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0.クランは、学園に入学する
フィメイア学園――フィメイア王国にある、由緒正しき学園。貴族はどんなに頭が悪くても入らないといけない。そして、平民も、自身が望み、それに伴うものを持っていれば入ることが出来る学園――その、入学式が、今、行われている。
そして、わたくし、クラン・ヒマリアも、その入学者のうちの一人よ。
入学前には、試験があるのだけれど……それで圧倒的な実力を見せてしまったのよね。
いえ、これには深〜い理由があるのよ?
ただ、思っていたよりも皆様が弱いようで……いえ、これ以上言うのは辞めましょう。
まあ、そんなわけで、王族を抜いて、首席入学者となってしまった人物。それがわたくし、クラン・ヒマリア。
いえね、昔は特に注目されることも無かったから。そう、わたくしは1年間の神殿への滞在を経て、いろいろ変わってしまったようだわ。それとも、他の貴族の方々が、神殿でぬるま湯に浸かってしまっていたのか。
まあどちらかは分からないけれど、そんな感じで、神殿でもちゃんと鍛錬をしていたわたくしが首席入学者になってしまった。簡潔に説明すれば、それだけよ。
これからは特に鍛錬する必要もないし、逆に他の方々は力を戻してくるでしょうから、きっと1位ではいられないはずよ。
(※そんなはずがありません)
それはともかく、首席入学者は言わずもがな、新入生代表挨拶を任されてしまうの。最悪よね。
「次に、新入生代表挨拶、クラン・ヒマリア」
ほら、そう考えたら呼ばれたわ。
さっそく来賓がガヤガヤしているわね。
まったく、王族だって人よ? それなりの高度な教育を受けているからと言って、どうして1位になるのが当たり前のようになっているのかしら?
そういうふうな固まった考え方、嫌いだわ。
「桜の花も散るようになってきました。本日は、わたくしたちのために、このような立派な式を開いて下さり、誠にありがとうございます。……」
あ~あ、こういうとき、貴族じゃなかったら、簡単に言って終わらせることが出来るのでしょうね。
わたくしは貴族、それも公爵令嬢のせいで、下手な挨拶をしたら恥をかいてしまうじゃない。実に迷惑よ。
そんな面倒くさいものもあったけど、無事に式は終わったわ。
わたくしは入年生の中での最上位クラス、S組らしいわ。さすがわたくし。
「あれが、王族を抜いたっていう、クラン・ヒマリア様?」
「そうらしいわ。……あまり好きになれなさそう」
「わかるわ。女のくせに出しゃばっているようでいやね」
「そんな理由じゃないよ!」
「え?」
「それだとアナ様とソラレーラ様も否定することになるわ」
「それもそうね。だったらなんでなの?」
「アナ様とソラレーラ様は皆に等しく接するじゃない? だけどあの人は一人で過ごしてそう」
「あぁ、わかるわ」
「だから好きになれなさそうなのよ」
「たしかにね。あ、デスマール様だわ!」
「本当ね! 行きましょう!」
さっそく酷いことを言われているようね。
でもまあ、人と喋らなさそう、というのは事実かしら。これから人と喋るつもりはないもの。
……さて、わたくしはこれからどうしましょうか。
呪いがあるため、あまり人と喋らないほうがいいわよね?
人から話しかけられないためには……実力を隠しましょう。きっと、これだけでもかなりの人が話しかけてこなくなるわ。
皆様が、求めているものは結果だもの。結果を出さなければ、何の問題もないわ。
◇
(心の神視点)
そして、僕のお気に入りのクランは一時的な平和な生活を、時々は話しかけられながらも手に入れたんだ。
クランは、実力を隠したたから、クランの実力は先生たちの間で、議論されることもあったらしいよ。だけれど、クランに積極的に関わってくることはなかった。
授業も、クランが出す、当てるな、という圧に負けて、誰もがクランを当てないようになった。
ふふふ、そうやって我を通すクラン、やっぱり面白い。
だけど、そんないいことばかりではなくてね、そんな風に喋らない様子は、「孤高」そのままであったから、クランは、「孤高の公爵令嬢」と呼ばれるようになっちゃったんだ。可愛そう。
そして、時は平穏なまま、9月下旬に流れる。
正直その間は見てても普通のことだった。ただただ同じように過ぎる毎日。だんだん時々しか様子を見ないようになった。え? 何? その分他の人を観察していたから、ちゃんと神様としての娯楽……いや、仕事はやっているよ? 心配しないで。
その日は偶然見ただけだった。
起こったことは、本当に些細なことだったんだけれどね、それはクランの平穏を壊すには十分だったんだ。
面白くなりそうだけれど、クランが困るのは少し困るなぁ。
そんなことを土(の神)に言ったら、
「じゃあ俺も遊んでみよう」
なんて言われたよ。
……クランを困らせちゃった。
まあそんなわけで。
これは、「孤高の公爵令嬢」クラン・ヒマリアが、混乱に巻き込まれ、時には巻き込みながら、僕たちを楽しませて日々を過ごす話。
これは、ただ生きているだけで影響を与えて、楽しませてくれる少女の物語。
そして、僕たち神は、それを楽しみにしている。
クランは、実力に、呪いに、僕のお気に入り、と混乱の要素をたくさん持っているんだ。想像しても想像しきれない。
だから、まさかクランが僕に会いに来るまで切羽詰まる出来事が起こるなんてことも、まったく予想できなかった。
そこの説明はきっとクランが時系列順にしてくれる。
だから、僕はその舞台のお膳立てをしてるだけ。
ぜひ、クランのもがきを見てやって、楽しんでほしいと僕は思う。
それじゃあまた今度、機会があれば会おうね! バイバイ!