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【閑話】舞台裏で。ユウナ編
あたしは自分の名前が嫌いだ。
結ぶ海、結海と書いて、ゆうな、と呼ぶ。
「ゆう」はともか「な」は、何処からやってきたんだ? 分からない。
よく分からなくて、あまりこの名前が好きになれなかった。
そんなときに。同じ漢字の持ち主に出会った。
結海と書いて、ゆみ、と読む。
これだ。
そう思ったのだ。
だけど、ついた名前はどうしようもなかった。
「佐藤ゆみ……じゃないゆうな」
「はい」
「山名ゆみ」
苛立つのはこの朝の健康観察。
ゆみ、は普通に読まれるのに、ゆうな、は一発で覚えてもらえない。
そのせいで、どんどん劣等感が溜まっていった。
そして、クラスではそれなりの地位にいるあたしは、それを使って、彼女に絡むようになった。
そして、それがエスカレートする前に、あたしは彼女と一緒に異世界に召喚された。
よくある召喚ものにあるようなやつで、この世界の聖女を救ってください! と頼まれた。
聖女はよくあるものではないか。
ま、そんな事情があったようだ。
あたしは第一王子様を攻略してみたり、意外とチョロかったw、きにくわないやつにちょっとだけ残念なことをしたり、と聖女の権限を使いまくった。
噂が広まりかけていたから、せめて物として、王子の側近たちにはお金をあげて、隠してもらうように頼んだ。
たまに山名さんのところに遊びに行っては、時間を潰せば暇じゃないかな、と思って。合計2回、山名さんのところへ行った。
一回目は酷かった。
ちゃんと今日行くって伝えたのに、神殿に山名さんはいなかった。
夕方まで待ってみたらようやくやってきた。
「やっと来た!」
私は待ってたんだからもっと早く来てくれればいいのに。
そう思う。
しかもその後もうまく行かなかった。
山名さんと一緒に神殿に入れてもらおうと思っていたのに……。
神殿かぁ、いい男いそうだよね。
なのに。山名さん達は来た道を戻っていった。
ま、彼女のことだ。臆病にでもなったんだろうな。
そして2回目。
今度はちゃんと神殿に通された。
だけど、すぐさま山名さんの部屋に連れていかれ、周りの男を物色する暇がなかった。
そして、そこで会った山名さんは……
「いらっしゃい」
口調がおかしくなっていた。
いや、あとから思えば口調だけじゃなく、全体的におかしかった。
山名さんはあたしに向かって、こんな事まで言ってきたのだ。
「そしてこっちには来ないでね。仕事の邪魔だから」
こんなやつがあたしを邪魔だっていうの?
「邪魔? あんた今あたしのことなんつった?」
「聞こえているじゃん。邪魔って言ったんだよ」
「はぁ?」
つい、殴ってしまった。
いや、殴れてないか。殴る前に、
「光ーー邪魔者を排除せよ」
と、現れたベールに阻まれてしまった。
「なっ!?」
そんなに早く魔法を習得しているの!?
私なんて、魔法を教えてもらったのは数種類。それも習得は難しかったし、今も習得できているとは限らない。
「喋る暇があったら魔法の習得に努めたら? じゃないと誘拐されるよ?」
魔法の習得だって頑張っているよ!?
それに……
「誘拐? そんなのされるわけないじゃん、あたしは聖女だもん。それに、あんたと違って心強い騎士がいるもん!」
今日の山名さんはあたしの苛立つことも言ってくる。
これはあれだ。あたしの攻撃を防げたから自分が上になったと思っているやつ。
だから、あたしの慕われ具合を見せつけてやる。そのつもりで言った。ま、事実だけど。
かわいそ、山名さん。
「ユウナ様……」
「じゃあね」
「聖女様、この者のところにはあまり寄らないようにしましょう。聖女様が不快に思わされるのを見るこちらの身にもなってください」
だね、めっちゃ不快。
昔のままの山名さんだったらなぁ……
あたしは護衛の人たちをごまかすために、
「大丈夫、あの人はいい役職に就いた私を妬んでいるだけだから」
と、言うことにした。
◇◆◇
その次の日くらいかな。サムエル様がやってきたのは。
「こんにちは、聖女ユウナ様。私は枢機卿のサムエルと申します。あなた達を召喚させていただいた人です」
見覚えがあると思ったら、そういう事情があったわけね。
「覚えてるよ。こっちに呼んでくれてありがとね」
「……。そうなんですか。こっちの世界は楽しいんですね?」
「うん、もっちろん!」
何を聞きたいんだろう?
「それではまた」
「え? もう帰るの?」
「そうですが? 今回知りたかったのは新たな聖女様の性格ですからね」
「そうなの? また来てね」
一体何だったのかはよく分からなかったけれど、暇つぶしにはなったし、よかった。
◇◆◇
山名さんのところによらない日が続き、あたしの男漁り放題な毎日が来た。
けど、だんだん飽きてくる。
そんな時だった。ムニダスから婚約者になってくれないか、と頼まれたのは。
もちろんオッケーした。
王妃様になれる可能性が一番高いんだよ?
あたしにぴったりじゃん!
今まで、礼儀作法とかちゃんと頑張ってきてよかった。
たぶん、そういう努力も関係したんじゃないかな?
素直に……ではないな、考えてやってきたから。だけど、うまくいったのは嬉しかった。
そんなある日、ムニダスが不思議な行動に走った。
なんと、お義父さん……現国王を殺したのだ。
「どうしたの?」
「聖女をさらっているやつがいるって、話は知っているだろう? その彼らは今の政治に納得がいっていないみたいなんだ。だけど、それくぉ聞いた父上は何もしなかった。
だったら私がやるしかないだろう?」
「そうなの……かな。分かんない」
こんなタメ口は二人の時だけ。
「あぁ、愛しい……」
顔がかぁーっと赤くなるのが自分でもわかる。
「もう、サムエル様。今言われても何もないですよ」
「いいんだよ。君がいてくれれば」
「そう……」
溺愛系の漫画の主人公みたいだ。
ふふん、さっすがムニダス。あたしがうれしいことをしてくれる。
「明日、事情を民に説明しに行きたいと思ってる。その時に、近くまでついてきてくれないか?」
「あたしが?」
「そうだよ。ユウナだからいいんだ」
「嬉しい!」
◇◆◇
そして、一緒に来たはいいけれど。
広場の近くに私は数人の護衛とともに待ちぼうけになった。
周りに人がいないのはいいんだけどな。
仕方なく護衛の面々と話すことにした、
「ねえ」
そう、一声かけただけなのに、みんな嬉しそうにこっちを見てくれる。
こういうのがとても嬉しい。
かなりの時間がたった。
「ユウナ様、お久しぶりです」
|彼《・》がいた。
「久しぶり、どうしたの?」
「今、殿下がユウナ様のことについて行っているので行ったらどうか、というお誘いですよ、ただの」
「ムニダスがあたしのことを話してくれているの? 行ってくる!」
あ、いけない。ムニダスがいないとやっぱり気が抜けちゃうなぁ。気をつけないと。
本当だった。
「ちょうど彼女が来てくれた。彼女が次期王妃、ユウナだ!」
あたしがついた途端のムニダスの発言。|彼《・》には感謝しよっ。
お陰であたしの顔が知れ渡った。
そして、また戻った。
今度はムニダスと一緒に
そして、戻った先では……
護衛たちが死んでいた。
「第一王子、ムニダス様。あなたはもう邪魔なものでしかなくなりました。さようなら」
|彼《・》は言う。
ボンっ!
そして、あたしの耳元で、
「ユウナ様も、役に立ってくださりありがとうございました」
と、言った。
いつ、あたしがあんたの役に立つことをしたのだろう?
|彼《・》の顔を見ようと思ったけど、もうその頃には黒い煙が充満していた。
「ちょっと!? 何よこれ!? あたしがなんでこんな目に会わないといけないの!? ムニダス、助けてよ!」
そんなときに思い浮かんだのは同じ聖女の力を持つ山名さん。
「あんの山名! あたしが困っているというのに! 助けろよ!」
そして、今までたぶらかした男の顔も思い浮かぶ。
「せっかくあたしが時間を割いてやったんだから、こんな時くらい役に立てよ!」
暴れ回っても、黒い霧は消えなくて。
そして……