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雑文ラノベ「ごめんね」
Fランクから始めよう
お姉ちゃんと私は双子だ。専門的な事を言えば二卵性双生児である。だから、双子と言ってもそんなには似ていない。背丈だって5センチほどお姉ちゃんの方が高いし、髪だってお姉ちゃんは背中まで伸ばしている。まぁ、髪の長さはあんまり関係ないか。私も昔は同じように伸ばしていたんだけど、うっとおしいんで首の辺りで切ってしまった。本当はもっと短くしたかったんだけど、お母さんに泣かれたのでここが妥協点だった。
性格に関しては髪をベリーショートにしたがったくらいだから、私の方がお転婆だと思ったかも知れないが、残念ながら逆である。実は子供の頃の私はとても人見知りだった。だから昔はよくお姉ちゃんの友達にお姉ちゃんと間違われて声を掛けられたのだけど私はそれがすごく嫌だった。
そこで私は自分で髪を切った。まぁ、そうは言っても当時の私は小学生の低学年である。だからきれいに切れる訳がない。そんな私を見たお母さんは卒倒してしまった。そして泣きながら私の髪を切り揃えてくれた。この事件は私とお姉ちゃんをお人形さんよろしく、似せて喜んでいたお母さんを改心させたらしい。それ以後は、一緒の髪型、一緒の服、一緒の髪飾りを強要するのを止めてくれた。
ただ私も子供心にそんなお母さんを気遣い、髪だけはまた伸ばし始めてお母さんが好きなストレートロングにしていた。でも人を見分けるのに髪型は一番重要らしい。服や体形が違っても髪型が似ているだけで人は私をお姉ちゃんと間違える。
結局私は髪を切った。これは外見的にもとてもよく見分けが付け易いらしく、それ以来私をお姉ちゃんと間違えて声を掛けてくる人はいなくなった。だから私は未だに首廻りまでしか髪を伸ばさない。お姉ちゃんはずっと背中までのストレートだ。
もっとも高校に進学する頃には私もお洒落に気を使うようになり、髪に軽くカールをかけたり、服装に気を配るようになった。だけど、お洒落のセンスに関してはお姉ちゃんに敵わない。小さい頃はあんなにお転婆だったのに中学に入ってからお姉ちゃんは突然お洒落に目覚めてしまったのだ。
やはり体の作りが同じでも手を掛けて磨き上げた方が輝くものなのだろう。はっきり言って、お姉ちゃんはモテモテだ。たまには私にも声が掛かるけど、相手の動機は殆どお姉ちゃんに接近したいが為だ。だから私はそんな浅はかな男たちの誘いにはのらない。というか、男の本性を見たようで異性にときめかなくなってしまった。まぁ、これは同年代のという言葉が頭につくのだけれど。
私とお姉ちゃんは生まれつき、ちょっと特殊な病気を持っている。それは世間一般では感応力と言われている。なんだ病気じゃないじゃん!と思った人は少し浅はかだ。お互いに体調を崩したり、命に関わる症状が出るのだから私たちの感能力は立派な病気なのである。
前にも言ったが、私とお姉ちゃんは双子だけど二卵性だ。世間の一卵性双生児と比べると遺伝子的にも合致率が低いのである。そんな私たちが一卵性の双子でよく見られる相互感応を体現してしまう。これは研究者にとっては格好の研究材料らしく、私たちは高校に進学した時から大学の研究室にて試験体として協力している。報酬は学費の免除である。そう、私たちが通った高校は医学系大学の付属高校だったのだ。
そんな、モルモット生活を3年間続け、私とお姉ちゃんは今では華の女子大生である。うんっ、勿論研究室のある大学のだ。とは言っても、それはお姉ちゃんだけだけど・・。私は研究室のある大学と提携している普通の大学に進んだ。だって医療関係なんてすごく大変そうなんだもの。と言うのは建前で、さすがに医療系の学部に入れるだけの実力がありませんでした。だから普通の大学に、研究所からの推薦を貰って入学です。うんっ、コネって最高ね。この時だけは病気に感謝したわ。
いえ、この病気に感謝したのはこの時で2度目だった。一番最初に感謝したのは研究室で先生に巡り会えた時。
初めに私たちを担当した研究者はおじさんだった。まぁ、見た目もまさにおじさんと言う感じの冴えない人だったけど、肩書きだけはあるらしくてあれこれ下っ端に指示だけだして自分はデータだけを眺めていた。そんなおじさんも何故か別の研究で賞を取ったらしく、私たちが高校2年生の時に担当を交代する。その交代した担当が今の先生である。
先生はおじさんと違い、とても若かった。とは言っても30になるかどうかだったけど、前のおじさんに比べたら全然若い。いきなり私たちと歳の近い先生が担当になった為、私はときめいてしまった。お姉ちゃんは私に「萎れた枯れ尾花を見続け過ぎて感覚が麻痺したんじゃないの?」とからかってきたが違う。これは恋であるっ!・・そう、決して同年代の男の子に絶望していたからでは・・ない?
だって先生は私たちにとても優しく接してくれるし、話し方だってフランクだ。話題だって私たちが興味を持つものを的確に取り上げてくるのである。それに気遣いも行き届いていて、私たちのちょっとした服装の変化にも気付いてくれる。そりゃ確かに先生の顔立ちは普通だけれど、別に私たちは面食いではないから気にしない。人間、やっぱり中身だと思うし。
そんな理由で私は研究所に通うのが待ち遠しくなった。それまでの私はあまりお洒落に興味が無かったのだけど先生に会う日はがんばった。だけど最初こそはお姉ちゃんも私に負けじとお洒落しながら通っていたのだが、最近のお姉ちゃんはズボラである。結局お姉ちゃんは最初こそ先生へなんやかやと話しかけていたのだが今では興味を無くしたようだ。まぁ、私と先生の取り合いのような事をするのが嫌になったのかも知れない。そんな事をしなくてもお姉ちゃんには幾らでも取り巻きがいたからね。
でも私のアタックに先生は全く応えてくれない。いつも「いや~、光栄だねぇ。」とかいってはぐらかしてばかりだ。だから私は些かフラストレーションが貯まる。そんな時の解消法はお姉ちゃんとのお喋りだ。
「もう、先生ったら私を子ども扱いばかりするんだから!」
今日も私はお姉ちゃんに先生の愚痴を言う。そしてお姉ちゃんの返事はいつもこうだ。
「サチ、実際私たちは子供なんだからしょうがないでしょう?」
まぁ、確かにお姉ちゃんの言う事が正しいのかも知れない。先生は女子高生に好意をもたれたからと言ってほいほいと道を踏み外すような人ではない。極めて一般的な常識人である。だからと言って私が先生を諦めるはずもなく、そもそも先生と出会ってからもう2年が過ぎようとしている。私たちはもう大学生である。来年になったら成人よ?いつまでも子ども扱いされたら困ってしまう。そんな私を見てお姉ちゃんは秘密兵器を出してくれた。
「サチ、こうゆう時は攻めの一手よ。明日はこの服を着て行くといいわ。あっ、でもこれだとサチは合う靴を持ってないか・・。しょうがない、お姉ちゃんのとっておきを貸してあげる。」
そう言うとお姉ちゃんは綺麗な箱に入ったハイヒールを私の前に差し出した。
「えっ、いいの?このハイヒールって今まで絶対履かせてくれなかったのに。」
「コーディネートだからね。かわいい妹を足元だけセンスのない靴で行かせる訳にはいかないわ。」
「わーっ!お姉ちゃんありがとう!」
私はお姉ちゃんが一番大切にしている服と靴とを借りられた事に有頂天になった。
「今から少し家の周りを歩いてくるといいわ。いきなりだとマメが出来ちゃうかもしれないから。」
「うんっ、わかった。うわーっ、きれいな靴。ずっと憧れていたんだぁ~。」
「くれぐれも走っちゃ駄目よ。どこかのお嬢さまになったつもりで歩きなさい。」
「はい、姉上さま。それではちょっとお借りします。」
「あらあら、調子がいいんだから。」
その日、家の周りをお姉ちゃんの服とハイヒールで歩いた私への賛辞は、大抵次のようなものだった。
「あら、サチちゃん。きれいなお洋服ねぇ。馬子にも衣装とはよく言ったわ。」
う~んっ、世間様には私とお姉ちゃんってそんなに違って見えているのかしら?私たちって双子なのに・・。
研究所では私たちは色々な事を試される。時には病院でよく見る薄いブルーの診察用の服に着替えて注射や血圧を計ったり、なんか大きな機械の中に放り込まれてじっとしているなんて事もあった。でも大抵は色々なアクションに対する私とお姉ちゃんの反応を色々なセンサーを使って記録するだけである。だからそんな実験をする時は、私とお姉ちゃんが申し合わせをしないように間をカーテンとかで仕切る事が多かった。
先生は実験に誤差が出ないようにと気を使うのか、実験中は滅多に話しかけてくれない。私はそれが嫌で最初の頃は何かと先生に話しかけてしまい、実験データを駄目にしてしまった事が度々あった。でも先生はそんな私を叱る事もなく「もう一回やろう。」と言って許してくれる。
でもお姉ちゃんは私に厳しい。私が何かやらかした日には、決まっていつも帰りに私を叱ってくる。
「サチ、先生は仕事として実験をしているんだから邪魔しちゃ駄目でしょう。正確なデータが取れないと、多分先生は上の人から怒られるはずなのよ。」
「えーっ、だってぇ~。実験ってつまんないんだもん。」
「遊び気分でやっては駄目。先生、口には出さないけど困っているはずだわ。」
「うぅ~、そうなの?」
お姉ちゃんは私の弱点である先生絡みの事を例に出して攻めてくる。確かに先生が困るのは私も嫌だ。でもお姉ちゃんは鞭の後にはちゃんと飴も用意していた。
「データ取りが順調に進めば、残りの時間はお話し相手になってくれるんだから、そっちの方が断然お徳だと思うんだけど?」
「はぁ~、お姉ちゃんは判ってないなぁ。恋する乙女は1分1秒でも大切なんだよ。」
「相手の事も気遣いなさい。自分の思いだけをぶつけていては嫌われちゃうぞ。」
「ぶぅ~、お姉ちゃんはモテるから余裕よねぇ。でも一度、人を好きになれば私のこの焦りも判るはずだわ。好きな人に振り向いて貰いたいというこの感情は押さえきれないものなんだから!」
「はいはい、でもそれはそれ。だけど先生に好かれたいならもう少しいい子でいないとね。我侭ばかり言って嫌われちゃったら元も子もないでしょう?」
確かにお姉ちゃんの言う事は正論である。でもその言葉はお姉ちゃんと私の立ち位置が関係しているのだ。
「はぁ~、お姉ちゃんは先生に気に入られているからなぁ。」
そう、お姉ちゃんは先生に気に入られている。先生は私たちに接する時、必ずお姉ちゃんの方から声を掛けるのだ。初めは只単に姉と妹という関係上、お姉ちゃんを私たちの上位と考え気遣っているのかと思ったのだけど、そうでもないらしい。そう、先生は絶対お姉ちゃんを気に入っている。
「そんな事はないでしょう?と言うかあなたが先生の言う事を聞かないから、必然的に私を頼ってくるのよ。あなたがちゃんとすれば、先生だってあなたに目を向けてくれるわ。」
「そうかなぁ。」
「そうよ、だってそれが先生の仕事だもの。」
「それもなんだかなぁ。」
お姉ちゃんの忠告を受け、私は先生に話しかけたい衝動をぐっと堪える。でもこれってストレスなんじゃないかな?そんな状態でちゃんとしたデータが取れるのかしら?
そして今日も私たちは研究所へ通う。今日の私はいつもと違う。お姉ちゃんから借りた服と、とっておきのハイヒールで武装しているのである。あっ、なんか先生も気付いたみたい。なるほど、この手のコーディネートが先生のツボだったのか。さすがはお姉ちゃんだ、観察力が鋭いなぁ。
そんな先生も実験の説明に入ると大人の顔になる。
「さて、今日はちょっと新しい実験をしたいと思う。なに別に痛くはないから心配しないでくれ。ただ、ちょっと時間が掛かる。親御さんには連絡しておいたし、帰りはタクシーを呼ぶから心配しないでくれ。」
「え~、そんな話は聞いていなーいっ!」
私はここぞとばかりに先生にダダをこねる。最近は大人しくしていたので、ちょっとだけ先生を困らせるのも駆け引きのひとつなのだ。困らせておいてしぶしぶ受け入れれば、先生はほっとしていつも以上に優しく接してくれるのである。
「うん、ごめんな。でも最近取ったデータが僕の考えている予想に合致してきたから出来るだけ早く今回のパターンを取りたくなったんだ。間をおくとまたノイズが入るかもしれないからね。」
「う~っ、そうゆう事ならいいけれど・・。」
「それじゃ、この薬を飲んでくれ。これはちょっと精神の鍵をゆるくする作用があるはずなんだ。これによって今までのデータとどれくらい差が出るか確認したい。」
「ゆるくなるって?」
「大した事ではないさ。ちょっと感情が高ぶって涙もろくなったり、感動しやすくなったりするんだ。ただ、その度合いは人によるんでね。でも君たちみたいな似通った感応力をもった子で試すと誤差がでにくいはずなんだ。」
「えーっ、泣いちゃうのぉ?」
「はははっ、これでもかっていう感動系映画を用意したから気兼ねなく泣いてくれ。まっ、泣いているところを人に見られるのは嫌だろうから、その時僕は席を外すよ。」
「うーっ、別に先生になら見られても平気だけど・・。」
「それはどうも。でもさっきも言ったけどノイズは出来るだけ取り除きたいんだ。後、最初の映像はちょっと退屈かも知れないけど寝ないでくれよ。」
「はぁーっ、善処します。」
そうしていつものように実験が始まった。お姉ちゃんと私は間をカーテンで仕切られているので相手の姿は見えない。でも私は隣にお姉ちゃんがいることを強く実感できる。多分お姉ちゃんも同じだろう。ただそこに居るという事実を知っているからそう思うのではない。私たちはどこにいても相手の事を感じられるのだ。
暫くすると先生は席を外した。テレビ画面は退屈な環境ビデオを延々と映している。私は退屈なので先生の事を思う。
先生は今日の私をどう思っただろう。少しはドキドキしただろうか?私を女として見てくれただろうか?
ああっ、今日はいつもより先生に優しくされたい。先生の指で髪を触って貰いたい。あの目で私をじっと見つめて貰いたい。
・・・。
これはどうしたのだろう?今日は何故だかいつも以上に先生の事で頭がいっぱいだ。しかもなんだか艶かしい想いが心を染め上げている。もしかして先ほど飲んだ薬の作用なのだろうか?確かに私は先生が大好きだけど、ここまで一途に先生を思ったことはないような気がする。
しかし何故かこの感情には違和感がある。なんだろう?やっぱり薬のせいなのだろうか?心が高ぶって今まで押さえ込んでいた感情が弾けてしまったのだろうか?
その時、私の心に鋭い痛みを伴った感情が突き刺さった。これは私の感情ではない。となれば・・!
私はお姉ちゃんに何かが起こったのかとカーテンを開いて声を掛ける。
「お姉ちゃん!どこか具合が悪くなったの!」
しかし、その時お姉ちゃんは両手で顔を覆い下を向いて泣いていた。その間にもあの感情がお姉ちゃんの方から私に向かって押し寄せてくる。そして私は気付いた。この感情って・・。
私はお姉ちゃんから流れ込んでくる、狂おしいほどの感情の意味を知って立ち竦んだ。その為お姉ちゃんに声を掛ける事すらできない。そんな私の前でお姉ちゃんは声を殺して泣いていた。
「ごめんね・・、サチ。本当にごめんね・・。」
手で顔を覆い、下を向いて涙するお姉ちゃん。その震える感情が私の心に濁流となって流れ込む。
私はこの時、初めてお姉ちゃんが今まで硬く心の奥に閉じ込めていた感情を知った。
私とお姉ちゃんはお互いの心を分かち合う能力がある。しかし、だからと言って全てを曝け出す事はない。ちゃんと見せたくない事には鍵が掛けられるのだ。でも今は薬によってその鍵が開いてしまった。
お姉ちゃんの本当の気持ち・・。
私は今、お姉ちゃんの本当の気持ちを知ってしまった。お姉ちゃんがずっと私に隠し続けていた先生への思いを・・。しかし、子供な私はお姉ちゃんに声を掛けることも出来ずに、ただお姉ちゃんの傍らで呆然と立ち竦むだけだった。
お姉ちゃんの咽び泣く背中を見ながら私は漸く気付く。普段、私のお姉ちゃんはとっても身だしなみに気を使う。お洒落のセンスだって私の何倍もいいのだ。そんなお姉ちゃんが先生のところへ行く時だけはいつもだらしない格好だった。自慢の長い髪を梳かす事もなく、部屋着として普段使っているジャージにサンダルという、なんともズボラな姿で行くのだ。そのくせ、私にはちゃんとした服を着るように迫る。2回続けて同じ服が被らないように注意してくるし、今回は自分のお洒落な服まで貸してくれていた。
その理由が今判った。お姉ちゃんは前から先生に気に入られていた。そしてお姉ちゃんも先生を好きになったのだろう。だが、私が先生の事を好きになった事も感づいていた。でも、これだけなら私とお姉ちゃんはただのライバルでいられた。
だけど私が日々先生への思いをお姉ちゃんに聞かせ、舞い上がっている姿を見てお姉ちゃんはある決断をしたのだろう。そのきっかけは私の方が先に先生へ告白したことだったのかも知れない。
先生は私の告白を、恋に恋する子供の知恵熱と笑っていなしたが、所詮それは大人の思い違いだ。思春期の女の子にとって恋はいつだって真剣勝負である。
そしてそれはお姉ちゃんだって同じだったのだ。私とお姉ちゃんはたった十数分の違いで、姉と妹という立場を分け合った。お姉ちゃんは姉として、私は妹としてそれぞれの役を背負ったのだ。
同じ人を好きになる。これは別におかしな事ではないだろう。世の中では普通に起こっている事だと思う。
だけど私たちは、普通とは違う感能力で強く繋がっている。私の強い感情の揺らぎは何もしなくてもお姉ちゃんに伝わるのだ。逆にお姉ちゃんの感情も私に伝わってくる。そう・・、伝わってくるはずなのだ。でもお姉ちゃんはそんな気持ちに硬く鍵を掛け、私に知られることのないように振舞った。だから私は今日までお姉ちゃんの気持ちを知らなかった。
私に知られる事を恐れ、自分の心に硬く鍵を掛けたお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんの優しさを、事もあろうか今回先生から渡された薬が轢き千切ってしまった。いや、先生には他意はなかったのだろう。でも結果は残酷だった。
お姉ちゃんは薬によりそれまで隠していた感情が溢れ出てしまった。そして、私は感応力によってそれを知ってしまった。
私は今まで無邪気に先生への思いを所構わずに開放していた。だから、それを常に心で受けてしまったお姉ちゃんは敢えてこの競争から身を引いたのだろう。
思えば小さいころから私はお姉ちゃんと同じ物を欲しがった。最初はそんなに気に入らなくてもお姉ちゃんが使っていると、無性にそれが欲しくなったものだ。そして大抵はお姉ちゃんが根負けしてそれを私に渡してくれた。
もしかしたらこの私の恋心もその延長線にあるのかも知れない。最初にお姉ちゃんが先生を好きになったから私も先生を好きになったのかも知れない。いや、どちらが先と言う事ではないのだろう。だって私たちはふたりでひとつなのだから。
そんな事があった為、今回の実験は失敗となる。先生は泣き止まぬお姉ちゃんにおどおどしながら謝る。でも先生、それは余計にお姉ちゃんの心を痛めるから止めてあげて。
そして、研究室から帰る無言のタクシーの中で漸く私は一言だけ謝った。でもそんな私にお姉ちゃんは言う。
「しょうがないでしょう?だって私はお姉ちゃんなんだもの。」
たった十数分の違いで妹と呼ばれ続けることになった私。
たまたま先に産まれただけで姉でいることを運命付けられたお姉ちゃん。
生れ落ちたその時からお互いの気持ちに共感することが出来る、これが私たちに課せられたさだめなのか。
だから私は今日もお洒落な服を着て先生に会いに行く。だって、それがお姉ちゃんの気持ちだから。お姉ちゃんが自分の気持ちを殺して私に譲ってくれたものだから。残酷ではあるけど私にはとても大切なお姉ちゃんの気持ち。見た目はともかく性格なんかまるで違う私たちふたりだけど、まるでひとつのような私とお姉ちゃん。だから今までも分けられるものはいつもふたりで分けてきた。でも分けられないものが現れた時、身を引くのはいつもお姉ちゃんだった。そんな時のお姉ちゃんの口癖はいつもこうだった。
「しょうがないでしょう?だって私はお姉ちゃんなんだもの。」
そうか、そうゆうものなのか・・。でもお姉ちゃん。私も段々大人になるよ。そうなったら今度はお姉ちゃんに恩返しをしなくちゃね。でもきっとお姉ちゃんは多分笑ってこう言うだろう。
「妹の癖に生意気よ。」
-ごめんね 完-