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ボクだけのキミ、愛す。 #2
「……望月さん、ちょっと職員室まで来てもらえるかな?」
5限の現代文が終わった直後、芹沢先生の声が教室に響いた。
新任で若いのに、やたらと生徒の様子を見ている。そんな風に言われている教師だった。
結は小さく頷いて、鞄を抱えたまま廊下に出た。
司の視線が、背中に刺さっているのを感じた。
先生は職員室ではなく、人気のない図書室横の資料準備室へと案内した。
「望月さん……ちょっと、気になってることがあるんだ」
「……はい」
芹沢は一拍、呼吸を置いてから言った。
「最近、御影くんと一緒にいることが多いよね。放課後も、昼休みも。正直、君の様子が少し……変
わったように見えて」
結は、瞬きもせずに先生を見つめた。
「変わってません。私、普通です」
「……本当に?」
その“優しい問いかけ”が、結にはノイズのように響いた。
(どうして、みんな“普通”に戻そうとするの?
やっと見つけた“特別”を、こんなに簡単に否定しないで)
「ごめんね。君のことを心配してるだけだ」
先生が軽く肩に触れた瞬間__。
「……どいて」
その言葉は、想像よりも冷たくて、はっきりしていた。
放課後。
屋上には、いつも通り 司がいた。
彼の前に立った結は、すぐに口を開いた。
「……先生に、話しかけられた」
司の目が、一瞬だけ細くなる。
「……何を聞かれた?」
「司くんとのこと。全部は言ってないよ。……でも、ちょっと肩に触られた」
その瞬間、風が止まったような気がした。
「どっちの肩?」
「……左、だけど――」
言い終わる前に、司の手がそっと結の肩に触れた。
それは優しく、けれど圧のある、まるで“上書き”するような触れ方だった。
「気持ち悪いものは、全部、俺が消す」
結は、目を細めて笑った。
「うん。……ありがとう。司くんに触れられると、全部忘れられる」
その言葉に、司の顔がほんの一瞬だけ柔らかくなる。
「……次から、勝手に話さなくていい。何かあったら、まず俺に報告。それが、お前のルール」
「……はい、わかりました、御影様」
そう呟いたとき、結の口元に、初めて“自発的な微笑み”が浮かんでいた。
それは、どこかおかしいほど、幸せそうで___
見た人間すべてが「これは愛じゃない」と言いたくなるような、危うさに満ちていた。