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結
進めど進めど、終わりが見えない。
結われた道は、私を迷わせようとしている。
「ねぇ。」
ふと後ろから、本当の糸のような細くて綺麗な声が聞こえた。
振り向くとそこには、天使のような幼い身体に幼い顔、私を見上げる生気のない優しい目。
「あなたも迷子?」
子供にそう訊くと、予想外の答えが返ってきた。
「さっきまで。今はもう目的地についたから大丈夫。」
「えっ?じゃあその目的地って…」
「あなたのこと。」
そう言われても、私はこの子のことを知らない。
ましてやこの複雑な山、子供が一人で来れるはずが…
「そっちじゃないよ。」
「えっ、ああ。」
子供に手を引かれ、道なき道へ拐われる。
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子供は、迷うことなく突き進む。
その姿に頼もしさと、得体のしれない不気味さを感じる。
あるところで、子供は体を停めた。
そこは大樹の下だった。
葉は一枚もないが、
それぞれの枝が、まるで細い指のように枝分かれしている。
「ここ…」
登る際時に、チラッと見えた場所。
その時は見て見ぬふりして進んだが、こうして見るとやはり不気味。
「…いや、登る時に見たってことは!」
すぐそばに、見覚えのある道があった。
力が抜ける。
息が漏れる。
迷子から帰ってきた時の独特の安堵を噛み締めて振り向くと、そこには既に子供はいなかった。
疲れていたのか、知っていたのか、何故か不思議には思わなかった。
「ありがとう。」
大樹にそう伝え、山を下った。