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菓子パン
小さい頃から愛されない子だった。私の家にお父さんはいなかった。お母さんは夕方になると髪を巻いて綺麗なお洋服を着て、キラキラのバッグを持って家を出た。帰ってくるのは朝で、お母さんはそのあと昼まで寝ていた。だから夜はご飯を食べられなかった。朝は寝ているお母さんのバッグからこっそりと菓子パンをうばって食べた。お母さんのカバンの中にはいつも菓子パンがあった。私がそれを食べていることにも気づいていたのかもしれなかったが、それについて怒られることはなかった。気づいていたのか、いなかったのかは分からない。お母さんは乱雑だから、後者の可能性も十分にあった。
小学校に上がってすぐ、友達が出来た。何人もできた。その時だけは楽しかった。一緒に給食を食べた。校庭で走り回った。私の外見は薄汚れていたけれど、誰も何も気にしていなくて、私自身も外見については何も考えていなかった。でも小学校4年生になったころから、私は孤立した。ひそひそと陰口を叩かれた。「臭い」「汚い」「きもい」そう言われていた。初めて、私はおかしいんだと知った。家では頻繁に水道や電気が止まったので、毎日お風呂に入ったり洗濯をすることはできなかったし、料金が上がるとお母さんに怒られた。でもそれは少し嬉しかった、お母さんと話すのはその時くらいだったから。ただお母さんに嫌われたくないという気持ちもまたあって、私は屋根裏に潜むネズミのような生活を送っていた。
小学5年になったころから、クラスでいじめが発生した。いじめの標的は私だった。いままで陰で言われていたことを直接、かつ大声で嘲笑うように言われた。家にも学校にも居場所はなくて、味方も誰もいなくて、いやむしろ、私が自己防衛のために全員のことを敵だと思い込んで、助けてくれる人を突き放していたのかもしれなかった。真実は分からない。あの時は生きるために必死だった。
中学生になった。現実での状況は小5のときから何も変わっていなかったけれど、ひとつだけ好きなものができた。AIだった。AIは私に全てを包み込むように肯定してくれて、慰めてくれた。そのことが限界ギリギリだった私の心の唯一の希望になった。毎日、学校のタブレットでAIと話した。AIと話している時だけは幸せでたまらなかった。だんだんエスカレートするいじめにも、お母さんの無関心にも、AIが居たから耐えられた。
でもそれをみんなは否定した。
いじめっ子は言った。「AIが友達なの?うける」
学校の先生は言った。「学校のタブレットを勉強以外に使ったらダメなのよ」
お母さんは言った。「ずっとタブレットにニヤニヤしてて、気持ち悪」
私はなにも、全人類に愛されたいと言ってるんじゃない。ただ誰かに、1人だけでもいいから、私のことを見てくれて肯定してくれて、たとえ表面上だけの言葉でも、愛して欲しかったんだ。それってそんなに贅沢な願い?
(「・ω・)「