翔「!うん…!!」
火影「あまり大事にはしないで欲しいがな。」
沙雪「………あの……なんで私はここに連れてこられてるんですか?」
火影「……屋敷にいたら危なかったからな。」
沙雪「?」
竜翔「…上、見てみて。」
そう言われ、私は上を見上げる。
その瞬間、私は衝撃で絶句してしまった。
沙雪「………お屋敷が……崩れてる……!?」
さっきまで私たちがいた屋敷が、無数の白蛇に覆われているのだ。
おそらく、白蛇たちがそこらじゅうを噛んで、柱を何本も折ったのだろう。
火影「下の大蛇の子分たちだろうな。恐らくだが、我らを探してる。」
竜翔「…ボクら、他の妖怪さんに狙われることが多いんだ。」
沙雪「……だから…逃がしてくれたんですか…?」
火影「そういうことだ。」
沙雪「あ…ありがとうございました…!!」
竜翔「大丈夫だよ!…それより……下の二人、大丈夫かな…?」
灯和さんと天舞さんが下へ行ってしまったことをハッと思い出す。
下では、灯和さんと大蛇が睨み合っていた。
その少し上から、天舞さんが大蛇を見下ろしている。
`大蛇`「シュウウゥゥゥゥゥゥ………」
灯和「ごめんね。でもここは僕らの山なんだ。だからこれ以上暴れないで欲しい。」
私は驚いた。
灯和さんに、先ほどの人見知りの影は見れなかったから。
そこにいたのは、まるで山の守護神だった。
灯和「もし君が僕らに攻撃した時は…」
「…………申し訳ないけど、こちらも攻撃せざるを得なくなる。」
天舞「今ならまだ引き返せるぞ?」
`大蛇`「…………………………」
**「ジャアアァァァァアア!!!!」**
沙雪「!!!!」
ヨロッ
沙雪「………!?」
**ギュッ!**
竜翔「だ、大丈夫!?」
火影「腰が抜けてしまったか?」
沙雪(あぶない…!火影さんが腕を掴んでくれなかったら落ちてた…!!)
「ごめんなさい……」
火影「構わない。」
沙雪「!!そ、それより下は!!?」
下の二人は、全く動じてはいなかった。
天舞「………今のは宣戦布告と捉えていいか?」
灯和「……だね。大蛇は僕がやるよ。天舞は他の白蛇たちを相手して。」
天舞「おけ。じゃあ一つ片付けますかー。」
**`大蛇`「シャアアアアアアアァァァァアア!!!!!!!!!」**
大蛇はその声と同時に、尾を大きく振りかぶった。
その尾は私たちが立っている大樹に強く当たった。
**バキッ!**
その瞬間、私の足場が音を立ててなくなった。
沙雪「………!!?」
火影「!竜翔!!」
竜翔「わかった!!沙雪ちゃん!掴んで!!」
そういって竜翔くんは、私に手を差しのばした。
私はどうしようもなくて、反射的にその手を強く掴んだ。
気付けば火影さんもその手を掴んでいる。
沙雪(…!!地面に…ぶつかる……!!!!)
「…………ッッ!!!」
**竜翔「沙雪ちゃん!火影!離さないでね!!」**
**ぼわんっ!**
---
……目の前が真っ白だ。
開けているはずなのに、閉じているような気さえした。
風が強い。何が起こったのか理解できない。
私は地面にぶつかりかけて…目を瞑って…それから…
火影「沙雪、目を開けろ。」
声が聞こえ、私はそっちの方に顔を向ける。
隣に、火影さんが座っていた。
沙雪「!ここは!?竜翔くんは!!?」
火影「一度落ち着け。竜翔ならここにいる。よく周りを見ろ。」
そう言われ、私は足場を確認する。
そこには、目を疑うものがあった。
沙雪「………?緑の…鱗?」
突然目の前の景色が開ける。
煙から抜け出せたのだ。
私は周りを見渡す。
そして、衝撃の事実に気付いた。
--- 私たちは、巨大な竜の手の中にいたのだ。 ---
緑に輝く美しい鱗。鋭い爪。10mを裕に上回る身体。金色のたてがみ。
…しかし、私には正体がすぐにわかった。
沙雪「……!!竜翔くん……!!?」
竜翔「沙雪ちゃん!?大丈夫!!?」
火影「ああ、二人とも無事だ。」
沙雪「…すごく大きくなれるんだね…」
竜翔「一応緑竜だからね!!」
火影「それより、下の2人を気に掛けた方がいいんじゃないか?」
竜翔「!忘れてた…」
竜翔くんが空中で止まる。
私と火影さんは指の隙間から下を見た。
下では、大蛇と灯和さん、白蛇たちと天舞さんが対峙していた。
---
天舞さんの手には、|羽団扇《はうちわ》が握られていた。
天舞「ほいっと!!!」
そういって彼は手の団扇を一振りした。
**ビュオオォォォオオ!!!**
その瞬間、突風が巻き起こり、白蛇たちは一掃されていった。
こちらにも風が来て、思わず飛んでいきそうになる。
竜翔「ちょっと天舞!気をつけてよ!!」
火影「…力加減を知らないのか?(イラァ)」
天舞「してるっつーの!!」
この突風で、手加減あり…!?
でも、こちらは大丈夫そうだ。
灯和さんは大丈夫だろうか……
私はそちらに目を向けた。
---
**`大蛇`「ジャアアアァァ!!!!」**
灯和「…………」
一見、彼らは互角のように見えた。
大蛇が攻撃して、灯和さんが避ける。
それの繰り返しのように見えた。
--- そう、見えていたのだ。 ---
**`大蛇`「ジャアアアアア!!!!!」**
灯和「………ごめん…」
**ガァン!!!!!**
突然の爆音に肩が跳ねる。
そして、次の光景に、私は目を疑った。
`大蛇`「……………!!!!」
灯和「…………本当に…ごめんね…」
大蛇が、灯和さんの横に倒れていたのだ。
灯和さんの手には、どこから出てきたのか、紫の炎を纏った金棒が握られていた。
彼の優しい見た目とは真逆の、重々しく鈍い漆黒の金棒だった。
沙雪「!!あれは……!?!!?」
最初の人見知りで怖がりな印象があるからか、目の前の光景が信じられない。
本当に、何が起きたのかわからなかったのだ。
先ほどの優しい灯和さんと、目の前にいる金棒を持った彼の像が重ならない。
竜翔「……!そういえば灯和、沙雪ちゃんに種族言ってなかったね…」
火影「沙雪。灯和の種族は、ただの鬼じゃない。」
沙雪「!!?」
緊張が背中を走る。変な汗が額を伝う。
ゴクリ、と唾を飲み込み、火影さんの目を見つめる。
竜翔「一度は耳にしたことはあるだろう。あいつの種族は……」
--- **「世界最恐の鬼、`酒呑童子`だ。」** ---
沙雪「………!!!!」
---
竜翔「灯和!大丈夫!?」
灯和「……僕は大丈夫だよ。」
火影「竜翔、下に降りてくれ。」
竜翔「うん!」
__シュルルルルル…__
竜翔くんは地面に降りて、元の幼い姿に戻った。
天舞「……そいつ、死んだのかよ?」
灯和「…ううん。気を失ってるだけだよ。力加減はした。」
天舞「…………そうか。」
火影「………………」
竜翔「………………」
灯和「…白蛇は元々、神の使いとも言われてる神聖な生き物なんだ。」
「……よっぽどのことがない限り、山を荒らすなんてことしないはずなんだ。」
「多分…自分の家を。山を。奪われたんだろうね…」
そう言いながら、灯和さんはゆっくりと大蛇に近づく。
そして、大蛇の顔に、自分の額を合わせた。
`大蛇`「………」
灯和「……………ごめんね…」
「………君だって……必死だったんだよね………」
沙雪「……………」
…私には、妖怪たちから『ボス』と呼ばれた鬼の横顔が、ひどく哀しく見えた。
---
第三話 ~完~