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第3話 職場
❃虹色うさぎ❃
それから颯志以外の四人(颯志はどうやら来週から屋敷で雇われることが決まったらしい)は店の外に出て専属の運転手のいる車に乗り込むと朝星家の屋敷へと向かった。屋敷は赤レンガを基調とした西洋風の建物で、時計台や噴水、花などありとあらゆる優雅なものが勢揃いしており、まるで映画にでも出てきそうなほど美しい造形だった。車を下り、屋敷の中へと足を踏み入れると、立派な白髭を生やしたスーツ姿の使用人が出迎えに来た。
「お帰りなさいませ。旦那様。奥様。お嬢様。」
と深くお辞儀をし、その後に玲斗に気づいた様子で
「おや、御来客の方ですかな?はじめまして、私は執事長を務めさせて頂いております|羊川治《ひつじかわおさむ》と申します。以後、お見知りおきを…。」
とこれまた深くお辞儀をした。オドオドとしながら玲斗はこちらこそ、とお辞儀をした。今日だけで卒業式並みにお辞儀をしている気がする…。すると壮一が玲斗の紹介をした。
「こちらは崎口玲斗君だ。実は今日瑞希が迷子になってしまってね…。その時に瑞希を連れてきてくれたんだ。」
「それはそれは、そうでしたか。改めて私からも御礼を申し上げます。お嬢様を見つけて頂き有難う御座いました。」
羊川がもう一度玲斗に向かって頭を下げた。そして、
「それでなんだが、玲斗君は身寄りがないようでね…。御礼も兼ねて瑞希も珍しく懐いているものだから、学業に支障が無い範囲で瑞希の遊び相手として住み込みで働いて貰うことにしたんだ。」
と壮一が告げると、羊川は目をキランッと光らせて
「瑞希お嬢様が…!成る程成る程、そうで御座いましたか。それならば是非指導は私にお任せ下さい。必ずや立派な執事に育ててみせましょう。」
と嬉しそうに宣言した。
「あ、いや、あくまでも御礼を兼ねているのだからそこまで厳粛に指導しなくても…。それに別に執事という訳では…」
と壮一が慌てて訂正しようとすると、
「甘いですぞ。旦那様。瑞希お嬢様の遊び相手が必要なのはせいぜいあと数年程度でしょう。数年後も仕事を続けてもらうならば早いうちから何かスキルを身に着けて頂いた方が玲斗さんの為にもなりますぞ。」
と自信満々に説得してきた。玲斗は少し考えた末、
「そうですね…。では指導お願いします。羊川さん。」
と返事をした。
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それからとりあえず指導は明日からということで玲斗は案内された自室で頭の中を整理していた。
(今日はホントに色々あったなぁ…。ってか今更だけどそもそもオレが執事とか大丈夫だろうか?敬語苦手だし、何よりピアスも空けまくってて髪も染めてるぞ???その上で誘ったのだから服装は意外と自由なんだろうか…。)
するとドアがコンコンっとノックされたので、どうぞ、と返事をした。
「れいと〜!れいとはうちのこになったんだよね!?じゃあれいとのほうがおにいさんだけどおねえちゃんはわたし?」
とパタパタと入ってきた瑞希が満面の笑みを浮かべながら尋ねてきた。
「残念だけど使用人になったってだけで瑞希ちゃ…お嬢様の兄妹や家族になった訳じゃないんだ…ですよ?」
と返答した。すると瑞希は不機嫌そうな表情をする。そんなに姉という存在になることに憧れていたのだろうか…。と考えていると
「よびかたとしゃべりかたそれじゃやだ!」
とほっぺを膨らませて御立腹なご様子だ。使用人になるのだから敬うべきかと思ったのに中々難しいなと玲斗は思いつつも
「はいはい。わかったよ瑞希ちゃん?」
と呼びかけた。すると瑞希はご機嫌になった様で、うん!とニコニコとしながら返答をし、
「それと、さっきのまちがってるよ!ままもぱぱも、おうちではたらいてるひとはみんなかぞくだってゆってるもん!」
とえっへんと自慢気に話した。どうやらこの職場はかなりのホワイトのようだ。
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夕食の時間になり、本日二度目の豪華な食事と対面した。主食はパンでメインはハンバーグ、野菜スープやデザートなどが並べられている。
これは颯志の師匠が作った料理のようだ。食べてみると玲斗はまたもや、とろける様な笑みを浮かべながら味わって食べている。驚くべきことに全ての使用人が主人達と同じ食事を摂ることができるそうだ。なんと素晴らしい職場なのだろう…と玲斗が感動していると、この料理を作ったダンディな雰囲気の中年男性である颯志の師匠こと専属シェフが挨拶をしてきた。
「やぁ、話は聞いてるよ。私はこの屋敷の専属シェフの|志津山権三郎《しずやまごんざぶろう》だ。これからこの屋敷で働くんだって?宜しくお願いするよ…。」
と握手をする為手を差し出してきたのでそれに応えて握手をする。
「知ってると思うけど、私の弟子が来週からこの屋敷で働くんだ。この屋敷の中じゃ比較的年齢も近いだろうし仲良くしてやってくれると助かるよ。」
と微笑みながら言った。それに対し、玲斗は不器用に笑いながら
「こ、こちらこそ…!」
とペコリと勢い良く頭を下げた。
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その後、玲斗が自室へと戻り休息を取っていると再び扉がノックされた。来客者は先程と同じ瑞希である。手には瑞希の身体の幅と同じくらいの大きな赤ずきんの絵本を持っている。瑞希はパタパタと玲斗の元へと走ってきて、
「れいと!あかずきんさん、よんで?」
とキラキラした瞳をこちらに向けて頼んできた。玲斗は小学生の頃の音読はサボっていたので朗読には自信がないが、これからはこういったことが仕事になるのだろう。練習も兼ねて読んでみることにした。玲斗は、いいよ。と返事すると2人でソファーに腰掛け…ようとしたが結局瑞希は玲斗の膝の上へとよし登ってきた。余程のお気に入りポジションらしい。それから玲斗は朗読を始めた。
「赤ずきんは……」
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朗読し終わると瑞希はウトウトとしながら寝ぼけ眼を擦っていた。それを見た玲斗が
「そろそろ寝る時間だよ。部屋に戻れる?」
と尋ねると瑞希はコクンと頷き、おやすみなさい…。と言って扉の外へと姿を消した。それを見届けた玲斗は自分も寝ようと思い、ベッドに横になると疲れていたのか、スヤスヤと眠りの世界へと誘われたのだった…。