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古代文明、それは歴史を紐解く鍵
視界が戻ると、そこは広大な平原と大きな川の流れる地だった。辺りには人々が集まり、畑を耕し、動物を飼い、道具を使って働いている。
「ここが、人類が『文明』を築き始めた時代――」
Mが語りかける。
「『農耕』と『牧畜』が進み、生活が安定すると、余った食料を持つ人たちが出てくる。そして、その富をもとに、人々の間には身分の差ができていった。力のある者が、弱い者を支配する。そこから『国』が生まれたんだ。」
人々の暮らしが形を持ち始め、集まった村はやがて都市へ、そして『文明』へと変わっていく――。
「『文明』は、だいたい『大きな川』のそばで生まれている。なぜか分かるかい?」
誰かが「水が必要だから?」とつぶやくと、Mは嬉しそうに頷いた。
「その通り! 水は飲み水になるし、農業にも欠かせない。それに、洪水が起きれば土地が豊かになって、作物がよく育つようになる。さあ、最初の文明へ案内しよう。」
次はどんな光景が待ち受けているのか。
そう考えていると、目の前に大きな川が見えた。
「ここはアフリカ、ナイル川のほとり。『エジプト文明』だよ。」
大きな石の建物がそびえ立ち、川沿いには整然とした畑。太陽が燦々と照っている。
「『エジプト』では『太陽暦』が使われていた。太陽の動きをもとにして、1年を365日と考えたんだ。今のカレンダーの原型さ。」
石に刻まれた不思議な記号を指差しながらMが言う。
「これは『象形文字』。絵のような形で言葉や意味を表していたんだ。」
そのとき、巨大な三角形の建物が見える。
「『ピラミッド』だよ。王の墓とされている。信じられない大きさだろう? 数千年前の人間がこれを造ったなんて、ロマンがあるだろう?」
君たちは、目の前に見える歴史の産物を見上げる。
こんなものが昔からあったなんて信じられるだろうか。
場所が変わると、今度は乾いた大地に2本の大きな川が流れていた。『チグリス川』と『ユーフラテス川』である。
「ここは『メソポタミア』。川の間って意味だね。ここでも農耕が発展して、都市ができ、文明が生まれたんだよ。」
空を見上げると、星が瞬いている。
「『|七曜星《しちようせい》』――『太陽』『月』『火星』『水星』『木星』『金星』『土星』の7つが、人々にとって特別な天体だったんだ。」
星が出る時間帯になるまで活動していたことに君たちは驚いた。
「そして、時間を数えるのに『60進法』が使われた。『1分が60秒』『1時間が60分』、今も残っている名残さ。」
川辺に置かれた粘土板に、先が三角の棒で記号が刻まれていく。
「これが『くさび形文字』だ。象形文字に比べて簡単で、粘土にも書ける。でもメソポタミアでは『太陰暦』、つまり月の満ち欠けをもとにしたカレンダーを使っていたよ。」
そして、巨大な石碑の前でMは立ち止まる。
「『ハンムラビ法典』。法律っていうのは、みんなが安心して暮らすためのルール。これは『目には目を、歯には歯を』の考えで有名だけど、力ある者が勝手に支配するのを防ぐ意図もあったんだ。」
君たちは、今あるルールに不満はあるだろうか。
もし、あるとするならそのルールの意図を考えてほしい。
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視界が変わると、整った街並みが現れた。石でできた道、水の流れる水路、区画が整った建物群。
「ここはインダス川流域の『インダス文明』。『モヘンジョダロ』や『ハラッパー』という都市があった。」
人々が道を掃除し、水を運ぶ様子が見える。
君たちは、今では見ることのない光景に目を奪われる。
「でも、この文明はまだまだ分からないことが多い。使っていた文字も、まだ解読できていないんだ。だから『謎の文明』とも言われているよ。」
歴史にも、解明されていないことはある。
本当はどうだったのか、それを考えるのも面白いかもしれない。
「ここは『中国』。『黄河』と『長江』という2つの大きな川が流れている。」
大河のそばで人々が働いている。
「『殷』という国が最初の王朝として知られているよ。青銅器で武器や器を作った時代でもある。さらに、『甲骨文字』っていう占いに使った文字も登場した。」
意味はさっぱり分からないが、骨に刻まれた文字が、その思いを物語っている。
「でも殷は『周』に滅ぼされた。そして周の力も、紀元前8世紀ごろには弱まって、中国全土が争いの時代に入っていく。」
「この時代は『春秋時代』と『戦国時代』。多くの『国』が争い、『鉄製の兵器』や『農具』が使われるようになった。『農業』や『商業』も発展して、人々の暮らしも変わっていく。」
静かな建物の中で、一人の男が子どもたちに語りかけている。
「『孔子』だ。彼は『儒学』という考えを説いた。『親を大切に』『礼を守る』といった道徳の考えが、後の中国に大きな影響を与えたんだ。」
当たり前のことを当たり前にすること。
それが、大切なことであると気づかされる。
「ここは『秦』。『始皇帝』が中国を初めて統一した。文字や長さ・重さ・容積を統一し、『万里の長城』も築いたよ。」
その後、空気が少し穏やかになった。
「『漢』の時代。武帝って人は領土を広げ、交易の道『シルクロード』が開かれた。これによって西の国々とつながるようになり、仏教もインドから伝わってきたんだ。」
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ヨーロッパの青い海のほとり、小高い丘の上に白い建物が立つ。
「ここは古代ギリシャ。アテネやスパルタのような『ポリス』が生まれたよ。」
アテネの広場では、男たちが集まり、政治について話し合っている。
「これが『民主政』の始まり。市民が政治を決めるという考え方が生まれたんだ。」
歩き続けると風景が一変し、戦いと行進の光景が広がる。
「マケドニアのアレクサンドロス大王が、ギリシャを征服し、東へと進んだ。」
「こうして、ギリシャとオリエント―――、つまり西アジアやエジプトの文化が融合して『ヘレニズム文化』が生まれたんだ。」
そして――巨大な石の競技場、『コロッセオ』が見えてきた。
「ここは『ローマ帝国』。最初は共和政だったけど、内乱が続き、帝政になった。長さ、重さ、容積を統一し、道路網や水道、浴場』、闘技場など、現代にもつながる都市の形を整えた。」
夜の星空の下、人々が空を見上げて祈っている。
「自然現象に人間を超えた力を感じるようになったとき、人々は神という存在を信じるようになった。」
Mは優しく語りかける。
「そして、仏教やキリスト教、イスラム教といった、今に続く大きな宗教が誕生したんだ。人々の心に寄り添い、希望を与えるためにね。」
「さあ、ここまでが古代文明の物語。でも、歴史はまだまだ続いていく。」
Mが再び指を鳴らす。視界が揺れ、君たちはまた新たな時代へ――。