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音楽というものは、元々は神に向けてのものだ。
楽器を作ってまで行われてきた。
打楽器、弦楽器に管楽器。
燃やせば暖かさへ、そのまま使えば住居へと形を変える木や皮を使ったのは、神へ捧げるということも関連しているのかもしれない。
時が経つにつれて、それはやがて帝へ。
王へ。
貴族へ。
そして庶民へ──
では、私は今。何処に向けて音を出しているのだろう。
私は喉を震わせながら思った。
高いビブラートを発している筈なのに、聞こえづらい。
頬に冷たいものが当たった。
上を見ると、ちらちらと雪が舞っている。
周りを見ると、既にかなりの雪が積もっていた。
(だからか)
雪は音を反射させ、吸収する。だから聞こえにくかったのか。
ほっと息を吐く。
木から、ぼたり、と雪が落ちた。
ふと後ろを向くと、友人が立っている。
『早くおいで、もう暗いよ』
手招きをしながらそう言っている。
『うん』
私は頷くと、雪を踏んでそちらへ歩いて行った。
私が歌っていたところの近くの家へ向かう。
ドアを開けると、香草の食欲をそそる香りがした。
室内に入って暖まったからか、耳がスッと通るような感覚がする。
軽く耳抜きをしたような感覚だ。
暖炉の前でぼうっと座っていると、友人がやって来た。
夕食が出来たらしい。
「そういえば、もう直ぐクリスマスだけれど、何か欲しいものとかあったりするの?」
夕食をとりながら友人が言った。
「もう私ら子供じゃないでしょ」
「でも友達同士でプレゼント交換とかするじゃない」
どうしてもプレゼントを贈りたいらしい。
私は必死な友人の姿にクスクスと笑いを溢した。
「強いて言うなら──楽譜かな」
「そっか」
チキンをナイフで切り分けながら答える。
友人は私の姿をちらりと見ると、視線を元に戻した。
「出来るなら、合唱。掛け合いとか良いよね」
「ふーん」
彼女は大した反応も何も見せなかった。
聞いてきたから答えたと言うのに、友人は興味を失ったようにサラダを突いている。
けれど、私は知っている。
おそらく、クリスマスには楽譜を買って私に渡してくれるのだろう。
(私も何か考えないとな)
そんなことを思いながら食事を口に運ぶ。
(彼女は何の楽譜をくれるかなぁ)
彼女は、掛け合いパートの有る楽譜をくれるだろうか。
それとも、独唱の楽譜をくれるだろうか──私に気を遣って。
(まあ、そうなったとしても無理はないか)
周りがどんなに強力的であっても、難しいことはある。
出来ないわけではないとわかってはいるが、怖いとは思う。
もし、完全にそうなってしまったら、私はどうしていけば良いのだろう。
私は、何処に歌を届ければ良いのだろう。
歌う時は怖くなる。
何故なら私は──
突発性難聴なのだから。
どうも眠り姫です!
自主企画用に書きましたが、普通にアップもしたかったので。
あと差別的な意図はありません。
突発性難聴に関しては、中山七里さんのシリーズ、岬洋介の事件簿を参考にしています。
では、読んでくれたあなたに、心からの感謝と祝福を!