公開中
部誌24:宣戦布告
結局ちょっとだけ文章を追加してしまった。
追記:部誌24でした。教えてくれた方、ありがとうございます!気づかなかった。
相手の部活名は出さないでおきます。分かりにくいかもしれませんが、同じ部活に入っている読者の方がいたらちょっと申し訳ないので……。
立っていたのは見知らぬ生徒たちだった。
後ろに、なんとなく見たことがある顔がちらほら。同じ1年生だろうか。
ジャージに、蛍光色のハチマキを身につけている。どうやらここで走っていたようだ。
「何の用なのよ。ヤジを飛ばしに来たわけ?」
梨音先輩に睨まれても、リーダーらしき男子生徒は冷笑するのをやめない。
「別に、お前らに用はねえよ。用があるのは、ここ。」
「……ここ?」
「そう。この別棟だよ。」
わざわざただのいち部員である私の独り言にも、その人は反応してくれた。
「知ってるか?もうすぐ何があるか。」
「えーっと、中間テスト!」
朱鳥ちゃんが最初に思い当たったであろう行事ではなさそうだ。
中間テストだから、といって。別棟にまで来て何をするのだ。
「違うわ!学校行事だよ。秋にある、お楽しみの行事だ。」
「まさか……文化祭!」
「またハズレだな。」
宝川先輩もハズレ。
中間テストも文化祭も違う、となると。残ったのはあの行事しかない。
うちの学校では秋に行い、他校では春に行うところもある、あの行事。
人によってお楽しみかどうかは分かれる行事。
「体育祭だな?部員くんよ。」
「そこのメガネくんの言う通りだぜ。ここの廊下、無駄に長いだろ?走るのにちょうど良くてな。」
「メガネく……孤色だ!失礼な奴だな。同じクラスじゃないか。」
確かに別棟の廊下は長い。異常に長い。どうしてここまで長くしたというくらい長い。
「長いからどうした!走るのなら外でやればいいだろう。|僕《やつがれ》の部活の邪魔をするな。せっかく再入部出来たのに。」
今垣先輩が私の言いたいことを全て代弁してくれた。
「お前らなんて眼中にないから。」
「なんだと!」
「ちょっと、抑えとけよ。」
「うるさい!」
今垣先輩と東先輩が隅で喧嘩に発展しそうになるのを尻目に、話しかけてきた人の奥に隠れていた別の生徒が私たちに説明する。
「グラウンドは応援団に占領されてるし、外周だって陸上部のナワバリだろ。」
「いや、だからここだって僕たちの部室だし……言うなればナワバリな訳だし……意味分からないんだけど、そっちの言い分。」
「部活動リレーに俺たち、賭けないと終わるんだよ!」
ピリピリした空気が、後ろの方で様子を見ている私たち一年生の元まで進出してくる。
「部活動リレーがあるのは知ってたけどさ、『賭けないと終わる』ってどういうことなんだろうね?」
「おれも体育祭実行委員に入ってる訳じゃないし、全然分からない。」
「特に先生から体育祭について説明があったわけじゃないもの。知らなくったってしょうがないでしょ、あたしたち。」
今まで黙っていた部長がようやく口を開く。
「……なんとなく分かったわよ、そっちの事情。だからといって、私もここは譲れないな。可愛い部員たちを、この部室を守らなきゃいけないんでね。部長として。」
「おおっ、かっこいい!」
朱鳥ちゃんの方を見てにこりと笑うと、部長はまた向こうの部長らしき人物に向き直る。
「俺らだって俺らの部活を守らなきゃいけないんでね。多少、グレーゾーンでも許してくれない?」
こちらは何も知らないので何が起きているのかはよく分からない。
確実なのは、私たち演劇部にとって嬉しくないことをされそうになっている、という状況。
「大会が……大会に、絶対出なきゃいけないんだ。先輩のために。」
「お前ら、先輩いないだろ?あんなことがあったって風の噂で聞いてる。大変だよなぁ、演劇部も。」
「それは!」
「やめとけ!……1年生の、何も知らないアズマとイマガキの前なんだから。」
腹が立つ。
先輩たちを侮辱したのであろうこの人たちに、とにかく腹が立つ。
「逃げたアイツもいるじゃん。結局演劇部、演劇クラブに戻ってくるんだね。」
「この前俺と話したとき、すごくビビってたけど、そういうことだったのか。新しいお仲間に過去のことを知られたくないってか?」
「なあ、蛍さんよ。」
「……ほたる、さん?」
また新しい情報が流れ込んでくる。蛍くんが、もともと演劇部?クラブ?にいたようで、「逃げた」らしくて、新しいお仲間に過去を知られたくな……。
当の蛍くんは視線が四方八方に向いている。私と目が合った瞬間、彼は大きく目を見開いて、それからギュッと目を瞑る。
うん。やっぱり、腹が立つ。
「それさあ、その言葉さあ。部長である私にもグサって刺さるんだけど……それ以上に、うちの後輩のこといじめないで欲しいんだけど。」
顔は笑っているのに、目が笑っていなかった。
「だから抑えろよ。その、顧問!顧問を頼ろう!ワカクサ先生に頼めばなんとかしてく」
「そういう問題じゃないの。これはきっと、私たちで、生徒でケリをつけるべきなの。……私も、いつか向き合わなきゃいけないの。」
先ほど蛍くんに心無い言葉を浴びせたその人に向かって、部長は堂々と宣言した。
「10月にある、体育祭!そこで私たち演劇部が、部活動リレーで一定の成績を残したとしたら!あんたたち、蛍に土下座しなさい。」
「あーあ、言っちゃったよ。」
「悪い気はしないけどね、僕は。宝川もそうなんでしょ?」
「まあ、それはそうだけど。」
……我々演劇部が、文化部が、明らかに運動部であるこの人たちと部活動リレーで戦う!?
「文化祭で公演やるんだろ!?部活動リレーの練習とかどうするんだ!」
「大丈夫大丈夫。うちの部にはこの超俊足・宝川くんがいますからね!」
「しょうがないな。」
「そんなに足速かったんですか、宝川先輩!?」
「宝川悠くんの50m自己ベストは6秒4だからね。」
運動部並みに足が速かったなんて、知らなかった。そんな特技があったのか。
……万年10秒台の私は一体どうすればいいんだ。期待されても応援するくらいしか出来ない。
「リレーだからな!俺ばっかり頼るなよ!?」
「みんなで頑張れば出来るわよ、きっと。」
「そうですかね。」
「部長と宝川のタイムが頭1つ飛び出てるだけだってば。まるでゴリラ……。」
「でも、遅くはないわよ!出来る出来る!あと、ゴリラ呼ばわりはやめなさいよ梨音。」
流れで宣言してしまったわけだが、本当に大丈夫なのだろうか……?
「そういうことだから、君たちは帰ろうね。他のところ探して練習しな。私の言うことはつまり、演劇部部長の言うことだよ。」
「部員元2名部活の部長さんの言うことですか、はいはい。これで散々な結果だったら面白いんだけどな。」
最後まで私たちを馬鹿にしたような態度だった。
取り巻きを引き連れて帰っていく。
帰ってくれたので、一応部室の平穏は保たれた。
おそらく、1人を除いて。
「……。」
さっきから黙ったまま、俯いて座り込んでいる蛍くんの元に駆け寄る。
いつのまにか後退していた。
無言で、宝川先輩が肩を叩く。
「気にするなよ、あんな奴らの言葉。」
それでも顔を上げない蛍くんに、どうすればいいのか分からなくなったようで、ぽりぽりと宝川先輩は頭を掻く。
「気の利いたこと、言ってあげられなくてごめん。」
「いや、蛍にとってはあんたがそばにいてあげるのが一番いいと思うわよ。」
「そうか?」
僅かだが、蛍くんの頭が上下した。
「ごめんな、本当に。その……俺たちだけで奴らに会うべきだったか。」
ようやく息を吐き出すことができた私は、水分補給をするためにその場を離れた。
喉がとにかく渇いた。何十分も全力で疾走した気分だった。
「……伊勢谷くんになんて言えばいいんだろう、これ。」
部活動リレーになぜこんなに躍起になっているのかは次回明かされるはずです。