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その2 気持ちをプレゼントに
今日は珍しく部屋の外にいる。…いやまぁ、出る時は出てるんだけども、出たくはないんだけども。……でも、今日だけは少しやりたいことがあるから。だから外なんて怖く…嘘です嘘ですすごく怖いです拙者今生まれたての子鹿状態!!いやぁぁぁぁああああああああ!!!!ほぼ勢いで外に出るんじゃなかったあぁぁぁぁぁあああああああああああ!!(号泣)
……あ、ども、お久しぶりです。モブ天使こと塩穣紫亜でござる。いや、今振り返るとこの数行で情緒変わりすぎでわ?どうした拙者?…いつも通りか。 今日は前回のように予定があるわけでなく、本当に自分の意思で外出をしているでござる。やりたいことがあるのは事実ですし……。
「けれけれ〜?何してるんだにょ?」
「ヒョッッッッ」
い、いきなり話しかけないでくだされ!!!!!!
ヲタクは刺激に弱いの!!!!!!!あー今めっちゃ情けない声出た…恥ずかし………
「あ、ァアアア、ドモデス、綿津見氏…。エ、エト、あああの、ソノ………」
「にょ?あぁ…もしかしてめいめいの誕生日だから外に出てるにょ?」
「…………ハイ」
そう、今日は冥王星を司る矮惑準さんの誕生日だった日なのだ。
「折角ナンデ…蝋燭ダケデモト思イマシテ…」
「それならおれちゃんも行くつもりだったにょ。一緒に行くにょ?」
「エッアッじゃあ、お、おぉおお言葉に甘えて……」
「けれけれはめいめいが天使の時からの付き合いだにょ。めいめいも喜んでくれると思うにょ。」
「ソッスカネ……」
そう、準さんは神となったのは綿津見氏や金剛雨氏と同じ時期なのだが、生まれは拙者と同時期。……付き合いは長かった。長かったけど、それだけだった。
「………あっ。バリバリ〜。めいめいの所に行かせてほしいにょ。」
「……あぁ、綿津見の兄さんに…塩穣の嬢ちゃん?珍しい組み合わせだね。」
「アハハ…」
この方は|熱処 未暗《ねっしょ みあん》氏。広大な墓地の墓守を1人でこなしていて、ダークバリオン…と呼ばれる不確定な物質を司る謎多き悪魔だ。
「偶然あっただけだにょ。失礼するにょ〜。」
「アッス……」
「どうぞ…矮惑の兄さんのところだろう?だいぶ奥の方だからゆっくり行こうか。」
「アザス………」
「それじゃあ、あっしはどこうと思うんだが……大丈夫かい?塩穣の嬢ちゃん…」
「オキニ……ナサラズ………」
ぜぇ、ぜぇ。いや、拙者体力無さすぎんか??運動不足にも程がある………。
「…大丈夫ならいいんだがね。」
息を整えてから蝋燭を…息…息を整え……
「・・・。吸ってー…吐いてー…(背中を擦る)」
「ぜぇ…ぜぇ………ゴッファ」
…あの、
なんでよりにもよって今吐血したんだ自分よ。
「おれちゃんのハンカチ使うにょ。……バリバリ〜!居るにょ〜?」
「どうかしたのか…い……塩穣の嬢ちゃん?」
「ダイジョウブデゴザル…コレイツモノコト……」
「汚しちゃったにょ…ごめんだにょ…(´・ω・‥`)」
「いや、またそのうち掃除するからいいよ。…でも、あんさんらはどうするんだい?」
「にょ…?あぁ…そうだにょ。めいめいに用があったにょ。」
「ナンカスミマセン…」
やらかした。やらかしたベストオブザイヤー受賞。いや全く嬉しくないな??
とりあえず…と蝋燭を立てて火をつける。
もう慣れたと思っていたのに、こうしていると彼がもういないことを突きつけられているようで整えた息がまた詰まるような気さえしてくる。
拙者…いや、私は彼のことが好きだった。
穏やかながらも強い意志を持っていた彼が。
夢のためにどこまでも現実的な手段をとった彼が。
柔らかな微笑みの後、静かに紫煙を燻らせている彼が。
叶わなかった。私はどうすることもできなかった。分かっているけれど、それでももしもを願ってしまう。本当に、どこまでも虚しい想いだ。
…マ、未練がましい女は嫌われますな。拙者が女を名乗るのも世の女性に失礼な気もしますが。
「…そろそろ拙者はお暇しますわ。まだちょっとやりたいことがあります故」
「あっ…分かったにょ。またにょ〜。」
「ああ、案内は大丈夫かい?」
「大丈夫でござる…覚えたんで」
そりゃあすごい、気をつけてお帰りよ、と熱処氏が言ったので軽く挨拶してから墓地を出る。入り組んでいたものの問題なく出ることができた。
帰りに少々派手なデコレーションケーキを2切れ買った。詳しくは知らないがそういう文化らしいので。
少し広めの談話室のテーブルの端に一切れ、自分の方にもう一切れ。あぁ、参ったな、美味しいはずなのに味がしない…そういえば、彼は毎年「うっ…甘…」なんて言いながらブラックコーヒー片手に食べていたっけ。
「こんな所で何をしているのかしら?」
「…アッ、え、重里氏…」
「…なんでケーキが一切れ余計に置いてあるのよ。」
「祝うんなは形式だけでもと思イマシテ…ハイ…」
「ふぅん」
怖っ。美人の目力怖っ。
「形式は済んだの?」
「アッハイ…マァ…」
「じゃあ頂いていいかしら?」
「ドゾ…って、え?」
え?今、なんと…?
「勿体ないから食べようと思っただけよ。それとも、食べずに腐らせるつもりなの?」
「そ、そんなつもりは……」
「ならいいわね?」
「ドゾ……」
ひぃん。美人の睨み顔こあい……。どうせ1日じゃ消費しきれる自信はなかったからありがたいけどさぁ……。
重里氏は適当なカトラリーを持ってテーブルの端にあるケーキを食べ始めた。
「……ちょっと、これ甘すぎない?よくそんなに食べられるわね…。」
「イヤ食べた後に文句言われましても……。」
「…それもそうね。コーヒーでも淹れましょう…。貴女はどうする?」
「エンリョスルデゴザル…」
「そう。」
コーヒーを淹れる後ろ姿を見ながら、ふと、彼と重ねてしまった。気品を感じる、けれど親しみやすさを覚えるあの背中に似ている気がした。
「はぁ…まさかここまで甘いとは思わなかったわ………は?」
「ヒッ」
「…貴女、なんで泣いているのよ。」
「…エッ…あっ。」
…気づかなかった。泣いてたんだ、拙者…。
「…あ…そっか……」
困ったなぁ、涙が止まってくれそうにない。重里氏に抱きついた。全く…なんて溜息をつきながらも引き剥がそうとはしない。…あぁ、だめだ。もう、彼にしか見えない…違うのに。違うはずなのに!
「……ありがとう。」
涙がひとしきり溢れた後のこの声は、どちらのものだったのだろう。
2026/02/18