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忘れられた神
さかな
世界の片隅、ノーリンデという国のルーンヴァルという街。
その街外れの薄暗い路地で、風に乗って何かが落ちてきた。
それはかつて、人々の祈りを集めていた神の|欠片《かけら》だった。 しかし今は、名前も力も、記憶もほとんど失われていた。
誰も気づかず、誰もそれを見向きもしない、まるで世界に忘れ去られたように、静かにそこに横たわっていた。
神は自らの存在を感じ取ることもできず、ただ朽ちるように力なく倒れていた。
その姿は、人間の形をしていたが、ぼろぼろの布をまとい、目は虚ろで、声もほとんど出なかった。
かつては|数多《あまた》の信仰と愛を受けていたが、今ではただの影だった。
通り過ぎる人々は、その影に足を止めることもなく、忙しそうに日常を過ごしている。
この世界に神など、もう必要ないのだと誰もが信じていた。 科学はすべてを説明し、人々は祈ることをやめてしまった。
その神の名は、もう誰にも知られていなかった。