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花びら、一枚目。
割と早めに出てくる方、遅くなったり少し出番が少なくなってしまったりする方がいらっしゃるかもしれないけれど、お許しください!
色々すみません本っ当に!
...また、夢を見る。
小さなころの私は、「何か」から逃げようとして、その「何か」は、土蜘蛛の姿をしている。
私は光の軍の豊葦原の、小さな村に住んでいる。
だから、闇の軍勢なんて見た事もない。
そんな、見た事もない闇の人達を、私達村娘は、「土蜘蛛」と呼んでいた。
光の、|輝《かぐ》の軍勢に従わない人々の事を。
黒く汚れて、ボロボロの布切れを着た、「土蜘蛛の様な何か」達は私をずっと追いかけている。
捕まっちゃ駄目だ。
捕まったら、顔を見たら、私は___
禁忌、それは犯してはならないもの。
顔を見ることは何よりもの禁忌。
だめ、見てはならない、
あぁ、駄目だ、腕を掴まれた、
そのまま、「何か」の顔は私の方を振り向いて______
「っはぁ、!、っは、...また、っこの夢、」
小さい頃から度々見るこの夢を、拾い親にも話しているのはもちろん、同時に心配もされている。
最近はあまり見なくなった、と話したのは…つい数日前だったのに。
心配をかけたくない。
ただ…それだけだった。
「桜月ー?あら、起きたのね」
母が戸を開けて顔を覗かせた。
隣の布団を見ても、父も母もすでにいない。空っぽの布団を見て、溜息をつきながら起きだした。
村の物の洗濯は、村に居る女の仕事。
機を織るもの、料理をするもの、さまざまな仕事がある。
…私達みたいな若い村娘は、ほとんどが洗濯に行く。
今日のような、晴れた日の朝は、皆で川に行って、他愛もない話をしながら、___
「あ、桜月!おはよー…ちょっと洗濯物多くない!?大丈夫!?」
ぽん、と肩を叩きながら、背後から声をかけてきたのは、私の幼馴染の一人、|夜桜《よざくら》 |月狛《るい》。
彼女は何かと頼りになる、姉のような存在。…少し心配されることも多いけれど、。
今日も一つにまとめた、綺麗な藍色の髪をさらさらとなびかせている。
「おはようっ、|月狛《るい》!」
洗濯物の積まれた籠を抱えながら、二人で並んで川へと歩く。
すると、自然と他の村娘も周囲に集まってくる。
「おはよう、二人とも…もう少しで嬥歌の日ね!?その胸を悩ませる意中のお相手を話しなさい!」
「え?私?いないっ!!!!!!!!」
いっそ、バァーーーーン!!と効果音の付きそうなくらい一刀両断でそう答えた月狛。
うん、清々しい。清々しいくらい真っすぐ。
「桜月はどうなの?」
「わ、私も…特に、思い当たりはない、かな」
顔を見合わせてそう答えると、物足りなそうな顔をする皆。
「うぅん、分かった!なら二人にこれだけは言っておくけれど…」
そして告げられる、5人の青年の名前。
「…この5人には声をかけられても歌を返さないと約束してちょうだい!絶対に!」
告げられた5人は昔少しお転婆だった私と言い合いや時々喧嘩をした人ばかり。
でも、彼らが|若衆会《わかしゅかい》に入ってからは話す事すらなかった。
…半ば笑う皆。でも、半ば真剣だった。
もう近い、満月の夜。
満月の夜、村々を上げての宴が催されて。
嬥歌では、歌の上の句を男が送り、もしそれに女がよし、との返事…下の句を返せば、それは婚姻の契りを交わしたも同然になる。
その後、男は隠し持つ小箱、飾り玉や首飾り、髪飾りを送るのだ。
だから、その日は私達のような若い娘が主役。
春を告げる花を飾って、妖精のように踊る。
困ったように月狛を見ると、彼女も同じくこちらを見ていた。
「あぁ、分かった…けど…その5人が想い人?」
真っすぐに聞いた。
凄いなぁ、さすが姉様(?)
するとみんな薄っすらと頬を染めて頷く。
なんだか、想い人のはっきりしない私達だけが損をした気分…
「わ、わかった!その5人に声をかけられても、絶対に歌を返しません!」
別に興味がある人がいる訳でもない。
でも…
少し黙った私に勘のいい子がアンテナを立てた。
「何々誰か想い人がいるの!?」
「あらー?昔から村娘らしくないといわれていた桜月にもとうとう…」
「本当にそう!私達とは違った雰囲気でお姫様じゃない」
「桜月姫様ー…うん、違和感はないわね」
「ちょっとそんなこと関係ないよね?桜月は桜月なんだから!」
気にしていることをサラッと言われてしまったけれど、月狛がやんわりとたしなめてくれた。
本当にいい人…お姉さま…
…確かに拾われた私はみんなとは少し違う、と肌で感じていた。
でも、そんなことも関係ない。
私はただの村娘の一人なのだから。
「んぇと、そんなに私の想い人が気になるなら言うけど…」
口元を手で覆い隠しながら、口を開いた。
「|月読命王《ツクヨミノミコト》様です」
「ずるい!」
「卑怯!」
「桜月、幾らなんでも…っていうか嬥歌にその人が来るわけなくない!?」
正論をぶつけられまくる。
確かに、双子の御子の一人…輝の大御神の子である、この世を治める一人であるその人が、こんな小さな村に来るわけがない。
しかも、早くから光の軍勢に属していた、この村に。
その人は今も銀の兜を被って、軍を率いて|闇《くら》の氏族と戦っているんだ。
きゃあきゃあと腕を引っ張られ髪を引っ張られしていると、川の上流の方から声が飛んできた。
上には私達よりさらに年の上の人の仕事場になっていた。
「ちょっと!さぼっていないで早く仕事をするんだね!そんなだから色紐を流すんだよ!」
そういわれてハッと見ると、明るい桜の色のひもが下流へと流れていくのが見えた。
あの色…
「私の、!」
私達のような身分の娘にとって、色付きの飾り紐はとても貴重な物。流してそのまま失くすつもりはさらさらなかった。
慌てて服の裾をまくって川の流れに押されながら紐を追い始めた。
後ろから皆の囃す声や月狛の心配する声が聞こえる。
川の底の石はコロコロとして滑りやすい。
人よりも身軽な私でも、注意しないと滑ってコケてしまいそうだった。
そして、思ったよりも紐が草にも石にも引っかからない。
「うぅ~、、」
ずっと走ってるのに追いつけずに、上の人たちとかなり離れてきた。
こんなところで、やっと届きそう、だと手を伸ばした、その時だった。
「……へ、っ!?」
目の前で、誰かがその紐を拾い上げたのは。
顔を上げてみると、其処には私よりも背の低い…でも、私と年は同じくらいらしい、少年が立っていた。
水色と紫の目…
紺の髪は後ろだけ少し長い。
右頬だけをガーゼで隠している、不思議な出で立ちの男の子だった。
そして、二羽のカラスを従えていて…
すると、後ろの木々の間から、また別の人が出てきた。
今度は明らかに私より年上で、金に近い髪色の、バンダナのようなものをした姿だった。
あれ、カラス…この人の、だったのかな、?どっちだろう、
にしても背、高い…
「、え、ぁ、あの、その紐…私の、」
「、、、、れお、っ」
おもむろに口を開いた彼に、驚きつつも、その単語を耳に響かせた。
突然、、、?
れお…
「れお、さん?」
こくり、とうなずくその人は、ずっと笑顔を見せない。
そういう性格なのだろうか、…
「えっと、その、」
何を言い出すか迷っていた私に、れおさんが口を開いた。
「呼び捨てでいいですよ、ッ…!」
「うん!、れお、っ」
小さくニコリと笑ったその表情に、私も頬が緩みそうになった。
良かった、笑えるんだ、
…わ、私も名乗るべき、だよね…?
と思ったけれど、それより先に別の人が口を開く。
「俺は月夜 翡翠。楽人の笛吹きだ!」
金色に近い髪色の人が言う。
「、!今年の楽人の方でしたか、!」
「あぁ!俺は笛吹きだ!」
やんちゃそうなその人は、綺麗な翡翠の瞳をしていた。
笛…れおさん、も笛吹き特有の癖がある、立ち方や指の動き、とか…
横笛が二人いるんだ、、、!
凄い...
楽人、とは嬥歌の時に音楽を奏でる人々のこと。
様々な場所を旅し歩いているから、そう言われると彼らの不思議な格好にも説明が付く。
でも、二人だけ…?
「俺は天沢千弦。…で?他に何かある?」
ふい、と突然現れたその男性に、少しびく、と反応してから、また顔を上げる。
黒髪で、綺麗な深海のような青い瞳。
整った顔立ちに、こんな人が村娘達から人気なんだろうなぁ、と一瞬みんなのことを思い浮かべた。
「えと、…琴、ですよね?」
指の癖。
動かし方が、この琴の様な弦楽器にしか見られないものだったから、完全にカンだった。
面倒臭そうなその人の目が、少しだけ光を帯びて、また元に戻る。
「…そうやけど、何か?」
「い、いえっ何も!!」
チョットコノヒトコワイ!
琴と笛、それから…
「つづみ、は…」
きょろきょろ、と辺りを見回すと、気付くと先程の3人を含めて7人の人が周りに立っている事に気が付いた。
…背の高い、綺麗なお姉さんが一番近く、目につく。
声を掛ける間も無く、いつの間にかお姉さんが目の前にしゃがんでいた。
「…え、!?」
「お姉さんは紅葉お姉さんっていうの。よろしくね」
にっこり、と効果音の付きそうな笑顔。
スラっとしたその姿によく似合う、綺麗な笑顔だった。
「お姉さんは…」
「お姉さんはつづみをやってるのよ、それと何かあったらいつでも言ってちょうだいね」
その視線は心なしか周囲の男性陣を見ている様な気がした。
気がした。本当に。
「さて…そこに立ってるナルシストから紹介しましょうか」
そう云うや否や、指名された男性が飛ぶようにやって来た。
え、早っ
「やあ、僕様を呼んだかな!呼んでないわけないな、うん!」
「ちょっと、自己紹介する時くらいちゃんとしなさいよ」
呼ばれてきたのは少し長めの黒髪に翡翠の色の目の男の人…
「え、えぇっと、、」
「僕様は瀧龍三郎だよ!太鼓担当だ。」
「服のセンスに関しては言及しないであげないでちょうだいね」
「なんだと!?この模様にも意味があって__」
確かに不思議な模様の書かれた服だなぁ、と思う。
どういう意図でこれを着ているのだろう。
「もういいわ、とにかく紹介だけ済ませたいの、澪ちゃんを呼んでくださいな」
むくれ乍らも澪さんなる人物を呼びに行った瀧さん。
とは言っても、割とすぐ近くで程なくして戻ってきた。
深緑の、長い髪の女性と一緒に。
「彼女が…」
「|霊亞《れいあ》 |澪《みお》…琴をやってる、、よろしく」
「よろしくお願いします、!」
澪さんはなんだか少し、何かに脅えているような雰囲気を持っていた。
もしかして、私の夢と同じように、何かに追われているとか…!は、ないかなぁ、、
「それで…この彼が、我らがまとめ役の」
「…ほうじ茶はある?あとできれば茶菓子も…」
瀧さんの振りを全スルーした、この人がまとめ役…
「ぁ、えっと、村に行けばあります、けど…」
「…俺は高塚晴空。君は…横笛が吹けるんだね、少し聞いてみたい気もするよ…」
「へ、!?」
驚いたものの、横笛用の革袋だけ腰帯に通したままなのを忘れていた。
観察眼、鋭いなぁ…
「ぁ…また、機会があったら、、あ、でも嬥歌のとき、吹いてって言われるかも…どうだろう、、」
去年や一昨年など、私がまだ宴に参加できなかった子供の時は、楽人に混ざって横笛を吹いていた。
楽しかったし、それのお陰で普通の特技、と言うよりは楽人の一人、と言った方が早いくらいにもなっていた。
いつか、えらい貴族の人が私の笛の腕を見込んで都に連れて行くと言い出した時は大変だったなぁ…
なんて、思い出に浸っていた。
「桜月様、、、この村の生まれじゃ、ない、ですよね、っ?」
れおさんの声が、突然にそれを告げる。
ひゅ、と喉が鳴る。
どうしてそれを。
「首の痣、どう見ても普通のものではないだろう!」
誰かがそう言う。
違う、今誰かが言ったんじゃない。
昔、私が…拾われた時に、忌むべき子だと、拾う事を拒否した誰かが……言った。
まぁ、今のお母さんとお父さんに拾われて、良かったけれど。
たしかに、私の首元には、生まれつきの痣がある。
花の形で、不思議だなぁと昔から話していた、けれど。
「桜月ちゃん、貴女は闇の姫巫女の話を聞いたことはない?」
「花の乙女、、、、|闇《くら》の士族の、失われた巫女のお話、、、っ!」
「…はぁ、面倒やけど…ここはやらんとダメなところ、やんな?」
「まぁ、そうだね…この僕様がその勾玉を渡す役を、と言いたいけれど…仕方ない、譲るよ」
二人が何やら話している。
すると、琴の人…天沢さん、と言っただろうか、
その黒髪の男の人が、ゆったりと歩いてきて、無造作に何かを差し出した。
手の中を見ると、美しく輝く、桜色の、勾玉がある。
落とす勢いで手渡されて、反射神経で受け取ると、突然、それは光を放ち始めた。
「っえ、!?」
「…やっぱり」
「桜月様が、、、!」
「みたいだね」
頷き合う彼らを前に、恐怖が強まってきた。
あぁ、やっぱり。
この人たちは、|闇《くら》の氏族の人達だ___
「桜月、大丈夫?」
唐突なその声に振り向く。
「月狛!」
遅くなった私を心配して追ってきてくれたらしい。
「桜月、その人達は誰?」
「ぁ、こ、今年の楽人さんだって!村に早く案内しなきゃ!」
そのまま、彼女の手を引いて速足で歩き出した。
手のひらの中で、少し熱を持つ勾玉を握り締めながら。
少し、震える手に、気付かないふりをした。
もともと土蜘蛛とは大御津波の女神に使える人々…闇の女神を崇める人々をさす言葉だった、と聞いている。
それがだんだんと転じていって、今の若年代の間では得体の知れないものや人をさす言葉になったらしい、。
頭の中に浮かぶ夢の中の、私を追ってくる人々を、かぶりを振って打ち消した。
うぅん、あの人たちじゃない。
あの人たちな訳がない。
そう思いたくても、ちゃんと思えなかった、ことは考えないようにしようと思った。
「里長様、楽人の方々をお連れしました」
えと、一つ一つのお話を長くするので、更新が少し遅くなるけれど許してください!
すみません!