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公開中

花火の咲く夜に

麦畑が黄金色に輝き始めた頃、ナツとゲシはようやく落ち着いたのか、疲れたのか、2人並んで地べたに座り込んでいた。 「ハーッ…落ち着いたかよ、ゲシ…」 ナツが問いかけると、ゲシはコクっとうなづく。 目頭がぼーっと赤く腫れ、服の袖がじんわりそぼ濡れている。 「はやくジュンの所に顔出して帰ろう。」 「…帰っていいの?」 ナツがそう言うと、ゲシが不思議そうに答えた。 「お前をハブっちまったからな、それに、もう夕方だ。」 ナツはサッと立ち上がり、ゲシに腕を貸した。 だけどゲシは腕を借りずに、両腕をのしっと地面をのけて立ち上がった。 ゲシはわかった、という顔をして、歩き出したナツの後ろについて行った。 申し訳なさそうに横にいかけては、すぅっとすぐ後ろに戻って行った。 「ゲシ、ごめんな。」 振り返りもせず、ナツは突然そう言った。 「大丈夫だよ。友だちに会えて良かったね。」 ゲシは柔らかくそう言った。 どんな表情をしていたのか、ナツには怖くて見ることができなかった。 「そうだ。オレ、明日にはここに居れないんだ。」 さっきの怖さを無くすように、ゲシはまた話した。 「そうなんだ。…ちょっと、寂しいや。」 ゲシはまた柔らかく返事をする。 「…ちょっと急ぐぞ!ゲシ!」 「おう。」 ナツは逃げるようにして、まっすぐジュンの家の方へと向かって行った。
どおおおおおんっ、ひゅるるるうううるるううん。 「うるさいね。」 ぼくがそう言うと、 「音じゃなくて花火見ろよ。」 ハルにぃは呆れたように言った。 一面に咲き続ける花火はキラキラと燃えて、眩むほどに大きく育って、すぅっと消えた。 ぴゅるるるるるるぅぅううん。 激しく素早い音が鳴る。 「今日は楽しかったねー。」 アキはそう言って空を見上げる。 「夏休みはまだあるだろ。」 どぉおおおおおおおん。 心臓にどっと響く大砲みたいな音が全面にわたって、一瞬にして空は真っ赤に染まった。 町を全部覆い隠してしまうほどの花が咲いて、ゆっくりと落ちて行った。 「わぁああああっ!すげー!でけぇー!」 「おっきぃー!」 ハルにぃとアキは一緒に興奮して、あの大きな花火を網膜に焼き付けようとしていた。 すぅうううっと流れ星みたいに落ちていく火の粉が、たまらなく美しい。 「来年も見たいわぁ。」 おばさんはそうしみじみと空を見上げる。 「もっと見ないと損だぞー!」 ハルにぃはそう言ってぼくをそそのかす。 「言われなくともだよ。」 そう言ってぼくらは眩しい空を見上げ続けた。