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隣の学校の元ヤンに恋をする
英加扠
手首を掴んでいた手を離される。「そういえばお名前を伺っていませんでしたね」彼が話す「僕は渚、川島渚です。エヴァンゲリオンの渚カヲルの渚に、川の島とかきます。」「私は衣鶴です。水上衣鶴。ころもに鶴、水の上です。」「左様ですか」___会話が続かない。なんだこの気まずいのは。「どこの学校に通ってるんですか?」「鳳来高校です。川島さんは?」「時津風津です」「あ、隣の学校。今は何年生なんですか?」「高校二年生です、貴方は?」「同い年です」同い年…、この人の顔のせいか年下に見えたということは黙っておいたほうがいい情報である。彼の家を出ると、ヒグラシの鳴き声、昼よりは落ちた太陽、息を吸い込むと、ムシムシとした空気が肺いっぱいに溜まっていく感じがする。「では、これで」今度こそとその家から離れるようにすると。「この家から、バス停までの道、分かるんですか?」…分からん。「…あの」「なんでしょう」「バス停」「はい」「一緒に」「ええ」行ってくださいでいいのか?ほぼ赤の他人に一緒に行ってくださいなんて言っていいのか?「言わなきゃわかりませんよ?」スマイリーの絵文字並ににっこり笑っている川島さんに腹が立つ。殴りたいこの笑顔ってこのことを言うのか。「い、一緒に行ってください。」思わず小さな声になる。「はい」執事のように胸に手を当てて、悪びれなく言う。歩き始めて気がつく。あれ、この人は倒れてた私を助けてくれたんだよね?たおれてたんだよ?なんで119でも7119でもなく部屋に運んだ?いくら動揺してても、自分家運ぶか?そっと川島さんの方を見ると、また貼り付けたようににっこりとした笑みを返された。何も聞くな、と言っているように。「へえへえ」ぼそっと呟きながら歩みを進める。歩みを進めて行く。「彼方に見えますのがバス停でございます。」バスガイドのように優雅に言われる。「あ、じゃあこれで」「はい、‘’また‘’会いましょうね」「はい、ありがとうございました。」さっとお辞儀をしてその場からさり、冷房の効いたバス車内に乗り込む。極楽極楽。
でも…
「‘’また‘’ってなによ…」 いつもの定位置に座りながらつぶやいた。