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貴方の為に、ドレスを縫います。
--- 「今日も私のためにドレスを縫って。」 ---
そう言ってきたのは、私の|ご主人様《マスター》。
「お願い。いいでしょ?」
「私のお願いだから、貴方はすぐに行動するべきよね。」
「早く。」
ご主人様はそう急かしてくる。
「ですが、|私《わたくし》にも本日の業務が…」
「出来損ないになりたいの?」
「!」
出来損ない。
それは、この屋敷でのいらないものの事を指す。
この屋敷の人達は、|ご主人様《マスター》と|召使い《メイド》に分かれており、|召使い《メイド》は|ご主人様《マスター》に一生を尽くす。
もし、|召使い《メイド》が何か間違いや失敗を犯してしまったら、|ご主人様《マスター》に「|出来損ない《いらないもの》」と認定され、処分される。
私はそれが怖かった。
想像しただけで吐き気と震えが止まらなくなるほど。
「し、失礼いたしました。すぐにドレスを用意いたします。」
「最初からそうすればいいのよ。」
|ご主人様《マスター》はそう言い、椅子に腰掛けた。
私は自分の部屋に戻り、昨日もやったドレスの続きを縫う。
|ご主人様《マスター》は、私が少しでも気に触ることを言うと、私を脅してくる。
「|出来損ない《いらないもの》になりたいの?」
|ご主人様《マスター》の我儘は酷かった。
しかし、私はそれに従った。
私の|ご主人様《マスター》はいつもドレスを要求してくる。
なぜかと聞くと、決まってこう言う。
「貴方の作ったドレスを着ている私が、世界で一番可愛いからよ」
ドレスを縫って、という我儘に従うのは、
あの言葉が聞きたくて、
たまらなくて、
どうしようもなかったから。
私は今日も、
--- 「|貴方《マスター》の為に、ドレスを縫います。」 ---
今日もあのメイドの部屋からは、糸切り鋏の音がする。