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#4
「……もういい! 九郎くんのバカ! 大嫌い!」
教室に響いたはじめの叫び声。いつも「大好き」を連発する彼女の口から出た正反対の言葉に、
九郎の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
原因は、九郎のちょっとした意地悪だった。
テストの点数が悪くて落ち込んでいたはじめに、九郎がいつもの調子で
「お前、本当に救いようのないバカだな」
と突き放したこと。いつもなら「ひどーい!」で済むはずが、
今日のはじめは、本当にもう限界だったようで、
はじめは涙を溜めたまま、荷物を掴んで教室を飛び出していった。
「…………チッ」
一人残された九郎は、机を拳で叩く。
あんな泣きそうな顔をさせるつもりじゃなかった。ただ、いつものように構ってほしかっただけなのに。
次の日。
「おはよ、九郎くん」
登校してきたはじめの声は、驚くほど冷静だった。
いつもの突撃タックルも、耳が痛くなるような「大好き」の連呼もない。
はじめは九郎の隣の席に座ると、教科書を開いて、一言も発さずに予習を始めた。
「…………おい」
九郎が声をかけても、はじめは視線すら合わせない。
「……なんか言えよ。無視か?」
「九郎くん、『うるさい』って言ってたでしょ? だから、静かにしてるだけだよ」
淡々と答えるはじめの横顔を見て、九郎は奥歯を噛み締めた。
(……ふざけんな。こんなの、俺の知ってるはじめじゃねーよ)
放課後。帰ろうとするはじめの手を、九郎が強引に掴んで空き教室に連れ込んだ。
「……何? 離してよ」
「離さねーよ。……謝ればいいんだろ。昨日は、その、言い過ぎた」
九郎は顔を真っ赤にして、絞り出すように言った。
でも、はじめはまだ無表情のままだ。
「……別に。九郎くんの言う通り、私バカだし。もう迷惑かけないようにするから」
「そうじゃねーよ! お前が静かだと、調子狂うんだよ!」
九郎ははじめの肩を掴んで、壁に押し付けた。
「……お前の『大好き』がないと、っ…本の内容も何もかも頭に入ってこねーんだよ。……悪い。俺が悪かったから。だから……」
九郎の声が、かすかに震える。
**「……また、うるさいくらい好きって言えよ。」**
その時、はじめの目から、ぽろりと大粒の涙がこぼれた。
「っ………う、…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 九郎くんのバカぁぁぁぁ!!」
「……わかってる。知ってるよ、」
九郎は観念したように、泣きじゃくるはじめをぎゅっと抱きしめた。
しばらくして、涙を拭いたはじめが、いつものニカッとした笑顔で九郎を見上げる。
「九郎くん、今の、録音したかった! 『大好きがないとダメ』だって! もっかい言って!」
「……調子乗んな。一回だけだ。……ったく、一生分焦ったわ